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トヨタ式「紙1枚」で仕事が円滑に進むワザの凄み

 世界最大の自動車メーカー、トヨタ自動車では、業務上の書類はすべてA3またはA4サイズの「紙1枚」に収めるという習慣が企業全体の文化として根付いています。

 報告書、企画書、会議の資料や議事録、打ち合わせ時に使う書類、プレゼン資料――。どんな種類でもどんな複雑な内容でもです。その「1枚」によって仕事の質と効率が高められます。

 そこには仕事のできる人がやっている「まとめる」技術や思考整理法の本質が詰まっています。

 トヨタ出身で、在籍時に修得したトヨタ独自の「紙1枚」仕事術を体系化して思考整理法としてまとめあげた浅田すぐるさんのロングセラー『トヨタで学んだ「紙1枚!」にまとめる技術』よりお届けします。

『トヨタで学んだ「紙1枚!」にまとめる技術』 サンマーク出版
『トヨタで学んだ「紙1枚!」にまとめる技術』

トヨタの社員が会議のときに必ずやっている「あること」とは?

 社員の手元には、いつも1枚の書類──。

 私がかつて勤務していたトヨタでは、これが当たり前の光景でした。

 たとえば毎週1回、グループごとに開かれるスケジュール会議。グループ長と十数人の社員の手元には、グループ全員の仕事の進捗状況がまとめられた1枚のA3用紙がありました。

 上司とのちょっとした打ち合わせの際も、部下は必ず1枚の書類を持参します。

 何時間もかかる大型の会議であっても、議事録はA3、あるいはA4の用紙1枚。

『トヨタの問題解決』((株)OJTソリューションズ/KADOKAWA[中経出版])といった書籍も刊行されているように、8つのステップを踏むトヨタの問題解決の技法は有名ですが、この結果もやはり、紙1枚にまとめることになっています(通常、「トヨタのA3資料」として紹介される書類は、大半がこの問題解決の1枚となっています。しかし、実際の1枚はもっと多様で、目的に応じて内容もさまざまに変わっていきます)。

「おーい、浅田。これどういうこと?」

 部下を呼び出すときにも、上司は決まって1枚の書類を手にして話を始めました。

 このように、トヨタでは、どんな仕事のベースにも必ず「紙1枚」があるのです。

(出所)『トヨタで学んだ「紙1枚!」にまとめる技術』(サンマーク出版) ※浅田すぐる氏作成

「トヨタの1枚」ならではの3つの特徴

 これらの書類は、一見何の変哲もない書類に感じるかもしれませんが、「トヨタの1枚」ならではの特徴があります。

 それは、

①ひと目で全体が見える(一覧性)

②枠がある(フレーム)

③枠ごとにタイトルがついている(テーマ)

という3点です。

 トヨタでこの特徴について直接教わったわけではありませんが、累計3000枚以上の「1枚」に触れる中で独自に見出したこれら3つの特徴は、代々、先輩社員から後輩社員へと受け継がれています。

「別段、すごいというほどの特徴ではないのでは?」と思ったあなた。

 たしかに取り立てて個性的な特徴ではないかもしれません。

 しかし実は、この特別にすごいわけではない3つの特徴こそが、トヨタで学んだ「紙1枚」がよく機能するための重要な仕掛けでもあるのです。

その書類は「機能」するものになっているか?

 唐突ですが、「宅配ピザ」を注文したことはありますか?

 以前、こんなことがありました。

 あるとき、4人の仲間で会議室を借り、勉強会を開きました。勉強会は予想以上に白熱して、気づくと時間は午後2時。みんな、お腹が空いているけれど、まだ勉強会は続けたいという雰囲気でした。

 部屋に宅配ピザのメニューがあったため、てっとり早くピザを注文しよう、ということになりました。

 いざ注文しようと、みんなでいっせいにメニューを眺めます。メニューはA4サイズの紙1枚の表と裏にまとめられていました。

 ところが、注文内容がなかなか決まらない。そもそも4人で食べるのにはどのサイズを何枚注文したらよいのか、味の組み合わせはどうするのか、生地はどれがよいのかなど、考えなくてはいけない要素があまりに多く、結局、何を注文するか決めるまでにかなりの時間を要してしまいました。

 加えて、電話応対をしてくれた店員さんの手元には、私たちが持っていたのと同じメニューがなかったため、一生懸命口頭で説明してもなかなか理解してもらえませんでした。

 てっとり早く食べたいからこそ宅配ピザにしたのですが……。

 そもそも、人が宅配ピザを頼むときというのは、どんなときでしょうか。

 いろいろ考えられますが、外に食べに行ったり、作ったりする時間がないから、など、要は「時間節約のため」という人は少なくないでしょう。

 そんな人にとって役立つメニューとは、注文しやすいメニュー、時間をかけずに、注文内容を簡単に決められるメニューです。

 私たちが見ていたメニューは、残念ながらそうはなっていませんでした。紙1枚の表裏にまとめられていたものの、ひと目では内容を把握しにくく、あまり役に立たない1枚になっていたのです。

 さらには、注文を受ける側が同じメニューを見ていない、という状態もまた、この1枚が機能するうえで妨げとなっていました。

「単なる紙切れ」を「機能する1枚」に変える方法

 仕事に関する情報をどんなにきれいに1枚の書類にまとめても、何らかの機能を果たさなければ、それは単なる紙切れです。

 たとえば企画書なら、会社の上司や役員、社長などにゴーサインを出してもらえるような内容になっていてこそ価値があります。

 営業報告書なら、現地に行っていない上司が営業内容を把握できるような内容になっていなければなりません。

 会議の議事録なら、会議に出席していない人が読んでも会議の内容がわかるもの、また、出席者が後日、会議の要点を振り返られるものにする必要があります。

 このように、どんな書類にも必ず果たすべき役割があります。

 通らない企画書を何枚書いても意味はありません。営業内容が把握できない営業報告書も、会議の重要ポイントを押さえていない議事録も意味がないのです。

 ではどうしたら、役立つ1枚、よく機能する1枚となるのでしょうか?

 このときに、先に述べた「トヨタの1枚」の3つの特徴が役立ちます。

 これから作る書類に、

①ひと目で全体が見える(一覧性)

②枠がある(フレーム)

③枠ごとにタイトルがついている(テーマ)

という特徴が入っているかどうか、まず確かめることを心がけてみてください。

 これらのうち、あるときはすべて、あるときは一部でも取り入れることで、たとえ紙1枚の書類であっても、機能する「1枚」となるのです。

<本稿は『トヨタで学んだ「紙1枚!」にまとめる技術』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです。本書では浅田さんが体系化した「紙1枚」にまとめる技術を詳しく解説しています>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shutterstock


【著者】
浅田すぐる(あさだ・すぐる)
「1枚」ワークス株式会社代表取締役