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サカナクション「陽炎」を徹底的に愛した男が綴った「一点集中」文章の強烈な魅力

  SNSやブログで読まれる文章を書きたいと考えていても、うまく書けない人は少なくありません。共通するのは文章テクニックではなく、「書く前の考え方」を知らないこと。
 
 ブロガー「かんそう」さん初の著書『書けないんじゃない、考えてないだけ。』が発売となりました。本書より強烈な魅力を放つ「一点集中」の文章を掘り下げます。

『書けないんじゃない、考えてないだけ。』(サンマーク出版) かんそう
『書けないんじゃない、考えてないだけ。』

「一」を徹底的に愛する

 私は「一点」のみについて書かれた文章に強烈な魅力を感じます。

 好きな曲があるのなら「イントロのベース音」について、好きな俳優がいるのなら「モミアゲの形」についてのみ10000字書く。それくらい根性のある文章を私は読みたい。私はロックバンド・サカナクションの『陽炎』という曲のサビで、

「カ゛ァ゛ァゲロォッ! カ゛ァ゛ァ゛ア゛アゲロォッッ!!」

 と叫んでいる箇所が好きすぎるあまり、「それだけ」についての論文を書いたこともあります。

サカナクション『陽炎』の「カ゛ァ゛ァゲロォッ! カ゛ァ゛ァ゛ア゛アロォッッ!!」の中毒性についての論文。

まずはサビの歌詞をご覧いただきたい。

オッオー
うぃきになっくとっりとーいくれなーい
いつになっくあっおーるくれなーーい
いつになっくないてーるよーだ

カァァゲロォッッ!
カ゛ァ゛ァゲロォッ!!

ギヴィノ

いきになっくわーよるはこなーい
いつになっくあっおーるくれなーーい
いつになっくないてーるよーだ

カ゛ァ゛ァゲロォッッ!!
カ゛ァ゛ァ゛ア゛アロォッッ!!

今回はこの「カ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛アゲロォッッッ!!!」が、なぜこんなにも絶対的な中毒性を持つのか、そこに迫っていきます。

「カ゛ァ゛ァ゛ァゲロォッッ!!」の前戯「あが゛ァい!」

「カ゛ァ゛ァ゛ァゲロォッッ!!!」ばかりに耳がいきがちですが、実はサビ前「赤い空を僕は待った」の

「あが゛ァい!」

で一回軽くイッている。この「あが゛ァい!」がのちの「カ゛ァ゛ァ゛ァゲロォッッ!!!」をさらに引き立たせているのです。

「あが゛ァい!」の時点でリスナーは「ビクッ…! えっ…? 一郎くん…ど、どうしちゃったの…?」と普段はオクテな彼が急に男見せてきたみたいな強引な振る舞いに耳が吊り橋効果にやられ、

「こ…これから私…どうなっちゃうの〜〜…??」

と、サビで自分がめちゃくちゃにされる姿を期待せずにはいられなくなる、これが山口一郎が生み出した「あが゛ァい! 理論」です。

「カ゛ァ゛ァゲロォッ!!」の後になんか言ってる

曲中、「陽炎」というワードはアルバム『834.194』のバージョンでは合計「10回」登場するのですが、2回目、6回目、8回目の「カ゛ァ゛ァゲロォッ!!」のあとに「ギヴィノ」なのか「ヒウィノ」なのか「ゲリィロ」なのか…とにかくなにか言ってる(ここでは「ギヴィノ」とする)。

歌詞を見ても「カァァゲロォッッ! カ゛ァ゛ァゲロォッ!!」の後は「一気に泣くわ夜はこない」なのに、明らかに手前で「ギヴィノ」と言っています。歌詞にない歌詞。

これが幻の「ギヴィノ」

「ギヴィノ」はいわば「架け橋」であり「のりしろ」。仮に「ギヴィノ」がなかった場合、サビとサビとのあいだに一瞬の空白ができてしまいツギハギ感が生まれてしまう。しかし「ギヴィノ」を挟むことでなんの違和感もなくスムーズに次サビに移ることができるのです。

