「家族と3カ月しか一緒にいられない」“ハイヒールを履いたお坊さん”西村宏堂がスペインで果たした運命の出会い
4月から新シーズンのレギュラー放送が始まる『超多様性トークショー!なれそめ』。その初回となる4月5日の放送に出演されるのが、『正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ』の著者で“ハイヒールを履いたお坊さん”として有名な西村宏堂さんと、コロンビア人のフアン・パブロ・レジェス・ディアスさんのカップルです。なぜ番組出演を決めたのか、スペインでの運命の出会い、同性婚へ踏み切った理由、大事にしていること、今後の夢などについて、お二人にたっぷりとお話しいただきました。
[プロフィール]
西村宏堂(にしむら・こうどう
フアン・パブロ・レジェス・ディアス(Juan Pablo Reyes Díaz)
『超多様性トークショー!なれそめ』(NHK Eテレ)
【放送】Eテレ 4月5日(金)22:00~22:29、
(再)4月9日(火)0:00~0:29(※月曜深夜)
本放送から1週間NHKプラスで配信
■運命を感じたバルセロナでの出会いとピアス
──お二人が出演される、多様なカップルのなれそめと人生の楽しみ方を聞くテレビ番組『超多様性トークショー!なれそめ』で詳しくお話しされていますが、出会ったのは2022年5月、スペインのバルセロナだったそうですね。
西村宏堂(以下宏堂) そうなんです。旅行先で出会いました。実はそのときに、初めてピアスを開けたんですよ。彼に会って「この人だ!」と思った日に開けました。タトゥーショップへ行って、焼き鳥の串のようなものでグサッと(笑)。
──その日にですか! これまで開けなかった理由は何かあるのですか?
宏堂 ピアス開けると人生変わる、って言うじゃないですか。18歳でバルセロナへ行ったときに、友達が開けていたんですよ。それを見て「開けたいな」と思ったんですけど、それから15年くらいずっと怖くて……でもフアンに会って「この人だ!」と思って、開けるならもうここバルセロナで開けよう!って。
──フアンさんはそれを聞いて、どう思われました?
フアン・パブロ・レジェス・ディアス(以下フアン) 宏堂のことは前々から知っていたような感じがしていたんです。初めて会ったのに、まるで昔からの知り合いのようで。だからそれまで開けられてないピアスを開けてくれるということは、自分にとってもすごい大切なことだと受け止めました。
──ファッションをお二人でコーディネートされるそうですが、今日はボトムスがお揃いなんですね。
宏堂 いつも履いているものなんです。私たちはよく旅行へ行くので、畳んでも皺にならない素材が気に入っています。それで今日は彼が好きな色のシャツを着るというので、それに似合う色味を選んで。で、私は華やかなものが好きなので、バルセロナで買った、ビーズがついた上着を合わせてみました。
フアン 素敵だね。
──そして交際が始まるわけですが、ほぼ半日の時差がある中でテレビ電話でやり取りを続け、お互いに日本とコロンビアを行き来なさって、同性婚が認められているコロンビアで2023年9月1日にご結婚されました。結婚という選択をなさったのは、どんな理由だったのでしょう?
宏堂 それはビザの問題が大きいですね。例えばイギリスやアメリカに住みたいとなったときに、配偶者でないと一緒のビザがもらえないんです。観光ビザではその国に3ヶ月しかいられませんし、お互い別々にビザを取得する必要があります。なので結婚をしていないと3ヶ月しか一緒にいられない、もしくは旅行し続けないといけないんです。
フアン 信じ合える相手と長く時間を共にすることで幸せになれると思ったので、 短期間で移り住むことのないよう結婚したいと思ったんです。私はコロンビアでのキャリアがあったので日本の労働ビザを取得することができましたが、日本では同性婚をした外国人パートナーには配偶者ビザがおりない状況です。同性婚などに関して進んでいる国の良いところを取り入れて、私たちのようなカップルが受け入れられるようになるといいですね。
──配偶者ビザは、日本では男女間の婚姻関係では当たり前のことですものね。
宏堂 「別に同性婚ができなくてもいいじゃないか」という人たちに、こういったことをぜひ知ってほしいなって思うんです。そもそも一緒にいられないんです。
フアン 少しずつでいいので、世界にはいろんな価値観があるということを、私たちを通じて知ってほしいです。
──現在はフアンさんが日本へいらして宏堂さんと一緒に暮らしながら、日本語を勉強なさっているそうですね。
フアン 日本語学校へ行って、上達しています。(日本語で)「日本がとても好きです」
■見やすく、楽しく伝えたい
──『超多様性トークショー!なれそめ』への出演を決めた理由についてお聞かせください。
宏堂 先ほどのビザのこともそうですが、一緒にいることに対していろいろなハードルや問題があって、それを解決できなくて一緒に過ごせないカップルもいるのではないかな、と。なのでこの番組を通じて、結婚をしているにもかかわらず、日本で同じような権利をもらえない私たちのようなカップルがいることを伝えたいということがありました。
フアン 私たちがどういった境遇にあって、どういったバリアを越えてきたのかということを皆さんに知ってもらえるいい機会だと思って、出演することにしました。そして自分の国とは違う、日本の社会にファミリーとして溶け込めるようになったらいいなと思ったこと、希望を捨てずに前に向かって行けば日本でも近い将来同性婚ができるようになる、そういう声を広げることができたらいいなと思います。
宏堂 私は小さい頃からずっとバラエティ番組などで同性愛者がネガティブな描かれ方をしているのを見ていたので、自分が主役ではないと思ってきました。でもそれが変わるといいなと思っています。NHKのチームの方は、私たちのことをよく理解した上でオファーをしてくださったので、とても信頼できると感じました。
──番組では「なれそメモ」という4つのキーワードで出会いから現在までをお話しなさって、MCの田村淳さん、YOUさん、わたげさん、塩野瑛久さんからの質問に答えていらっしゃいました。
宏堂 正直な気持ちを投げかけていただきました。それはやはり視聴者の方も知りたいことですから、突っ込まれることは嫌ではありませんでしたし、正直に答えました。ただ「こういうことが問題だ」と怒ったような伝え方をすると、受け手は叱られているような気持ちになってしまうこともあると思うんです。逆に見ていて楽しい発信だと、応援したいと思っていただける。ですので、見やすく、楽しく伝わるというのは大事かなと思いますね。
フアン 人はレッテルを貼ってしまいがちです。この職業だからこう、日本人だからこう、コロンビア人だからこうではなく、それぞれの国にもいろんな人がいて、いろんな考え方をする人がいる。なので「◯◯だから」というレッテルを貼らずに、一人一人みんな違うんだということを大切にできる社会になったらいいですね。
■物事は、光の当て方次第で姿を変える
──『正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ』の出版から4年ほど経ちましたが、ご自身が当時と変わってきているなと感じることはありますか?
