見出し画像

「誰が」「世間が」ではなく、己の信じる姿が「真の姿」

「私、ずっと自分のことを劣等だと思って生きていたの。でも、今は、自分がユニークであることに胸を張っています」

 そう語るのはLGBTQ活動家で、僧侶で、メイクアップアーティストの西村宏堂さん。2021年にTIME誌「NexT GenereaTion Leaders(次世代リーダー)に選出され、昨年は『日曜日の初耳学』(TBS系)にも出演するなど注目を集める人物です。

Photo by Andrés Bernadette

 昨年6月には「LGBT理解増進法」が施行されました。性的少数者に対する理解が進むと期待され、企業もLGBTQ当事者が働きやすい環境づくりに動く中、西村さんの活動に勇気をもらっている人も少なくないでしょう。

 他人とはどこか違う自分、男性を好きな自分は、恥ずかしい存在で、劣等な人間なんだと感じていた西村さんが、世間や周りの反応を気にしていた自分から自分の「好き」を掲げて正々堂々と生きていくようになるまでを語ったエッセイが『正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ』。本書から一部抜粋、再構成してお届けします。

『正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ』(サンマーク出版) 西村宏堂
『正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ』

私のことは、私が決める。
自分のことを他人に決められる
必要なんてないの。
あーだこーだ言ってくる批判は
基本相手にしない

 私は私のことを「男でも女でもない」と思っているし、「男でも女でもある」とも思っているんです。

 でも、日本で過ごした高校生までは選択の余地なく男子として扱われていたし、大人になってからも「男手が必要だから来て」とか、私を男性として認識して声をかけてくる人ばかり。私の体は男の人のものだから、それは仕方のないことだとわかってはいるのだけれど。

 でもね、私の体は私のものだし、私の心も私のもの。本来、誰かに「男だ、女だ」と定義されるべきものではないと私は思ってるの。

 メディアへの露出が増えてからは、「メイクをしたり、着飾るのは本物のお坊さんではない」と、SNS上で私を批判するコメントも目にしました。

 でも、私はお坊さんです。修行をして、試験にもすべて合格し、伝宗伝戒道場(でんしゅうでんかいどうじょう)も成満(じょうまん)しました。衣と袈裟(けさ)を纏まとい、お経をあげている私がお坊さんでなかったら何? 誰がどう批判しようと、私がお坊さんであるという事実は揺るがない。誰も反論などできないのです。

 セクシュアリティのことも仏教のことも、大切なのは、誰がどう思うか、世間にどう見えているかではなく、己の信じる姿が「真の姿」ということ。

 「自分がどんな人間であるか」を迷いなく認識できることは、自分の人生をちゃんと支配下に置き、自分らしく生きる上においてもっとも大切な根っこの部分のようなもの。ここがしっかりしていないと、青々とした葉も茂らないし美しい花も咲かせられない。

 物心つくころには、男性を好きな自分は社会から差別され、バカにされる存在なのだと思って生きてきたから、「私は私らしく生きていていい」と言えるようになるまでの道のりの険しさはわかってる。

 でも、その道があったからこそ、モノクロでミニチュアな街でおどおど暮らしていた自分から、カラフルで大きく広がる世界で正々堂々と歩ける自分になれたと思います。

私はLGBTQの一員だけれど
LGBTQの
どのカテゴリーにも属さない。
世界は多様な人であふれてるの

 私は男性の体に生まれ、戸籍上の性別も男性だけど、性自認(ジェンダー・アイデンティティ)は男性ではないんです。じゃあ、女性なのかというと、それもまた違ってて。私は、小さいころからずっとディズニー・プリンセスが大好きだけど、性別適合手術を受けて女性の体になりたいかというと、それも違う。

「見た目は男性で、心が女性の人はゲイ? それともトランスジェンダー?」と聞かれると、ちょっと答えに困ってしまう。

 実は、私も20代前半まで自分はゲイだと思っていたんです。でも、ゲイは「性自認が男性で、男性を好きな人」のことを言うそうで、私はこのカテゴリーには含まれない気がします。

 もちろん、LGBTQのL(レズビアン)ではないし、G(ゲイ)でもない。恋愛対象は男性だから、男女どちらとも恋愛のできるB(バイセクシャル)でもない。あえて言えば、性的マイノリティ全体を指すQ(クィア)なのだけど、Qには自分の性について探求中であることを指すクエスチョニングも含まれるから、探求中ではない私は、ちょっと違うかなぁというのが本音。

 私がLGBTQの一員であるのは間違いないけども、正確に表現しようと思うと、LGBTQのどのカテゴリーにも属さない。私のことを間違いなく伝えられるのは同性愛者なんだけど、それだと心の性についての表現ができなくて……。そういうもどかしさを感じているのは、私だけではないと思う。

 ニューヨークのプライド・パレードに一緒に行った女の子は、当時、付き合っている彼女がいたけどその数年後に中国人の男性と結婚したし、ゲイと公言していた男性が女性と結婚してパパになったケースも聞いたことがある。ストレートを自認する人でも、その濃度は人それぞれで、男っぽい要素と女っぽい要素が共存しているでしょう? それくらい、人の性は多様なんです。

 自分が人からどう扱われたいかはその人にとって大切なことだと思うから、私は誰かと接するとき、相手を男でも女でもLGBTQでもなく、一人の人間として目の前のその人を見ようって、自分と約束しています。

<本稿は『正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)


Photo by Ibuki

【著者】
西村宏堂(にしむら・こうどう)
1989年東京生まれ。浄土宗僧侶。ニューヨークのパーソンズ美術大学卒業。卒業後アメリカを拠点にメイクアップアーティストとして活動。ミス・ユニバース世界大会やミスUUSAなどで各国の代表者のメイクを行い、海外メディアでハリウッド女優やモデルから高い評価を得る。日本で修行し、2015年に浄土宗の僧侶となる。その傍ら、LGBTQの一員である自らの体験を踏まえ、LGBTQ啓発のためのメイクアップセミナーも行っている。また、僧侶であり、メイクアップアーティストであり、LGBTQでもある独自の視点で「性別も人種も関係なく皆平等」というメッセージを発信。ニューヨーク国連本部UNFPA(国連人口基金)や、イェール大学、増上寺などで講演を行い、その活動は、NHKやBBC(英国放送協会)など、国内外の多くのメディアに取り上げられている。

『正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ』(サンマーク出版) 西村宏堂

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!