42.195kmに挑むランナー「直前の食事」何が適切か
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「ランニング」もやり方次第で糖質疲労
ランニングの際、「カーボローディング」と呼ばれる食事法があるのをご存じでしょうか。長距離ランナーなどが試合前に大量の糖質を摂取し、筋肉内のグリコーゲン量を上げ、持久力の最大化をねらう、という概念がカーボローディングです。
しかし、カーボローディングでパフォーマンスを低下させた経験のあるアスリートは相応にいらっしゃるようです。そうしたアスリートは、経験則として、普段から糖質を控え、脂肪をエネルギーとして使える体をつくり、試合でも脂肪を燃やして持久力を高めるという「ファットアダプテーション」という食事法を採用しています。
カーボローディングの概念は、古く1967年の論文で、糖質制限をすると、筋肉内のグリコーゲン量が減っていて、筋肉内のグリコーゲン量と疲労困憊するまでの運動可能時間とが相関していたという研究に依っています。この研究では、糖質制限食(高脂質食)に切り替えてからすぐに筋肉の検査をしており、脂肪に適応(ファットアダプテーション)する時間が不足していたことがわかっています。
通常、この適応(糖質をエネルギー源としている人が、脂肪をエネルギーとして使えるようになる)には、2〜4週間必要と考えられています。
さらには、疲労困憊までの運動可能時間と筋肉内グリコーゲン量とは無関係であり、低血糖こそが疲労困憊を決定していたとの論文がその後に出されています。実は1967年の論文でも、筋肉内グリコーゲン量ではなく、低血糖が運動可能時間を決定しているとの解釈も可能な結果でした。
さらに、高糖質食(カーボローディング)と低糖質・高脂質食(ファットアダプテーション)を普段から実施しているアスリートの筋肉内のグリコーゲン量を調べた研究結果では、運動前の筋肉内のグリコーゲン量に差異はありませんでした。そうなのです。カーボローディングは筋肉内グリコーゲン量とは無関係だったのです。
その後、アスリートたちは最大酸素摂取量の65%程度(中等度)の運動を3時間行い、直後にグリコーゲン量を測定し、さらに2時間安静にした後、グリコーゲン回復度を調べました。ちなみに運動後の安静時には、高糖質食の選手には高糖質ドリンク、低糖質・高脂質食の選手には低糖質・高脂質のドリンクが提供されました。
研究の結果は次のとおりです。
運動前と同様、筋肉内のグリコーゲン量に食事法間での有意な差はありませんでした。
3時間の運動中、ファットアダプテーションの選手は安定して脂質を主なエネルギー源としていました。カーボローディングの選手は運動を開始した直後は著しくグリコーゲンをエネルギーとして消費していましたが、その後はグリコーゲン量が枯渇したためなのか、エネルギー源を脂質に切り替えていました。
グリコーゲンは体内に数百gしかありません。逆に脂質は体内に数キログラム蓄えられています。そもそもの量から考えても、安定したエネルギー源として「脂質」をチョイスするファットアダプテーションは合理的という考え方があるのです。
走る直前の「バナナ」「エナジードリンク」は糖質疲労を起こす
余談ながら、大規模フルマラソンや駅伝で走る前に糖質を多く含むスポーツドリンクをランナーが飲むのには低血糖のリスクがあります。バナナやおにぎり、エナジードリンクなどでも同じです。
運動前に高血糖を来すと、その後に急峻な血糖の下降が生じて(つまり、血糖値スパイクを生じて)糖質疲労を起こします。持久力が上がるどころか、パフォーマンスが低下してしまうでしょう。さらに、もっとひどくなると、完全に低血糖(70㎎/㎗以下)になり、動けなくなってしまいます。
本来、箱根駅伝の1区間やハーフマラソンといった20㎞程度(1時間強)の運動では、運動中のエネルギー補充はほぼ不要とされています。それでも、箱根駅伝で低血糖で動けなくなる選手が出てくるというのは、運動前の糖質摂取に問題があるのでしょう。
食後高血糖を処理するためにはインスリンが遅れて多量に分泌されます。分泌されたインスリンにより、血液中の糖は脂肪細胞に放り込まれ、筋肉内でのエネルギーとしては使われません。脂肪をエネルギーとして利用できるかというと、それもできません。インスリンが脂肪細胞から脂肪を溶かし出し、エネルギーとして筋肉に取り込むことを阻害するからです。
それで走り続けるから、低血糖状態を招き、動けなくなるのです。トレーニングを重ねてきたはずの駅伝選手も、ここぞという場面で急に失速したならそのわけの少なくとも一部はこれです。
そしてそれだけでなく、カーボローディングは高血糖の負の連鎖を生じる危険もあり、とくに日本人には向いていないと思っています。
元来、欧米人と比べ日本人はインスリンの分泌能力が遅いのです。欧米人に比べると、少ない糖質量でもインスリンが追いつかなくなって、血糖異常を起こしやすいのです。
そんな日本人がカーボローディングを行うと、かなりの頻度で食後高血糖が起こり、糖質疲労を生じ、パフォーマンスを低下させるでしょう。そして、普段から食後高血糖を呈することで様々な臓器の機能が低下し、糖を処理する能力も低下します。高血糖がさらなる高血糖を招く負の連鎖を生じるリスク大です。
一方、ファットアダプテーションは、ロカボと親和性が高い栄養法です。市民ランナーなら、ファットアダプテーションを意識してロカボに取り組むこともよいでしょう。パフォーマンスの最大化にメリットをもたらす栄養法となり得ます。ただ、繰り返しですが、ファットにアダプトするのに4週間の時間を取ってください。
<本稿は『糖質疲労』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>