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お金は「守る知識」がなければ無駄に減っていくだけ 元国税専門官ライター小林義崇さんに「お金の防衛術」を聞いてみた

近年の物価上昇を受けて、家計や生活の不安を抱える方が多いのではないでしょうか。

2023年の消費者物価指数は前年比3.1%上昇と、1982年以来41年ぶりの物価上昇となりました。今年に入っても物価高は続いている一方で、賃金上昇が追いついていません。

そんな中でお金の心配をせずに暮らしていくにはどうしたらいいのでしょうか。新刊『僕らを守るお金の教室』を上梓した、元国税専門官でライターの小林義崇さんに、お金を守ることの意義についてお話を伺いました。

(取材・構成:流真理子/サンマーク出版編集部)


一生分のお金の知識を1冊にまとめた

――『僕らを守るお金の教室』はどんな本ですか?

小林義崇(以下、小林):タイトルの通り、自分を守るためのお金の防衛術について解説する本です。お金の防衛術とは、お金を払いすぎたり、もらえるお金をもらい忘れたりする「知らないうちのお金の損」を防ぐことを意味します。

このようなお金を守る術は、実はライフステージごとに存在しているんです。例えば、国や自治体からの支援はその一つです。子供が生まれる前後では育児休業給付金や児童手当、乳幼児医療費助成などがあり、学校に通う頃には授業料無償化をはじめ学費の補助があります。

就職後の節税対策などもお金の防衛術の一つです。このような、生まれてから亡くなるまで、一生分のお金の知識を1冊にまとめました。

――投資や貯金など、お金を増やすことに着目した本も多いと思いますが、この本は「お金を守る」術を伝えているのですね。

小林:これまで投資を解説する本も書いてきましたが、その前段階としてお金を守ることが重要だと感じました。投資にはお金が必要で、お金がない中で投資をするのはリスクが高い。まずは無駄なお金を減らすことが大切です。

私はもともと国税専門官だったので、国の制度をうまく活用できれば無駄な支出を減らせるという実感がありました。自分の経験を生かせば、お金を守る方法をお伝えする本を書けると思ったんです。

――どんな人に読んでほしい?

小林:ライフステージごとに書かれているので、基本的にはどなたでも役立つと思います。特に若い人に読んでもらえたら嬉しいですね。子育て支援や省エネ住宅の支援など、すぐに使える知識をたくさん盛り込みましたので。留学のための奨学金や、転職するときにもらえる手当などの情報も取り上げたので、新しいことにチャレンジしたい人にも役立てていただきたいです。

支援や補助があることを知ってほしい

――元国税専門官としての幅広いお金の仕事に関わってきた知見が活かされた内容ということですね。

小林:私は国税専門官時代に相続税担当としてお金持ちの方のお金の実態を見たり、職員の年金や健康保険を管理する部署にいたりした経験があったので、大事なポイントは頭に入っていました。そのため、執筆中は最新の制度がどうなっているかを調べながら、パズルのピースを埋めるように書き進めました。

――お金の支援が実はこんなにあるとは、この本を読むまで知りませんでした。

小林:私もこの本がこんなにボリュームが出るとは思っていませんでした。最初は250ページくらいに収まる予定でしたが、最終的に300ページを超えました。昨今は制度改正も多いので、最新情報も入れるとボリュームが多くなりましたね。

――300ページ!具体的にはどんな知識が紹介されていますか?

小林:私自身が実際に利用したものだと、自宅の省エネリフォームに使える補助金です。

私は4年前にマンションから戸建てに引っ越したのですが、断熱性能の違いで思いのほか暑いことがネックでした。特に2階の仕事部屋が相当暑かったので、どうにかしようと思って建築家の友人に相談しました。

彼から「内窓を設置し、天井に断熱材を入れるとだいぶ違う」と言われて、国が用意している「住宅省エネ2024キャンペーン」の補助金を利用して工事をしたんです。最初の見積もりは140万円くらいでしたが、国の「先進的窓リノベ事業」などの補助金のおかげで自己負担はなんと半額くらいになりました。

工事後は冷房の効きが良くなり、部屋がとても涼しくなりました。電気代も下がることを期待しています。内窓や天井断熱だけでなく、太陽光発電システムや給湯器などの費用に使える補助金もあるので、省エネリフォームを考えている人にはおすすめです。

あとは、「高等教育の就学支援新制度」という制度が2025年4月から拡充される予定で、子供が3人いると大学の学費が無料になります。うちも子供が3人いて、長男が再来年に大学1年生の年齢になるので、利用できる見込みです。大学の学費は高いので、補助してもらえると非常に助かりますね。

――そんな制度があるのですね! 補助や支援が受けられる国の制度ですが、意外と一般には知られていないように思います。

小林:制度の仕組みが複雑だからだと思います。不公平がないようにすると制度が複雑になり、条件を細かく設定したり、言い回しが難しくなったりします。

また、役所の文章は読みづらいことが多いですよね。“新制度”と言いつつ古い制度だったり、「補助金」「給付金」「助成金」のように似たような名称があったり。役所ではパンフレットなどで情報を周知していますが、なかなか情報が伝わっていないと感じます。

私が税務署で働いていたときの話です。お客さんから相談を受けた際に「それはここに書いてありますよ」とお伝えしても、「そんなのわかりません」と言われることがよくありました。たしかに、役所が出している情報は複雑かつ膨大なので、自分に関係ある部分を見つけ出すのが大変になってしまっています。

そういえば、私自身が間違えそうになったこともあります。「定額減税の給付金が支払われますよ」という通知書が来たので、何も気にせずに同封の申込書を書いていたら、それは受給を辞退するために書く書類だったんです。もらいたい人はほっとけばいいという話で、危うく損するところでした。

――国税専門官だった小林さんでも間違えそうになるくらい複雑なんですね。フリーランスや自営業の方はもちろんですが、会社員にとってもお金の防衛術を学んでおくメリットはあるのでしょうか?

