説明の上手な人が「3つにまとめる」を徹底する理由
「人に説明するのがどうも苦手」「一生懸命説明したけどわかってもらえない」という人は少なくないはず。
なぜ、うまく説明できないのでしょうか? いくつかある理由の一つが「数」を増やしすぎるから。ベストセラー『「いまの説明、わかりやすいね!」と言われるコツ』(浅田すぐる著)よりお届けします。
「知っている」と「使いこなせる」はまったく違う
企業研修の場で、私はよくこんな質問を投げかけます。
「いきなりですが、『5W1H』を口に出してすべて言えますか?」
試しに、あなたも一度、ここでこの問いの答えを考えてみてください。答え終わってから、次に読み進めてくださいね。
さあ、いかがだったでしょうか。無事にすべて言えたでしょうか。
まず、6つすべて口に出して言えなかったという方へ。
なぜ、言えなかったのでしょうか? 「5W1H」というキーワード自体は、学生時代から何度か見聞きして「知っている」はずです。社会人になってからも、仕事を進める際の基本フレームワークとして教わった方も多いでしょう。
ところが、いざ暗唱してみてくださいと言われると、これが意外にできない。そんな自分に直面した方も多いはずです。
一方で、6つとも言えたという方へ。
当然、そういう方もたくさんいらっしゃるとは思うのですが、そんな方に、追加でもう1つ質問をさせてください。
「6つともスムーズに、ひと息で言うことができましたか?」
秒数でいうと、だいたい3秒以内です。さて、いかがでしょうか。
こう問われると、「いや、そこまでスムーズではないです」という方が大半だと思います。
研修の際にこのワークをやってもらうと、多くの方が「えーっとまずは」という具合に指を折りながら、時間をかけて挙げていくケースが大半です。紙に書き出しながらなんとか網羅しようとする方もいらっしゃいます。
いずれにせよ、淀なくスッと「When、Where、Who、Why、What、How」が言える方はほとんどいません。
そのことを体感してもらったうえで、最後にもう1つ、こう質問します。
「はたして、あなたは『5W1H』をどれくらい使いこなせているでしょうか?」
こう積み上げて話を進めると、ほとんどの方が気づかれます。きっとあなたもハッとなったのではないでしょうか。これだけ聞き覚えのあるフレーズであるにもかかわらず、自分が思っているほどには「5W1H」を使えていない、という事実に。
にもかかわらず、「いまさら5W1Hの話なんか持ち出されてもなあ」と、半ば読み飛ばそうとしていませんでしたか?
もし、あなたもほかの方と同様、知っているはずの「5W1H」を大して使いこなせていないという認識に至ったのであれば、ぜひこの問いともお付き合いください。
「なぜ、自分は『5W1H』を使いこなせないままなのか?」
この問いの答えに進む前に、もう1つ、別の話を紹介しておきます。
大ベストセラーである、スティーブン・R・コヴィー氏の『7つの習慣』(キング・ベアー出版)、あなたはご存じでしょうか?
この本では、成功に必要な次の7つの習慣が紹介されています。
第1の習慣 「主体性を発揮する」
第2の習慣 「目的を持って始める」
第3の習慣 「重要事項を優先する」
第4の習慣 「Win-Winを考える」
第5の習慣 「理解してから理解される」
第6の習慣 「相乗効果を発揮する」
第7の習慣 「刃を研ぐ」
非常に著名な本なので、研修のときなどに読んだことがあるか尋ねてみると、たくさんの手が挙がります。
けれども「では、『7つの習慣』をすべて言える人はいますか?」と聞くと、ほとんどの手が下がります。全員が手を下ろすケースも頻繁にあります。
私が研修をさせていただく企業は、だれもが知っているような著名企業が多く、いわゆる「優秀なビジネスパーソン」であろう方も多数参加されます。にもかかわらず、「7つの習慣」という言葉自体は知っていても、具体的に「その中身が何か」まで記憶に残っている人はほとんどいない、というのが実態なのです。
ちなみに、これまで数千名の方にこの質問をしてきましたが、実際に7つすべてを言えたのは「たった1人」でした。
なぜ、「その情報」を生かせないのか?
さて、「5W1H」と「7つの習慣」、この2つが浮き彫りにしたメッセージはどちらも同じです。
すなわち、大半のビジネスパーソンが、仕事で有益、あるいは必須とされる情報について「見聞きしたことはあるが覚えていない、そして使えていない」という事実です。
おそらく、これまで数多くの講師が、講義や書籍を通じて「5W1H」や「7つの習慣」の重要性を語ってきたはずです。ところが、こうした説明は、残念ながら受講者には伝わっていなかったことになります。
なぜ、このような問題が起きているのか?
ずいぶんと引っ張りましたが、引っ張ったのは、その理由が拍子抜けするほどあっけないからです。
答えはいたってシンプルです。それは、
「数」が多すぎるから。
私がさまざまな受講者の方々と接してきて痛感するのは、「説明をする側」と「説明を受ける側」、どちらもこの「数」への配慮を軽視しすぎている、という点です。
結果、ついつい数を増やして説明してしまう、あるいは数が増えても自分は平気だと思い込んでしまう、いわば「過剰人間」になってしまっているのです。
「説明をする側」の立場でいえば「情報の数を安易に増やしすぎるから、説明しても伝わらない」。
反対に「説明を受ける側」の立場でいえば「多すぎる数の情報をそのまま覚えようとするから、いつまでも実践できない」ということです。
さて、あなたはいかがでしょうか。もしかすると、知らず知らずのうちに「過剰人間」になってしまってはいませんか?
大事なことを覚えられるコツ
私はもともとコミュニケーションが苦手でした。そして、それと同じくらい、暗記も苦手でした。大人になり、記憶力は衰える一方です。
思い返せば学生のころから「頻出問題を100個覚えれば、この科目は大丈夫」とか、「50の解法パターンを暗記すればOK」などと言われると、もうそれだけでその先生が嫌いになるような生徒でした。丸暗記を苦痛と感じる人間だったからです。
覚えられなければ、当然、実践もできません。ところが、そんな趣旨のことを言い返そうものなら、返ってくるのは「努力しろ」「根性だ」「だったらあきらめろ」といった八方塞がりになるようなアドバイスばかりでした。
ただ、そうはいっても──です。
それで停滞したままでは、いつまでも前に進めません。そこで私は、早々に身のほどをわきまえ、頭を切り替えることにしました。
すなわち、どんなときも「自分の手に負える数、すなわち『3つ』以内に自分でまとめ直す」ということを、自身の思考習慣のベースとしていったのです。
たとえば「5W1H」であれば、これを6つそのまま覚えることは放棄し、代わりに当初から聞き馴染みのあった「いつ・どこで・だれが(When、Where、Who)」の3つだけを使いこなせるように練習しました。
3つであれば、記憶力に自信がなくても覚えられますし、実践上も取り扱えます。
その後、残りの「なぜ・何・どうやって(Why、What、How)」で考える習慣も鍛えていきました。
ポイントは「3つを超えた数(4つ以上)を、一度にまとめて扱おうとしない」という「脱・過剰人間」の世界観です。「5W1H」や「7つの習慣」で現実を体感してもらった以上、「説明をする側」としても「説明を受ける側」としても、このことをもっと重視すべきだと気づいてほしいのです。
<本稿は『「いまの説明、わかりやすいね!」と言われるコツ』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
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【著者】
浅田すぐる(あさだ・すぐる)
「1枚」ワークス(株)代表取締役