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ニュースの洪水が人間の「思い違い」を強める必然

 スマホを開いてニュースを目にする。気になった話題に関連するコンテンツをさらに探してネットサーフィンをする。そして何らかの意見や感想が生じ、場合によってはSNSなどでコメントする――。

 そうしたことが日常生活に染み付いている人は少なくないでしょう。ただ、その意見や感想が思い違いにすぎず、ニュースを見ることでそれがより強くなる恐れもあります。

 何年も前から「ニュースなしの生活」を送っている著者が、みずからの体験をもとに、「ニュースダイエット」の方法と効用について語り尽くした『News Diet』よりお届けします。

『News Diet』(サンマーク出版) ロルフ・ドベリ
『News Diet』

ソーシャルメディアは「見たいもの」しか示さない

 私たちが陥りがちな思考の罠は、およそ120種類ある。そのせいで私たちは、合理性や、理性的な思考や行動から繰り返し逸脱してしまう。

 思考の誤りは、ビジネスやプライベートにおける「決断の質」を低下させる。そしてニュースはそうした思考の誤りを、正すどころか強化する。

 思考の誤りの代表格である「確証バイアス」を例にとって考えてみよう。

 質問。「3、6、9、12……次にくる数字はなんだろう?」

 あなたがたいていの人と同じように考えたとしたら、あなたの答えは「15」だろう。だがあなたは「14」あるいは「52」と答えてもよかったのだ。

「それはないだろう」とあなたは口をはさむかもしれない。「ここで適用されているルールはどう見ても三の段だ!」。そうかもしれない。

 だがそうとは限らない。適用されているルールは「次の数字は前の数字よりも大きくなくてはならない」ということだってあり得るのだ。

 一体、何が起きたのだろう? すぐ目につくのは、数字が整然と三ずつあいだを空けて並んでいることだ。あなたはそのことに気をとられてしまい、そのほかのすべての可能性をはじめから排除してしまったのである。

 しかし、これはごく普通の反応だ。私たちは、「自分のお気に入りの見解に反する情報」は自動的に排除する一方で、「自分の確信を後押しする情報」には敏感になる。

 それが数字の並び方に関してならなんの問題もない。危険なのは、政治的な見解や、お金がかかわっているときだ。

 私たちは、新しい情報をすべて、それまでのものの見方と合致するように解釈する名人だ。たとえあなたの見解が間違っていたとしても、ニュースを消費する量が増えれば自分の見解の正しさを証明する情報に出会う頻度は高くなる。

 今日では、ニュースはもはや価値ある情報を探し出す試掘の役割を果たしていない。間違った意見を無効にする(ニュースの量が非常に限定されていた当時はそうだった)どころか、さらに強固にしてしまう。

 この作用をもたらす一番厄介なニュース媒体はソーシャルメディアで、「確証バイアス」がアルゴリズムのフィルター機能という形ですでに組み込まれている。

 フェイスブックはあなたが見たいものや聞きたいことを推測して、それにふさわしいものだけをあなたに示す。あなたとは違う意見を探しても無駄骨だ。あなたの〝友達〟が異なる意見を持っていたとしても、あなたがそれを目にすることはない。

自分の意見の「反論」を意識的に探したほうがいい理由

 最も危険なのは、イデオロギーに関する「確証バイアス」だ。イデオロギー(社会思想、政治思想)は、私たちの脳がつくり出す最も愚かしいもののひとつだ。

 イデオロギーを持つということは、自分で自分の精神を閉じ込める牢獄をつくり上げることにほかならない。イデオロギーの強力さは意見の10乗で、あらゆることに対する見解をひとまとまりで提供し、それだけでまるごとひとつの世界観を構成する。脳に高圧電流のように作用して、私たちにさまざまな短絡的行動をとらせるばかりか、ヒューズをすべて焼ききってしまう。

 何があろうと、イデオロギーや教義(宗教や宗派の教え)には近寄らないほうがいい。あなたが少しでも共感を持てるようなイデオロギーや教義がある場合は特に要注意だ。イデオロギーを持つことが間違いなのは確実で、あなたの世界観が狭まって、結果的にお粗末な決断をしてしまう。

 ニュースは「確証バイアス」を強めるため、イデオロギーの形成を助長する。政治的な議論において目にする光景がまさにそれだ。ニュースの強い嵐にさらされると、国民の意見は極端に二分化してしまうのだ。

 ここまでは明快だ。ただし問題は、多くの人は、イデオロギーにのめりこんでしまってもまったくそれと気づかないということだ。

 もしあなたが何かの教義に心酔している様子の人に出会ったら、「あなたの世界観を手放さざるを得ないのは、どんな出来事に遭遇したときですか?」と尋ねてみよう。

 もしその質問に対して答えが返ってこなければ、その人物からは大きく距離を置いたほうがいい。そしてもちろん、その人物の考え方からも。

 あなたも「自分は大丈夫だ」とうぬぼれずに、何かの教義に取り込まれそうになっているのではないかと不安になったときは、自分自身に対しても同じ問いかけをしてみるといい。あなたの意見に対する「反論」を意識的に探して、あなた自身の論理の確実性を確かめるのだ。

 たとえば、あなたがテレビのトークショーのゲストとして招かれ、一緒に招かれたほかの5人のゲストが全員、あなたと反対の立場をとったときのことを想像してみよう。あなたの意見が尊重されるのは、じゅうぶんに理論武装した反対の立場の5人を納得させられるほど、自分の立場をしっかりと主張できたときだけだ。

 しかし、たとえあなたの脳がイデオロギーに侵食されていなくても、株式市場や、隣人の犬や、上司の人柄や、ライバルの戦略についてなど、あなたが世界についてなんらかの意見を持っていれば──自分なりの意見を持つのはごく当たり前のことなのだが──、「確証バイアス」はあなたに襲いかかってくる。

 そしてあなたがさほど強い「確証バイアス」に陥っていなかったとしても、ニュースの消費はこの人間の弱点を悪化させる。

 その理由はなんだろう? なぜならニュースが無数にあれば、自分たちの意見を強固にできるだけのじゅうぶんな情報が──たとえその意見が間違っていても──必ず見つかるからだ。

 結果的に私たちは「自信過剰」に陥りやすくなり、理性的な判断ができなくなり、馬鹿げた危険を冒して、最終的には好機を逃してしまう。

▼ 重要なポイント …………
 ニュースは思考の誤りの代表格である「確証バイアス」を強化する。あなたのお気に入りの見解を意識的に疑問視して、決断の質を上げるようにしよう。だがそれができるようになるには、まずはニュースを断たねばならない。

<本稿は『News Diet』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)


【著者】
ロルフ・ドベリ(Rolf Dobelli)
作家、実業家

【訳者】
安原実津(やすはら・みつ)