宏堂 フアンと一緒になってから、自分が変わらなくても、別に努力しなくても「愛される価値があるんだ」ということを日々感じていられるようになりました。ボロボロで、髪の毛が伸び放題の状態でも、大事にしてもらってるなと感じます(笑)。今でも「自分なんてダメだ」と思うことはあるんですけど、 そういった時も褒めてくれるので、自分のイメージが変わってきていますね。
──フアンさんは英語版をお読みになったそうですが、どんな感想を持たれました?
フアン 宏堂の本を読んで、もっと自分を信じること、そして自分に正直に生きることを学びました。それまでは、自分のことを好きになれませんでしたから。
──番組や取材でのフアンさんの堂々とした態度を拝見していたので、意外です!
宏堂 フアンは周りの人に言われた嫌なことを、真に受けてしまって、「自分にはあまり価値がないから、自分のことは大切にしなくてもいいんだ」と思ってしまっていたそうなんです。自分に厳しくなるとつい自分の悪いところばかり見つめて、それが目に焼き付いてしまうことってあると思うんです。でも視点を変えてみると「自分って明るいところもあるんだ」と思えるようになる。フアンは本を読んで、自分のことをもっと大事にするようになって、いろいろな夢を叶えてもいいんだと考えるようになったそうです。
──「物事は、光の当て方次第で姿を変える」と本に書かれていましたね。そしてそのライトを持っているのは自分で、不満にばかりライトを当てていてはどこへ行っても変わらない、と。宏堂さんとフアンさんはお互いに光を当て合っていて、素敵ですね。
宏堂 私は仕事を始めると朝までやってしまうタイプだったのですが、一緒に住むようになって、夜になるとフアンが「ゲームをやろう」とか「映画を見よう」と言ってくるので、強制的に仕事をシャットアウトするようになりました。
フアン 仕事をするなとは言ってないけど、宏堂の体が心配だから、夜が来たら休んでほしいし、どんなに忙しくてもリラックスすることを忘れないでもらいたいんです。逆に私は宏堂から「ちゃんと野菜を食べなさい」と言われたりします(笑)。お互いに補い合っていますよ。
宏堂 そうなんです。だから私たちを通じて、同性愛者ということはもちろんですけれども、その他にどうやったら心身の健康バランスを保ち、楽しく生きていかれるのかな、ということをお伝えしたいんです。日本で生まれ育った私は「我慢は美徳」のようなマインドを持っていたんですけど、地球の反対側からやって来たフアンの見方、違った考え方を分けてもらったことで「そんなに頑張らなくてもいいかな」と思えたり、以前は「今日のことは今日中に!」と気絶するまでやっていましたけど、それをパタンと閉じて「明日やろう」と思えるようになりました。そんなこと、これまで考えたこともなかったです(笑)。
──では最後に、お二人のこれからの目標や夢を教えてください。
フアン 私と宏堂のことについては、お互いそれぞれ健康を保つこと、クリスマスにコロンビアへ行くこと、それから少しエクササイズをすることですね。仕事については自分のデザインのスキルを高めて、さらに活動の幅を広げていきたいです。
宏堂 私は「なぜ人々が宗教によって差別されるようになってしまったのか」という理由を勉強して、いろいろな宗教を信じている人、いろいろな信仰を持つ人たちに話しかけられるようになりたいですね。『正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ』では仏教のお話を軸にしているんですが、もっといろいろな宗教について勉強をして、多くの人たちの心を解放できるようになりたいです。
── 宏堂さん、個人的な夢はどうですか?
宏堂 実は今年の初めに思っていた夢は、ありがたいことにすでに結構叶ってしまって……そうですね、上海のディズニーランドへ行きたいかな!
フアン いいね。行こう、行こう!
[取材・構成・文=成田全(ナリタタモツ)]