紙を50回折りたたんだ「厚さ」を知っていますか
1枚の紙を半分に折りたたんでいき、それを50回続ける。
どうなるか瞬時に予想できますか?
『Think right 誤った先入観を捨て、よりよい選択をするための思考法』より「倍々ゲームのワナ」の解説をお届けします。
「倍々に増加していく」と思考停止になってしまう
1枚の紙を半分に折る。さらに半分に折り、それをさらに半分に折る。こうしてどんどん半分に折り続ける。
さて、この作業を50回続けると、紙の厚さはどれくらいになるだろうか? 先に読み進める前に自分の予想を書いてみよう。
次の質問。あなたは次の2つの中から、好きなほうを選べる。
①これから30日間、わたしはあなたに毎日10万円ずつプレゼントする。
②これから30日間、わたしはあなたにお金をプレゼントするが、1日目は1円、2日目には2円、3日目には4円、4日目には8円、と毎日2倍に増やしていく。
計算したりせずに、ぱっと決断してほしい。①か②か?
できただろうか? では、解答へ進もう。
はじめの質問で用いる紙の厚さは0.1ミリメートルとする。これを50回たたむと、厚さはおよそ1億キロメートルに達する。これは、地球から太陽までの距離の3分の2に匹敵する。計算機を使えば簡単に検算できる。
2番目の質問。この場合には、①のほうがよさそうに思えても、②に賭ける価値がある。①を選ぶとあなたは300万円もらえるが、②では10億円を超えるからだ。
わたしたちは、一定の数量で増加する関数を感覚的に理解している。けれども、2倍ずつ増加する指数関数と呼ばれるタイプの増加や、100分率(%)で表された増加に対しては感覚的にわからなくなる。
どうしてだろうか? 人間の進化の過程において、生活の中で倍々に増加するような状況に接することがなかったからだ。
我々の祖先の生活は、大部分が直線的だった。つまり、採集に2倍時間を費やした人は、2倍の量を収穫した。マンモスを一度に2頭、谷から落として仕留めれば、1頭しか仕留められなかったときより2倍の期間食べることができる。
石器時代の人間には、飛躍的な数にふくれあがるような場面に出くわす機会がほとんどなかったのだ。だが、現代は違う。
警察が次のように発表したとする。「交通事故の件数は、毎年7%増えている」。そう言われても、わたしたちの多くはピンと来ないのではないだろうか。
わかりやすくするための秘訣がある。交通事故件数が今から2倍になるまでに要する時間(倍加時間)を計算するのだ。
1%の増加率の場合、2倍になるまでの時間を倍加時間の計算式に当てはめて計算すると、およそ70(年)という数字が導き出される。これを100分率で表された成長率で割ればいい。「707=10」つまり、倍加年数は10年となる。
警察の話の意味するところは「交通事故の件数は10年ごとに倍になる」ということなのだ。だとすれば、驚くべきことだ。
自分の感覚に頼らず、さっさと「計算機」を使ったほうがいい
別の例を挙げよう。
「インフレ率は5%に達する」。そう聞いても「たいしたことはない、5%ぐらいどうってことはない」と思うだろう。
そこで、さっそく倍加年数を計算してみる。「705=14」。つまり14年後には、100円の価値が50円になるというわけだ。預金のある人にとっては、とんでもない話ではないだろうか。
仮にあなたはジャーナリストで、あなたの街で登録されている犬の数が毎年10%増加しているという統計を手に入れたとしよう。さて、それを記事にするとき、どんな見出しをつけるだろうか?
「登録犬数、10%増加」なんて見出しには絶対しないだろう。そんな記事には誰も見向きもしない。おそらくこんな見出しだろう。「犬の大氾濫──ワンワン、7年後にはなんと2倍に!」
「倍々ゲーム」が永遠に続くことはない。政治家もエコノミストもジャーナリストも、ほとんどがそのことを忘れている。どんな爆発的な増加でも、いつかは限界に達する。それは確かである。
たとえば、大腸菌は20分ごとに2倍に増えるが、もし無限に増殖するならば、数日間で地球をおおいつくしてしまうだろう。だが、大腸菌も増えすぎれば、消費される栄養分のほうが補給される分より多くなり、やがて成長にブレーキがかかる。
人間の脳が「倍々ゲームのワナ」にハマりやすいことは、古代ペルシャの時代から知られている。そこから生まれたこんな神話がある。
あるところに、賢い廷臣がいた。廷臣は王様にチェス盤を献上した。そこで王様は廷臣にたずねた。「褒美をやろう、望みを言いなさい」
「王様、チェス盤に米粒を盛っていただければそれで結構でございます。1マス目には米を1粒、2マス目には2粒、3マス目には4粒と、順番に2倍の数の米粒を置いていってください」
王様は驚いた。「廷臣よ、見あげたものだ。おまえの望みはなんて控えめなのだ」
さて、いったいどれくらいの量になるのだろうか?
王様は、1袋くらいだと考えていた。ところが実際には、世界中で収穫されるよりもたくさんの米が必要だったのだ。
結論。増加の割合を予測するときには、自分の感覚を信じないように。あなたにはそのための直感力が備わっていない。そのことを知るべきである。
実際にあなたを助けるものは「計算機」である。パーセンテージが小さければ、倍加時間のトリックを使って計算しよう。おおよそ正しい数字が導き出せる。
<本稿は『Think right 誤った先入観を捨て、よりよい選択をするための思考法』サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
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【著者】
ロルフ・ドベリ作家、実業家
【訳者】
中村智子(なかむら・ともこ)
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