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言うことに責任を取れない他人に人生を委ねないで

 NHK Eテレで4月5日(金)夜22時から放送される「超多様性トークショー!なれそめ」に『正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ』(サンマーク出版)の著者、西村宏堂さんが出演されます。

「超多様性トークショー!なれそめ」は、同性カップル、映画監督カップル、年の差カップル、耳の聞こえない俳優カップルなど、多様なカップルの“なれそめ”をきっかけに、いろんな幸せのカタチがあることを知ってもらう、というコンセプトのトーク番組です。

 西村さんはLGBTQ活動家で、僧侶で、メイクアップアーティスト。同番組には、コロンビア出身のパートナー、フアン(Juan)さんとともに出演します。2人がどう出会って、一緒になり、暮らしているのか、などについて語ります。

 西村さんの著書『正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ』は、世間や周りの反応を気にしていた自分から自分の「好き」を掲げて正々堂々と生きていくようになるまでを語ったエッセイ。本書から一部抜粋、再構成してお届けします。

『正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ』(サンマーク出版) 西村宏堂
『正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ』

他人に自分の人生を委ねないで。
誰かの言う通りに生きて
将来自分が後悔しても
言った人は責任を取ってはくれないから

 男性を好きな自分は恥ずかしい存在なんだ。ずいぶん長い間、私はそう思い込んでいて、本当の自分を外に出せずにいたんです。自分に正直でいられないまま社会の中に存在するというのは、誰からもウェルカムじゃないような感覚で常に後ろめたさを感じながら生きているようなもの。とてもつらかった。

 願わくは、子ども時代にLGBTQとして堂々と生きている人に出会って、LGBTQであることは悪くもなんともないことなんだっていうメッセージを受け取りたかった。そうすれば、こんなに苦しい思いをしなくてすんだのに。無知であるがゆえの悲しさ、ですよね。

 子ども時代の私は、自分が誰かより劣っているという扱いを受けたときにはそれを鵜呑のみにしていたし、オカマやホモと呼ばれる人はバカにされても仕方ないっていう風潮を受け入れるしかありませんでした。「みんながそう思っているからそうなんだろう」って、自動的に思ってしまっていたんですよね。

 だけど、心の中ではやっぱり納得していないから、その状況に対して「私はけっして悪い人間ではないのに、なんで?」って自分を責めたり、「みんなに言ってもしょうがない」と諦めてしまっていました。

 でも、どう生きていくかは、自分の決断。

 納得いくまでは、自分らしく生きていくことを諦めたくないと思ってた。私は人生の途中でLGBTQは恥ずかしいことじゃない、「みんな」が考えるような劣等な存在ではないと思えるようになって、堂々と生きる道を選びました。そうできて、本当によかった。

「みんながそう言っているから」って自分の生き方を決めてしまうのは、とても怖いこと。だって、私の人生がうまくいかなかったとき「みんな」は私を助けてはくれないでしょう? それに、誰かもわからない「みんな」に文句を言ったところで私自身も救われない。

 私は今でも、「みんな」や「普通」や「常識」という言葉には気をつけているし、安易に口に出しません。「みんな」なんて、実体のない存在なんだから。

自分の価値を自分が信じていなければ
周りは変わらない。
私は「○○な人間です」と
断言できることで世界は変わる

 お坊さんの修行をしているとき、「自分が信じていない仏教や信仰をどうやって他の人に信じてもらえるだろうか?」と問われ、確かに! と思ったことがありました。その人が心から信じているかどうかは、発言や表情から周囲に伝わるものだし、強い信念から生まれる言葉には人の心を動かす力がありますよね。

「私は○○だ」と信じて言い切る強さを教えてくれたのは、2018年のミス・ユニバースでスペイン代表だったアンヘラ・ポンセです。彼女は、1952年から開催されているミス・ユニバース史上初のトランスジェンダーの女性。

 世界中で大きく報道された分だけ、「ミス・ユニバースの伝統に傷がつく」「トランスジェンダーのための大会に出場すればいい」といった彼女に対する批判の声がたくさん上がりました。でも、アンヘラはいつだって、「私は女性です」と力強く言い返していたんです。

 この大会にメイクアップアーティストとして参加していた私は、彼女に「私は前から、ミス・ユニバースに憧れていたの。だから、あなたが女性としてこの場にいることは、私の夢が叶ったようですっごく嬉しい」と、つたないスペイン語で伝えました。そうしたら彼女は、笑顔でこう返してくれました。

「私は、生まれる前から女性なの。体は違ったけれど、女性なんです。女性という言葉は、ひとつの限定した形を示すものではないの。人種、体形、病気、いろいろなバックグラウンドを持つ多様な女性がいて、私はトランスジェンダーの女性というだけのこと。だから、私は女性なんです」

 こう言われて、それでも「いいえ、あなたは女性ではないですよ」と反論できる人がいる? いないでしょ?

「本人が断言していたら、周りの批判は効力を失う」

 アンヘラのこの言葉に、私は強く同意します。私はこういう人だと断言するには、自分自身を納得させられるだけの深い思慮が必要だし、断言することで目立ってしまう怖さもある。けれどこの断言する強さを、私は自分とみんなのために持ちたいのです。

<本稿は『『正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)


【著者】
西村宏堂(にしむら・こうどう)
1989年東京生まれ。浄土宗僧侶、アーティスト。ニューヨークのパーソンズ美術大学卒業。卒業後アメリカを拠点にメイクアップアーティストとして活動。ニューヨークファッションショーやハリウッドで著名人のメイクを担当し、高い評価を得る。浄土宗の教師養成道場を経て2015年に僧侶となる。またLGBTQ活動家として、国連人口基金本部、ハーバード大学、イェール大学などで講演を行う。2021年にはTIME誌の選ぶ次世代リーダーに選ばれ、2022年度の紅白歌合戦ではゲスト審査員も務めた。

『正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ』(サンマーク出版) 西村宏堂