「考える力」は「考える練習」をしなければ身につかない
正解のない時代に必要なのは、知識の量より「考える力」。とはいえ、「自分の頭で考えろ」と言われても、具体的な方法がわからない──こうした悩みを持っている人も少なくないでしょう。本日発売の『考える練習』より冒頭の試し読みをお届けします。
はじめに
人生は「未知の問題」であふれている
なぜ自分は深く考えられないのか悩んだことはないだろうか。自分の考えを聞かれて、中身のないことを言ってしまい、恥ずかしい思いをしたことはないだろうか。正しいものと考えて判断したのに、あとになって「なんて浅はかだったんだ」と後悔したことはないだろうか。
私たちは、ことあるごとに「自分で考えろ」と言われ続けてきた。
学校でも、仕事でも、自分の頭で考えられる人間が能力を発揮することを、みなが経験的に知っているからだ。実際、司法試験などに短期間の勉強で合格したり、仕事の場で活躍したりできる人間は、たいてい「考える力」が優れているように思う。
とはいえ、私たちはどうやって考えたらいいのか、考えるやり方についてはほとんど無知である。そもそも「考える」ということがどういうことかも教わってきていないのだ。
私たちは、子どもの頃からずっと「自分で考えなさい」と言われ続けてきたが、何をもって「考える」といい、そのために具体的にどうしたらいいのかを教わったことはないのだ。
だからなんとなく、ひらめくのを待ったり、インターネットや書物でいろいろ調べたりすることを「考える」ことだと勘違いしてしまっている。
それでは「考える力」は身につかない。「考える練習」をしなければならないのだ。
私は、法律家や公務員を目指す人たちのための受験指導校「伊藤塾」を主宰している。塾を開いたのは、今から30年前になる。
これまで、日本で最難関の試験といわれる司法試験を目指す、たくさんの人たちと関わってきた。毎年多くの塾生が、司法試験をはじめ、司法書士試験や行政書士試験、公務員試験に合格している。
伊藤塾で出会い、その後、活躍するたくさんの塾生たちを見ていても、「考える練習」をすることが何より大切であると感じている。頭がいいと言われる人たちは「考える力」が優れている。
元来、法律家は考えるのが仕事である。法律家の「考える」は何かというと、「未知の問題」に対して「答えをつくり出す」ことである。
法律の世界では、唯一の正解などないのだ。自分で答えをつくり出して、その答えを「事実」と「論理」と「言葉」で説得するのが法律家の技術である。
法律とは説得の技術なのだから、自分勝手に「これが正しい」と思い込んでいるだけではどうしようもない。それをみなにわかってもらうために、「事実」と「論理」と「言葉」で説得をするのが、法律家の役目なのである。
◼️検索するのは、「考える」ことじゃない
ロースクールに入った学生がよく失敗するのは、「考えること」と「探し出すこと」を勘違いしてしまうことである。
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【著者】
伊藤 真(いとう・まこと)
1958年、東京生まれ。伊藤塾塾長。81年、東京大学在学中に司法試験合格。その後、受験指導を始めたところ、たちまち人気講師となり、95年、「伊藤真の司法試験塾(現、伊藤塾)」を開設する。「伊藤メソッド」と呼ばれる革新的な勉強法を導入し、司法試験短期合格者の輩出数全国トップクラスの実績を不動のものとする。「合格後を考える」という独自の指導理念が評判を呼び、「カリスマ塾長」としてその名を知られている。現在、弁護士として、「1人1票」の実現のために奮闘中。『夢をかなえる勉強法』『夢をかなえる時間術』『記憶する技術』『深く伝える技術』(サンマーク出版)、『伊藤真試験対策講座(全15巻)』(弘文堂)、『中高生のための憲法教室』(岩波書店)、『続ける力』(幻冬舎)など著書多数。