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トヨタ式「紙1枚にまとめる」が圧倒的に役に立つ理由

 誰かに何かを伝えたいとき、そのいちばんの手段は言葉だと思っていませんか? 「言葉を尽くして説明すれば、きっと相手に伝わるだろう」と。

 しかし、言葉よりもたった1枚の紙のほうが、ずっと簡単に、相手に必要なことを伝えられる場合があります。

 トヨタ自動車出身で、在籍時に修得したトヨタ独自の「紙1枚」仕事術を体系化して思考整理法としてまとめあげた浅田すぐるさんのロングセラー『トヨタで学んだ「紙1枚!」にまとめる技術』よりお届けします。

◎前回記事

『トヨタで学んだ「紙1枚!」にまとめる技術』 サンマーク出版
『トヨタで学んだ「紙1枚!」にまとめる技術』

テーマパークで道を聞かれたときのベストな伝え方

 たとえばあなたが今、人気のテーマパークにいるとしましょう。エントランスに入ってすぐのところで、見知らぬ人から最新のアトラクションがどこにあるかを聞かれたとします。

 仮に、あなたがその場所を知っているとしたら、どうやってその人に教えるでしょうか。

 次の3つの中から、いちばん正確に伝わると思う方法を選んでみてください。

①以前来たときの記憶を頼りに、口頭で説明する。

②手元の地図で確認し、それを見ながら口頭で説明する。

③持っていた地図を相手に見せ、現在地と目的地を指で差しながら説明する。

 いかがでしょうか。

 おそらく、③がもっとも正確に伝わるはずです。しかも、もっとも言葉を必要としません。

 ①や②なら、「ここをまっすぐに行くと、お土産を買えるショップがたくさん並んでいるところがあるので、そこを通り抜けて、次のレストランの角を左へ……」などと説明しなければならないところが、③なら、地図を指で差して見せながら「今、私たちがいるのはここです。アトラクションがあるのはここですよ」と言うだけで済みます。

 言葉が通じない外国人が相手だったとしても、ジェスチャーだけで伝えることができるでしょう。

 言葉をいくつも重ねるより、1枚の地図を見せたほうがずっと正確に、そして短時間で伝わるのです。

 実は、「トヨタの1枚」には、この〝地図〟と同じような働きがあります。

 読んでわかるのではなく、見てわかる「1枚」になっている。内容を説明するときにも、最低限の言葉で済むような作りになっています。

 それを可能にさせているのが、トヨタで学んだ「紙1枚」の3つの特徴なのです。

①ひと目で全体が見える(一覧性)

②枠がある(フレーム)

③枠ごとにタイトルがついている(テーマ)

(出所)『トヨタで学んだ「紙1枚!」にまとめる技術』(サンマーク出版) ※浅田すぐる氏作成

「1枚」で自分の頭の中を「見える化」する

 突然ですが、本書をちょっと脇に置き、紙とペンを用意してみてください。そして、携帯電話の「アンテナマーク」を描いてみてください。もちろん、何も見ずに、です。

 さて、どれくらい正確に描くことができたでしょうか。

 ほとんどの人が携帯電話を持っている現代、「アンテナマーク」の絵柄は誰もが目にしたことがあるはずです。しかし、思っていた以上に描けなかった、知っているつもりだったけれど意外と描けなかった、という人も多いのではないでしょうか。

 そう、実際に「手で書いて」みると、本当にわかっているかどうか、どれくらいわかっているかがよく「見える」のです。つまり、ものごとの理解度がわかる。

紙に書き出すと「わかる」「わからない」が見えてくる

 実は、「トヨタの1枚」にも、同じような働きがあります。

 トヨタに入社してしばらくすると、上司から「浅田、さっきの打ち合わせの件、1枚にまとめておいて」などと言われるようになりました。

 といっても、当時の私は打ち合わせの内容を100パーセント理解できていたわけではありません。上司はそれを承知で、「完璧でなくていいから、できるところまでやってみろ」と言っていたのだと思います。

 いざ、書類にまとめる内容を書き出してみると、思っていた以上に書けないことに自分自身驚きました。理解できていない部分を書けないのはもちろん、わかっていると思っていた部分まで、いざ書こうとするとうまく文章にならないのです。きちんと書けた部分はごくわずかでした。

 実際に書くことによって、自分がわかっている部分はどこで、わからない部分はどこかが、より一層はっきりとしました。

 そうしてなんとか作り上げた1枚の書類を上司に見せに行くと、上司はそれを手に取り、赤ペンで次々と赤字を入れていきました。

「この言葉とこの言葉は同じ意味だから、こっちはカットしよう」

「打ち合わせでは、この件についてのデメリットも挙がっただろう? それも重要だからここに入れておこう」

「ここがいちばんのポイントだから、冒頭に持っていこう」

などと言いながら、上司は言葉と言葉を分類したり、補足すべき内容を赤ペンで書き込んでいったりしながら、書類の内容をどんどん整理していったのです。

 目の前にいた私は、まるでマジックでも見せられているような気分でした。けれども同時に、この赤ペン添削を受けることで、頭の中がどんどん整理され、明確になっていきました。

 このように、自分が作り上げた「1枚」は、自分の頭の中そのものでした。

 中途半端にしか理解できていない箇所については、それが如実に表れます。また、1枚に収まる量に絞り込んでいく段階で、情報の重要度を正しく理解しているかどうかもわかります。正しく理解していれば重要な情報が残り、それ以外の情報は削そぎ落とされます。

 つまり、上司は「1枚」の書類を見つつ、実は、その内容を通して私の頭の中を見ていたともいえます。「1枚」を見て、私がこの仕事についてどこまで理解しているか、どこがわかっていないかをチェックしていたわけです。

 トヨタの有名な言葉に「見える化」というフレーズがありますが、私がトヨタで仕事を経験する中でその言葉の意味合いをもっともよく実感したのが、まさに紙1枚によって社員の頭の中を「見える化」する場面でした。

<本稿は『トヨタで学んだ「紙1枚!」にまとめる技術』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです。本書では浅田さんが体系化した「紙1枚」にまとめる技術を詳しく解説しています>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shutterstock

【著者】
浅田すぐる(あさだ・すぐる)
「1枚」ワークス株式会社代表取締役