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不器用な自分を投影しているのかも…『コーヒーが冷めないうちに』原作者・川口俊和さんが最も感動した読者からの一言

日本で2018年に映画化された小説『コーヒーが冷めないうちに』が、今、世界中で多くの人に読まれています。累計部数は、世界でシリーズ500万部を突破。1年間に150万部というペースで売れており、ハリウッド映像化も控えています。日本でシリーズ6作目となる『愛しさに気づかぬうちに』が本日9月25日に発売となりました。

なぜ、日本の小説がこんなにも世界の多くの読者に読まれ、愛されているのか。著者の川口俊和さんにお聞きしました。全3回でお届けします。

(聞き手・構成:田中里加子 サンマーク出版PR戦略室)

◼️超大物スターと同じ会場でサイン会! 世界中で大人気

――川口さんは2024年に入ってからだけでも、イタリア・オーストラリア・ニュージーランドの3カ国から小説『コーヒーが冷めないうちに』の著者として招待され、アメリカ・カナダ・ポーランドの訪問も予定されています。これまで、他にどんな国から招待されたのでしょうか?

2019年の台湾から始まって、イタリア、イギリス、フランス、ポーランド、マレーシア、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、ドバイ、タイの11カ国を訪問させていただきました。どの国でも、本当に多くの現地の読者の方が集まってくださり、とても嬉しく思っています。

――海外の訪問国では、どんなことを?

各地で行われている、ブックフェスティバル(読書好きの方が集まるお祭り)での講演や、書店さまでの講演会やサイン会をさせていただいています。

――特に印象的だったイベントは?

ポーランドで開催された国際スタジアムでのサイン会は、とても衝撃的でした。

「ワルシャワ国立競技場」にて

ここは、国際スタジアムで、なんと歌手のビヨンセさんがコンサートをしたこともあるほどの場所です。ここを使わせていただき、400人ものお客さんが並んでくださり、全員にサインをさせていただきました。

――ビヨンセさんと同じ会場に立ったということですか? 国際的大スターですね!

僕の控室はそのときビヨンセさんも使った場所だったんですよ。とはいえお客様が待っていてくださったので、滞在できたのは5分ほどでしたが(笑)。サッカーのワールドカップが開かれるような大事な場所を、僕のような異国の作家に使わせてくださったことに、本当に驚きました。

◼️ポーランドでは20万部、日本なら80万部に相当

――ポーランドで、この本はどのくらい人気なのでしょうか?

詳しくは出版社の方に調べていただいたのですが(笑)、3682万人の人口で20万部となっているようです。

――ポーランドの人口は日本の約4分の1ですから、日本なら80万部に相当するほど売れているようなイメージですね。

ポーランドでは、どの出版社も「10万部」というのが大きな目標だとお聞きしました。ですから「大ヒットです!ものすごいですよ!」と出版社の方にも書店の方にも言っていただきました。すごく嬉しかったですね。

――作品が広まっていくと、その国を身近に感じるようになりますか?

そうですね、6巻目『愛しさに気づかぬうちに』にはポーランド料理が出てくるんです。ポーランドの方々への御礼みたいな感じで忍ばせているんです。日本にはポーランド料理のお店が実は全然ないんですよね。だから感謝や楽しかった思い出の気持ちも込めて、ポーランド料理を6巻目に出しました。

――ポーランドだけでなく、これまで招待された国で、どのくらいのサインをされてきたのですか?

どのくらいでしょうかね……ポーランドでは5カ所でサイン会をやって2000冊、イタリアでも1000冊、特にイギリスは、新刊が出る時のサインを加えると1万5000冊くらいのサインをさせていただいているので……3万冊を超えるかもしれませんね。

――世界中で、それだけ多くの方が、この本を読み、川口さんのサインを欲しいと思っていらっしゃるということなのですね!これまで多くの読者の方にお会いしてきたかと思いますが、印象に残っている読者の方はいらっしゃいますか?

