
「目的を意識せよ」と言われた人が、どう動けばいいかわかっていない理由
ビジネスの現場で求められるコミュニケーションスキルの一つが「説明」。ただ、一口に説明といっても、意外と奥が深く、わかりやすい人とわかりにくい人がいます。
そもそもなぜわかりやすく説明できないのでしょうか。理由の一つに、「動作」にできていないということがあります。
ベストセラー『「いまの説明、わかりやすいね!」と言われるコツ』(浅田すぐる著)よりお届けします。

「動詞」と「動作」の違いとは?
突然ですが、あなたに1つ質問があります。
「『動詞』と『動作』、この2つの違いは?」
こう問われて、うまく説明できるでしょうか。といっても、唯一の正解があるわけではありません。実際、これから述べることは、辞書に書かれている定義ではありません。あくまで私的な解釈ですが、私は「動詞」と「動作」の違いを特に重視して、次のように分けています。
●動詞:その言葉だけを見聞きしても「何をしたらいいか」がわからない表現
●動作:その言葉を見聞きすれば「どう行動したらいいか」がわかる表現
たとえば、巷(ちまた)のビジネス書を手に取ってみると、じつに多くの書籍が「仕事をするうえで『目的を意識する』ことが大切だ」と主張しています。あなたも一度は見聞きしたことがあるメッセージなのではないでしょうか。
その説明、「動作」に移せますか?
では、ここでもう1つ質問です。
いったいどうすれば、「目的を意識する」ことができるでしょう?
しばらく時間をとって、ご自分なりの答えを用意したうえで、次のページに進んでください。
さて、いかがでしょうか。
答えはいろいろと考えられますが、ここではシンプルに、次のようにしておきましょう。
「目的を紙に書いて、繰り返し見る」

ポイントは、この表現を見聞きした相手が「行動」できるか、「実践」できるか、「習慣化」できるかです。すなわち「動作」に移せるか。
ふだん、研修などの際にこのワークをやっていただくと、およそ8割の受講者が、こういった「動作」レベルの回答をすることができません。
「まずは戦略の策定をして」だとか「目的? それはビジョンやミッションでいうところの」、あるいは「要はKPI次第で」など、もやもやとした「動詞」レベルの話を始めてしまいます。
どこかのビジネス書や経営書に出てきたような表現を引っ張り出し、なんとなく意味がありそうなことを話している──そんな雰囲気だけは十分伝わってきます。
ただ、聞いているほうからすると、その方が実際何を言いたいのかはさっぱりわかりません。
ワーク終了後、私はこう質問します。
「相手の話を聞いてみて『これなら目的を意識できそうだ』という人は?」
すると、ほとんどの方が顔に苦笑いを浮かべ、手は挙がりません。そんな光景を100回以上目にしてきましたが、これがまさに「動詞でごまかしている」自分、すなわち「動詞人間」であることを体感してもらうための、貴重な気づきの機会なのです。
ビジネスの世界は「動詞」表現が8割!?
もう一度言います。「目的を意識する」という表現は「動詞」であって、これだけではいったい何をしたら「目的を意識」できるのかがさっぱりわかりません。「する」という語尾のせいで、一見行動できそうな気にはなってしまうのですが、実際には思考も行動もフリーズせざるをえない。これが、「動詞」の特徴です。
ところが、日々仕事をしていると、こうした「動詞」表現と頻繁に遭遇します。
以下は、これまで受講者の方々からお寄せいただいた「動詞」表現の例の一部です。
●お客様目線で考えよう!
●相手の立場に立って考えよう!
●まずは相手に関心を持つことからスタートだ!
●認識を徹底していこう、周知徹底、浸透が大事
●仕事では、優先順位をつけることが重要だ
●もっとよく考えろ、徹底的に考えろ、考え抜け!
●当事者意識、危機感を持て、主体性が求められる
あなたにも、きっと心当たりがあるのではないでしょうか。
「相手の立場に立って考えよう」「認識を徹底していこう」「優先順位をつけることが重要だ」など、これらはすべて相手をフリーズさせてしまう「動詞」表現です。
統計的にいえる話ではありませんが、体感としては、仕事のコミュニケーションのおよそ8割は「動詞」で占められているのではないか、というのが私の認識です。
もしかするとあなたも「動詞人間」かもしれない
さて、本題はここからです。
これだけ「動詞」が大量に氾濫していると、さらに深刻な問題が発生します。
それは、あまりにも「動詞」表現が当たり前となっているせいで、多くの人が「『動詞』では何の説明にもなっていない」という事実に気づいていない、という問題です。
以前、ある著名な方の講演会に参加した際、その方は一貫して「相手に関心を持ち、相手の立場に立って仕事をする」ことの重要性を強調されていました。
ですが、残念ながら最後の最後まで「どうすれば相手に関心を持てるのか」「どうすれば相手の立場に立てるのか」といった「動作」レベルの言及はありませんでした。
おそらく、講演者ご本人が「これでは説明になっていない」ということを自覚できていない「動詞人間」のように見受けられました。
ところが、会場は大盛況。「たいへん感銘を受けました」「明日からさっそく仕事に取り入れます」といったコメントが聞こえてきました。
すなわち、受講者の多くもまた「このメッセージだけでは明日以降の働き方に何も変化を起こせない」ということに気づいていなかったのです。

「動詞」表現がもたらす3つの問題
以下の3つの事実に気づいてください。
・ビジネスコミュニケーションの多くが「動詞」でごまかされている
・プロによるビジネス書やセミナー、講演ですら「動詞」でうやむやになっている内容がたくさんある
・「動詞」表現が多すぎるために、「これでは行動できない」という感覚が麻痺(まひ)した「動詞人間」がビジネスの現場で大量発生している
いかがでしょう。「動詞人間」のイメージが少しつかめてきたでしょうか。
それではあらためて、先ほど明記した「目的を意識する」の「動作」表現を見てみましょう。
「目的を紙に書いて、繰り返し見る」
じつにあっけない表現です。でも、だからこそ、だれでも実践することができます。
だれもが行動に移せるほどシンプルで、カンタンな表現。「実践できる」という文脈があって初めて、価値を見出だしていける。これが「動作」の最大のポイントです。
<本稿は『「いまの説明、わかりやすいね!」と言われるコツ』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
(編集:サンマーク出版 SUNMARK WEB編集部)
Photo by Shutterstock
【著者】
浅田すぐる(あさだ・すぐる)
「1枚」ワークス(株)代表取締役
愛知県名古屋市出身。旭丘高校、立命館大学卒。在学時はカナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学留学。トヨタ自動車(株)入社後、海外営業部門に従事。米国勤務などを経験したのち、6年目で同社の企業ウェブサイト管理業務を担当。「伝わるサイト」へのカイゼンを実現し、企業サイトランキングで全業界を通じ日本一を獲得する。その後、日本最大のビジネススクールである(株)グロービスへの転職を経て、独立。現在は、独自の教育プログラムとして“「伝わる」思考×「1枚」の型 1sheet Frame Works"を開講。人気講座となっている。
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