株投資を始める人は「誰に」教わるのが正解なのか
株を買いに証券会社へ出かける人は賢い? 愚か?
私が株というものを初めて知ったのは、大学1年のときだった。
だが、身近に株をやっている人が誰もいなかったので、どこで、誰に、何を聞けばいいのかもわからなかった。もちろん資金もなく、いくらあれば株を買えるのかも知らなかった。
そこで私は、やみくもに汝矣島(ヨイド)〔ソウルを流れる漢江の中州。官公庁やテレビ局が集まる〕の証券取引所を訪れた。テレビの証券ニュースで見た取引所の場面を思い出したからだ。
「株を買いたいのですが」と、重いガラス扉の前に立つ警備員に告げると、すぐに「出て行け」と追い返されてしまった。
これが株との最初の出会いだった。
本書を執筆しながら、いまでも株は証券取引所で買うものだと考えている人がいるのだろうか、と思った。
しかし驚いたことに、最近サムスン電子の株を買うためにサムスン証券を訪ねた人がいるという話を聞いた。株のことを知らない人の思考水準は、30年前も今も変わらないようだ。
ロッテマートに行かないとペペロ〔韓国のロッテが発売している日本のポッキーに似たチョコレート菓子〕が買えない、と思うのと同じだ。
実際、株式市場というのは、運も通じない恐ろしい場所だ。
株を売買するとは、会社を売買するのと同じことであり、会社を売買する人は金融、経営の世界における最強の捕食者だ。
こういう世界で株式投資に成功するには、経済用語をすべて理解できるほど勉強して、個別企業の経営状態を把握しなくてはならない。
また、国家の産業発展プロセスや、各政党の国家運営政策に関する全体的知識も必要だ。
加えて、人文学的知識はもちろん、人間の欲望や恐怖、挫折を冷静に回避できるという自信も必要だ。ロッテマートに行かないとペペロを買えないと思っているような人は、サムスン電子の株をたまたま安値で買えても売り時がわからず、色んな意見に惑わされ、大して利益を得られない。
売買を繰り返すうちに元本を割り、損失を取り戻すために危険な銘柄に手を出してしまう。
投資は「誰に」教わるのが正解なのか
もしあなたが株式投資を決意したなら、自分の会社を経営するように、あるいは大学に入ったつもりで、4年間は勉強してほしい。よい先輩がいれば、訓練の期間を短縮することもできる。
私の場合、ウォーレン・バフェット、ベンジャミン・グレアム(Benjamin Graham)、ハワード・マークス(Howard Marks)、アンドレ・コストラニイ(André Kostolany)のような人たちから学んだ。彼らは投資家としての長期的成功と(長期的成功は非常に重要なポイントだ)、人生に対する哲学的省察を兼ね備えている。彼らの投資哲学を受け入れた先輩であれば、学ぶ価値があるだろう。
投資や事業においては、「往年」とか「理論」とかと口にする人を、私は信じない。私が信じるのは、投資や事業で長期にわたり成功し、いまもしっかり稼いでいる人だけだ(ここでも長期の成功は非常に重要だ)。
成功の経験や優秀な理論は、どんなものでも
長期にわたる検証によって証明される必要がある。
長期とは、少なくとも1世代(30年)以上のことだ。短期的な成功や単発的な大成功を収めたからといって、その人を信じてはならない。
また、自分で成果を出していない理論家も信じることはできない。カジノでいつも稼いでくる友人がいる。彼は毎回、大当たりした証拠として、チップを現金に引き換えた領収書を見せてくれる。
しかし、大当たりが出るまでにどれほどお金を注つぎ込んだのかは、誰も知らない。お金をすった日はカジノに行ったことを秘密にしているのかも知れない。
株での大成功も、それと同じだ。
株の売買が投機ではなく投資だったことを証明するには、長期にわたり少しずつ成功したことが証明できなくてはならない。サムスン電子の株を買いにサムスン証券に行くような人に、どんな助言ができるだろうか。
証券会社の社員も、実は投資については何も知らない。彼らはただ、デスクの前に座っているだけだ。彼らに投資の才能があれば、証券会社でストレスのかかる過酷な仕事をする必要はないだろう。証券会社の最良の社員とは、「私にはわかりません」と答えてくれる人だ。
こんな話がある。
釣りを始めた隣人が、だんだん腕前を上げてきた。最初は手のひらより大きな魚を釣ったと自慢していたのが、やがてそれは手の先から肘ほどの大きさになった。数年後には、両手を広げて釣果を誇るようになった。
いまや堂々たるプロ釣り師になった隣人は、今度は両手ではなく、親指と人差し指を一杯に広げて見せた。「あまり大きくないね」と私が言いかけると、彼は「これは魚の目と目のあいだの長さだよ」と言った。魚はどんどん大きくなるが、隣人は釣った魚を実際に見せてくれたことは一度もない。
真実はいつも藪(やぶ)の中。だから初心者は、自分の目で見ないかぎり何事も信じないことをお勧めする。
<本稿は『お金は君を見ている 最高峰のお金持ちが語る75の小さな秘密』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>