日本語を練習してきてくださる方がすごく多いと感じます。サイン会で順番が来て、僕と目が合うと、「こんにちは」と言っていただくことが多いです。イントネーションがすごく綺麗だから、「日本語が喋れるんですか?」と聞いたら「???」というリアクションをされて。あ、この一瞬のために練習してきてくださったんだ、とわかるんです。こうして、少しでも僕と意思疎通をしようという方がいてくださるということ自体がすごいことだなと思います。

サイン会には親子で来てくださる方も!

◼️読者の声は「like」ではなく「love」

――これまで、読者の方からの色々な感想を耳にしたと思います。その中で共通している、記憶に残る、嬉しかったという感想をぜひ教えてください。

日本語に訳すと「あなたの本を愛しています」という言葉です。僕もそうなのですが、日本人って「あなたの本を愛しています」という表現はあまりしないですよね。海外の方は「愛しています」と言ってくださるのがすごく印象的です。

僕のInstagramは海外の方がたくさん見てくださっているのですが、一番多いコメントが「love」なんです。必ず「like」じゃなくて「love」と言われます。日本語では本に対する「好き」という感情って「like」に当たると思うんです。

でも海外の方からいただく言葉は、「love」がとても多い。だからこそ、受け止める時に少し違う印象がありますよね。本を本当に大切にしてくれているのだと感じます。

――「like」じゃなくて「love」、とても素敵な表現ですね。日本の翻訳小説がここまで有名になるのはとても稀なことだと思いますが、海外の方達はどうやってこの本に出会っているのでしょうか?

サイン会などで多く聞くのは「人から勧められて読みました」という話です。その次に「プレゼントでもらいました」。特にイタリアではコロナ禍のロックダウン中に広まったこともあり、「友達から送られてきて読んで、すばらしかったので私も友達に送りました」という読者の方々の声をお聞きしました。

そして「私もこれを人にオススメしようと2冊買いました!プレゼント用にサインしてください」と何冊もサイン会に持ってきてくださる方も多いです。4冊、5冊持ってきてくださる方もいました。

イタリアの書店にて

◼️自分が「思いを言葉にするのが苦手」だから

――口コミで広がっているというのは嬉しいですね! 川口さんが自分の本をおすすめするとしたら、「ここです!」といったポイントはありますか?

うーん……じつは僕は、自分でいいものを書けているという感覚があまりないんです。まだまだ小説家としては未熟な部分が多いので、自分が書いた小説がどのくらいの人に、どういう風に心に届いているのかがいまだにつかめていません。

ただ、キャラクターでいうと『コーヒーが冷めないうちに』の“房木”のキャラクターが好きです。自分の思っていることをうまく言葉にできない、不器用な人間が大好きなんです。

――なぜ不器用さが好きなのでしょうか?

そうですね……もしかしたら、自分の投影として好きなのかもしれないと思います。僕は、現実の人間関係において、思いを言葉にすることが苦手なんです。だから、小説の中に、言いたいことをうまく伝えられない人を登場させて、僕の代わりに言いたいことを言わせているのだと思います。

本当はこう言えばうまくいくんじゃないのとか、こうすればいいんじゃないのとか、そこはわかってほしいとか…。そういう自分の不器用な部分を投影しているのかもしれないですね。

――『コーヒーが冷めないうちに』シリーズの読者の方も「自分ができないこと、できなかった後悔を、登場人物が動いてくれることによって救われた」という、読書によって得られる特殊な経験をされているように感じます。

僕も、小説の中で、普段自分ができないことへの発散をしているのかもしれないです。読者の方がもしも僕の小説を読むことによって、本当はできないことでも、追体験してくださったり、心の慰めにしたりしてくださっているとすれば、嬉しいです。

第2弾は明日9月26日に公開です

【プロフィール】
川口俊和(かわぐち・としかず)
大阪府茨木市出身。1971年生まれ。小説家・脚本家・演出家。舞台『コーヒーが冷めないうちに』第10回杉並演劇祭大賞受賞。同作小説は、本屋大賞 2017にノミネートされ、2018 年に映画化。川口プロヂュース代表として、舞台、YouTubeで活躍中。47都道府県で舞台『コーヒーが冷めないうちに』 を上演するのが目下の夢。趣味は筋トレと旅行、温泉。モットーは「自分らしく生きる」。