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誰かのこと、過去の後悔、嫌な気持ちはいったん忘れて「ご自分を大切に」

 過去は忘れて、未来の心配も保留に。後悔しない、競争しない、我慢しすぎない、「今」の歩き方。

 89歳で開院。いまなお現役。「また寄りたくなる」と評判の漢方心療内科医の“軽くなる”生き方指南書として、小学生から90代まで幅広い世代に読まれ累計15万部を突破しているベストセラー『ほどよく忘れて生きていく 91歳の心療内科医の心がラクになる診察室』より冒頭の試し読みをお届けします。

『ほどよく忘れて生きていく 
91歳の心療内科医の心がラクになる診察室』

 京都市左京区下鴨。

 下鴨神社にほど近い、とあるビルの一室に、そのクリニックはあります。

 広いとは言えない診察室で手渡されるのは、お守りのような「大丈夫ですよ」の言葉でした。

はじめに

「ご自分を大切になさってくださいね」

 患者さんが帰られるとき、私はいつもそうお伝えします。

「お大事に」という病院の帰りに使われる定型文ではなくて

「ご自分を大切にしてください」と。

「あなたは大切な大切な存在であること。自分を癒そうと、ここを訪れたことに、私は敬意を持って接していること。私はできるかぎりのことをしたので、あとは、あなた自身が自分をいたわり、養生して元気になってくださいね」

 本来、「お大事に」という言葉には、そんな思いが詰まっています。

 でも、あたりまえのように病院で投げかけられる定型文では、ここに込められた意味を受け取ることができなくなっていることも事実でしょう。

 いつもと違う言葉によって、本来の意味が患者さんの心に届くことを祈りながら、目を見て「ご自分を大切にしてくださいね」と伝えると、多くの方がハッとした顔をされます。

 それだけ、自分を後回しにしている方も多いのかもしれません。

 人は社会性を持つ生き物です。誰もが少なからず、誰かのために心とからだを砕いて生きています。

 自分ひとりだけで生きていたなら、起きないことや感じないさまざまな困難を抱えながらも、やっぱり人は、ひとりでは生きられない。

 だからこそ、普段から大切にしてほしいのは、何より自分を大切にすること。

 自分を後回しにしないことです。

「誰か」のために、毎日を駆け抜けてきた人こそ、ほどよい加減で、その誰かを「忘れてみる」と、自分を大切にできたり、自分の気持ちに気づけたりするかもしれません。

「後悔」に囚われている人も、それを「忘れてみる」ことで、新しい挑戦をはじめることができるかもしれません。

 私は産婦人科医として7年間、そして精神科医として30年以上、患者さんからたくさんのことを教えてもらいましたが、この本を通してお伝えしたいのは、他の誰でもなく、自分から目をそらさないでほしいということ。

 自分をまっさきに大事にし、自分の声を聞き、自分をいたわり慈しむこと。そのために、「忘れていいこと」と、その反対の「大切に心に留め置きたいこと」を提案してみたいと思います。必要ないものを「忘れる」ことで、自分が本当に大切にすべきものごとが見えてきます。

 だからあなたも、誰かのことはいったん忘れて「ご自分を大切になさってくださいね」。

「そうは言っても、いやな気持ちとか、後悔とか、忘れたくても忘れられないものじゃないですか?」

 そんな声が聞こえてきそうです。実際に、クリニックでそう言われたこともあります。翌日に持ち越してしまうどころか、ずっと昔のことなのに、魚の小骨のように、胸につかえて今でもとれることがないと。

 私自身は、いやな感情や、思いどおりにならなかったできごとへの残念な思いやネガティブな気持ちを、翌日に持ち越すことはほとんどしません。

 その秘訣は、実は本当に簡単な方法です。

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【著者】
藤井英子(ふじい・ひでこ)
漢方心療内科藤井医院院長、医学博士