小林:会社員は、普段の収入が安定しているという意味では、フリーランスや自営業の方に比べて確かにリスクは低いと思います。

ただ、自分が病気になって働けなくなるとか、あるいは自分が健康であっても家族の介護で仕事を離れざるを得ないとか、人生に付き物のリスクは絶対にゼロにはなりません。誰もが直面する可能性があります。

そのリスク回避のために医療保険や介護保険などの社会保険があるわけですが、実際に正しく制度を利用して自分や家族の生活を守れるかどうかは、知識次第だと思います。

日本ではお金の教育を受ける機会がほとんどない

――公的な制度以外にもお金の知識はつけておくべきですよね。

小林:例えば生命保険は、「自分が亡くなった時に残された子供が困らないように」という理由で加入する人が多いのではないでしょうか。その場合、「子供が大きくなるほど必要な金額は減っていく」と考えることが重要です。

私も生命保険に入っていますが、保障額がだんだん少なくなるタイプにして、保険料を安く抑えています。また、保険だけで全てをカバーしようとするとどうしても高い保険料が必要になってしまいます。遺族年金などほかの公的支援もあるので、保険がオーバースペックにならないように、必要な保障額を見極めることが大切です。

――知っていれば得するはずなのに、多くの人がお金の情報を知らないで生活しているのはなぜなのでしょう?

小林:まず、お金の教育を受ける機会がほとんどないことです。

私はたまたま国税の仕事をしていたので学ぶ機会がありましたが、そうでなければほとんど知らなかったでしょう。制度をある程度知っていれば調べられますが、その知識がなければ調べることすらできません。役所が封書などで案内を送っていても自分に関係あるのか、どう手続きすればいいのかが分かりづらいので、見落としてしまいますよね。

それから、日本では普段の日常会話でお金のことを話さないですよね。例えばアメリカでは、誕生日プレゼントで株券をもらって、その株が上がった下がったで、同級生で話題にしたりするそうです。日本ではそういうことが全然ないので、本当に知る機会がないと感じています。

――日本人はお金のことをふたするようなところがあると思います。

小林:やっぱり文化として、日本ではお金のことを赤裸々に話さない風潮があるのかなと感じます。たとえば給料をいくらもらっているとか、住宅ローンを何%の金利でいくら借りているとか。アメリカでは伝統的に10歳前後から金融教育が行われているといいますから、両国のお金に対する捉え方はだいぶ違うのかもしれないですね。

――お金防衛術を知っているかいないかで、どんな違いが生まれるとお考えですか?

小林:直接的には家計に余裕が出るかどうかという話ですが、それ以上に精神的な影響が大きいと思います。お金のことを知らないで生活するのは不安な状況だと思います。

『僕らを守るお金の教室』の担当編集者から、以前、「お金のことを知らずに社会人になったことに危機感を持っていた」という話を聞きました。同じように危機感を持つ方は結構多いと思います。なんとなく損しているかもしれないと思うと、普段の生活が気持ちよくできないですし、他の人に比べて自分だけ知識不足なのではないかと不安に感じるでしょう。

また、自分が負担している税金や社会保険料が、ただ取られているだけというイメージになってしまうと思います。制度を知っていれば、お金に対する不安感を解消しながら、納税などに納得感を持ちながら生活できると思います。私自身は、自分が調子が良いときはきちんと納税し、困ったときはしっかり公的な支援に頼ろうという考えです。

――お金防衛術を身につけておくことが不安感の解消や生活の支えに繋がりますね。

小林:困ったときに支援を受けられるかどうかは、自分次第です。国の制度を中心に、お金の支援は意外とたくさん存在していますが、利用についてはあくまで自己責任の世界です。
 
国や自治体からの公的な支援が、自分から何もしなくても必要な個人にすべて行き渡るわけではないので、自分から手を伸ばして支援をキャッチできるように、日頃から知識を持っておくことが何より大切です。

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)

◎後編はこちら


小林義崇(こばやし・よしたか)

元国税専門官、フリーランスライター、Y-MARK合同会社代表。一般社団法人かぶきライフサポート理事

西南学院大学商学部卒業後、2004年に東京国税局の国税専門官として採用され、以後、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所において、相続税の調査や所得税の確定申告対応等に従事。2017年7月、フリーライターに転身。マネージャンルの記事執筆をはじめ、インタビュー記事作成やセミナーなどを行っている。『すみません、金利ってなんですか?』(小社刊)ほか著書多数。登録者数約4万5000人のYouTubeチャンネル「フリーランスの生活防衛チャンネル」を運営中。



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