それだけではない。あれだけ「カァァゲロォッッ! カ゛ァ゛ァゲロォッ!!」とがなった手前、同じテンションで「いきになっくわーよるはこなーい」と普通に歌うのはいくら山口一郎先生といえど難しい。しかし、そこに「ギヴィノ」があることでサウナ後の水風呂感覚で昇っていた血がスーッと下がりフラットな状態に戻すことができる。これぞサカナクションが生み出した「ギヴィノマジック」なのです。

「カ゛ァ゛ァゲロォッ! カ゛ァ゛ァ゛ア゛アゲロォッッ!!」後に急に素に戻る

これは「カ゛ァ゛ァゲロォッ!! ギヴィノ」にも通じる部分で、1サビ「カ゛ァ゛ァゲロォッッ!! カ゛ァ゛ァゲロォッッッッッ!!!」後、スンて音が止んだかと思ったら急に「まちはしずかぁーー(ポォーーーーーーーーン)」といつものテンションで歌い出す山口一郎大先生。このテンションの高低差も中毒性を生み出す要素のひとつです。

は? なにが「まちはしずかぁーー(ポォーーーーーーーーン)」だ、ふざけるな。あんなに騒いでたのに急に素に戻って「どうしました? なんかありました?」みたいな顔してもダメだから「カ゛ァ゛ァゲロォッ!」って言った事実は消せないから…ねぇ…お願い…はやく次の「カ゛ァ゛ァゲロォッッッッッ!!!」をちょうだい…ワン! ワン! アッアッ! キャイイイィイィン!! アォーーーーーン!! と「カ゛ァ゛ァゲロォッッッッッ!!!」をほしがる犬になってしまうのです。

同じ「カ゛ァ゛ァゲロォッッ!!」はない

「カ゛ァ゛ァゲロォッッ!!」の最も恐ろしい部分、山口一郎師匠は一度も同じ「カ゛ァ゛ァゲロォッッ!!」を使っていないという所にあります。(ちなみに記事タイトルの「カ゛ァ゛ァゲロォッ!カ゛ァ゛ァ゛ア゛アロォッッ!!」は1サビ部分3回目4回目の「陽炎」)

まず、1回目の「陽炎」は「ァ」に濁点がつかないフラットな「カァァゲロォッッ!」、2回目の「陽炎」は「ギヴィノ…」とセットになっているため、語尾を短く切った「カ゛ァ゛ァゲロォッ!!」

3回目の「陽炎」は1回目よりもがなりが増し巻き舌気味の「カ゛ァ゛ァゲロォッッ!」、4回目の「陽炎」は前3回よりも伸ばした「カ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛アゲロォッッ!!」

ラスサビ前5回目と6回目の「陽炎」はmovie versionではなかった1分の間奏が加わりタメにタメた最大がなりの「カ゛ア゛アゲロォッッ!!! カ゛ア゛ア゛ア゛アゲロォッッ!!!!」(「゛ア」が最も強調されている「陽炎」)

ラスサビ7回目の「陽炎」は1回目の「陽炎」と違い「ァ」に濁点がついた「カ゛ァ゛ァゲロォッッ!!」、8回目の「陽炎」は2回目の「陽炎」よりも「゛ァ」を伸ばして歌う「カ゛ァ゛ァ゛ァゲロォッ!!!」
9回目の「陽炎」は4回目の「カ゛ァ゛ァ゛ア゛アロォッッッ!!」と5回目の「カ゛ア゛アゲロォッッ!!!」が混ざったような激しい「カ゛ァ゛ア゛アゲロォッッ!!!」、そしてラスト10回目の「陽炎」は曲が持つ儚さ「儚なクション」を際立たせている余韻を残すような「カァゲロォォォッ…!!」

「カァァゲロォッッ!」
「カ゛ァ゛ァゲロォッ!!」
「カ゛ァ゛ァゲロォッ!」
「カ゛ァ゛ァ゛ア゛アロォッッ!!」
「カ゛ア゛アゲロォッッ!!!」
「カ゛ア゛ア゛ア゛アゲロォッッ!!!!」
「カ゛ァ゛ァゲロォッッ!!」
「カ゛ァ゛ァ゛ァゲロォッ!!!」
「カ゛ァ゛ア゛アゲロォッッ!!!」
「カァゲロォォォッ…!!」

おわかりでしょうか

〝昨日と同じ今日がないように、この世にひとつとして同じ「カ゛ァ゛ァゲロォッッ!!」はない〟

この「カ゛ァ゛ァゲロォッッ!!」の歌い分け、一聴だけでは気づきにくい微妙な変化も中毒性の一因となっているのです。

(kansou「サカナクション『陽炎』の「カ゛ァ゛ァゲロォッ!カ゛ァ゛ァ゛ア゛アロォッッ!!」の中毒性についての論文」より)

 一を徹底的に愛すれば、これだけの掘り下げをすることができます。

 私はこの論文を書き上げるため、1000回は『陽炎』を聴きました。そして、最終的には数秒ごとに曲を止め、ボーカル・山口一郎の「カ゛ァ゛ァ゛ァゲロォッッ!!」の発音の仕方を一つひとつ切り取り、聴き比べ、その違いをデータに起こし、それを文字にしていきました。

 どうして「そこ」に魅力を感じるのかを自分なりに分析し、仮説を立て、実証していく。これは曲についての論文ですが、例えば映画『タイタニック』の有名な船首キスのシーンが好きなのであれば、何度も見返してジャックとローズのそこに至るまでに交わした会話、間、息遣い、手の角度、キスの回数、全てを書き出し、自分がどこに魅力を感じたのかを徹底的に洗い出し、文字にしていくのです。

限りない愛の証明「文字に起こす」

 限りない愛の証明として私は「文字に起こす」という行為をしています。

●『天空の城ラピュタ』でパズーとシータは何回「シータ!」「パズー!」と呼んでるのか数えた
●映画『名探偵コナン』全作品で新一と蘭は何回「蘭!」「新一…」と言ったのか数えた
●B’z稲葉浩志は全曲中どれだけ「アゥイェエェァ!」と叫んでいるのか調べた
●ポルノグラフィティ岡野昭仁は全曲中どれだけ「ヒィイッヒィ〜〜ッ!」と叫んでいるのか調べた
●ポルノグラフィティ、イントロ文字モノマネ254連発
●ミスチル桜井和寿は全曲中どれだけ「イェッヘッヘ!」と叫んでいるのか調べた
●Official髭男dism藤原聡は全曲中どれだけ叫んでいるのか
●藤井風は全曲中どれだけ「バラベレンベベレベレンベベレンババランバ」と叫んでるのか数えた
●GLAYのTERUさんは一生で何回両手を広げるのか
●ドラマ『大病院占拠』で櫻井翔は何回「うそだろ」と言ってるのか数えた

 ある作品のセリフやアーティストの叫びなど、「一部分」にのみ着目し、その言動を書き記していく。

『名探偵コナン』であれば、20作品以上ある映画を全て見返し、「蘭!」「新一…」のセリフと秒数を抽出する。

 ポルノグラフィティであれば200曲以上ある楽曲を全て聴き返し、イントロを文字に起こしていく。

 ぜひ、Google検索で「ポルノグラフィティ イントロ」と検索してみてください。次のような「イントロ文字モノマネ」を読むことができます。

サウダージ「トトトトトトト(リリリリリリ)…ディーンデディンディンディンディンディンディンディーンデディンディンデッディディーーーン(パッコパラコッパッコパラコッ…‥)(ビィーーーーーン)(ディーンデディンディンディンディンディンディンディーンデディンディンデッディディーーーン)パッコパラコッパッコパラコッパッコパラコッパッコパラコッ…」

 私はこれら全ての記事を「人力」で書いています。

 なぜそんなことをするのか。キーワードを抽出して集めるだけならパソコンを使ったほうが何百倍も正確で速いです。しかし、そんなものに意味があるのでしょうか? 私は無駄な作業を全て人力でやってしまうほど、ポルノグラフィティの「イントロ」を愛している。人がやるからこそ、意味があるのです。

 ぜひ、好きな対象の何かを文字に起こしてみてください。絶対に私は読みにいきます。

<本稿は『書けないんじゃない。考えてないだけ』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)


【著者】
かんそう
ブロガー

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