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メールやパワポが便利だからこそ面倒でもある真実

 スマホ、パソコン、デジタルカメラ、自動車、スマート家電――。最新のテクノロジーによって、人間の生活は便利になっていっていますが、実はそこには反作用もあります。

 『Think clearly』よりお届けします。

『Think clearly』(サンマーク出版) ロルフ・ドベリ
『Think clearly』

あなたの車の「平均速度」から見えてくるもの

 自動車は、「移動効率」という観点からいえば、徒歩で出かけたり馬車に乗ったりするのに比べて、間違いなく飛躍的に進歩している。

 時速6キロで近所を散歩したり、障害物を乗り越えながら時速15キロでガタガタと進んだりする代わりに、いまでは(ドイツの場合だが)アウトバーンでゆうに時速160キロは出せるのだ。それもまったく労力を使わずに。

 ときには渋滞に巻き込まれるとはいえ、あなたは自分の車の「平均速度」は現実にどのくらいだと思うだろうか?

 この先を読む前に、あなたの予想を考えてみてほしい。

 さて、あなたはどんな計算をしただろう?

 あなたの車の「年間走行距離」を「年間に走行すると思われる時間」で割ったのだとしたら、それはまさに車載コンピューターが平均速度を算出するときの計算方法である。

 私が乗っているランドローバーのディスカバリーでは、およそ「時速50キロ」という結果が出る。しかし、この計算は正確ではない。

 正確には、車の購入費を稼ぐための労働時間(a)とか、車の保険料や維持費とか、ガソリン代とか、交通違反の罰金を支払うために必要な労働時間(b)も考慮に入れ、この両方の労働時間(a+b)と渋滞時間の合計(c)を走行時間に加える必要がある。

 元カトリック神父の社会評論家、イヴァン・イリイチは、まさにこの方法を使って、アメリカにおけるさまざまな車の「平均速度」を算出した。その結果、あるアメリカ車の平均速度は「たったの6キロ」程度だった。つまり、歩く速度と変わらなかったのだ。

 この計算が行われた当時、つまり70年代のアメリカには、すでに現在のような高速道路網が整備されていた。ただ、人口はいまより40パーセント少ない。そう考えると、現在では、平均速度が時速6キロを下回るのは確実だろう。

 イリイチはこの現象を「反生産性」と名づけた。

「反生産性」とはつまり、「テクノロジーの多くは、一見それによって時間とお金を節約できているように見えても、実際にかかったコストを計算してみたとたんに、その節約分など消えてしまう」という事実を表している。

 車は速くて便利だ。でも車は安くはないし、ガソリン代はかかるし、買うためにその分働かなくてはいけないわけで、それらのコストを厳密に計算していくと、車が本当に便利なのかはわからない。むしろ場合によっては、車を買わないほうが得なのかもしれない。

 あなたがいつも、どんなふうにものごとを決めているにせよ、「反生産性」は、決断の際には見落とされがちだが、大きく回り道してでも避けたほうがいい落とし穴だ。

それは「本当に便利なのか」を厳密に考える

 Eメールを例に考えてみよう。Eメールそれ自体は、実にすばらしいツールである。あっという間に打ち込んで、送信することができる。それも、ほぼ無料で!

 だが、そんな表面的なことだけに惑わされてはいけない。メールアドレスを持てば、フィルターで排除しなければならない迷惑メールもついてくる。

 もっと面倒なのは、送られてくる情報やお知らせだ。大部分は不要なのに、何らかの対応が必要かどうかを判断するためだけにそれらすべてに目を通さなければならない。それだけで膨大な時間がかかる。

 また正確には、パソコンやスマートフォンの購入費の一部をEメールのコストとして計算に入れなければならないし、ソフトウェアのアップデートにかかる時間もある。

 概算すると、本当に必要なメール1通あたりのコストは1ユーロという結果が出る。つまり、従来の手紙の郵送料とほぼ同じなのだ。

 また、プレゼンテーションも同じことがいえるだろう。

 以前は、その場に集められた経営陣や顧客を前に話をするときは、筋道立てて論点を述べるだけでよかった。手書きのメモを準備して、強調したいところがあれば、オーバーヘッドプロジェクター上でアンダーラインを引く程度で十分だった。

 ところが、1990年にパワーポイントが登場した。

 1回のプレゼンテーションの準備に何百時間もつぎこんで、何百万人ものマネージャーやそのアシスタントたちが派手な色や風変わりな字体でスライドを飾りたてたり、ページをめくるように見せるために余計な仕掛けを付け加えたりするようになった。

 その間生み出される純利益は、ゼロ。パワーポイントは、発売後急激に普及したため、その無駄な作業もすぐに当たり前の仕事の一部になってしまったが。典型的な「軍拡競争効果」といえる。

 そのうえ、ソフトウェアの使い方を習得するための無駄な作業と、ひっきりなしのアップグレードにかかる膨大な時間、ファイルの仕上げや改良といった反生産的なコストもかかる。パワーポイントは、一般的には生産性を向上させるためのソフトウェアということになっている。だが、正確には、反生産的ソフトウェアといったほうがいいのではないかと私は思う。

「反生産性」の視点で、生活を検討しなおす

 このように、私たちは、「反生産性」がもたらすネガティブな効果にたびたび驚かされるが、生物学者たちにとっては意外なことでもなんでもないらしい。

 自然は、数百年も前から、この効果について知っている。

 たとえばクジャク。仲間と美しさを競う一種の軍拡競争をくり返すうちに、より長くて美しい羽を手に入れたクジャクの雄は、遅くともキツネに遭遇したときには、その羽の「反生産性」を実感させられることになる。羽が長くきらびやかであればあるほど雌の注意は引きやすくなるが、同時に捕食者に見つかる可能性も格段に高くなるからだ。

 そのためクジャクは、数百年かけて、「性的魅力」と「確実に生き残るための質素さ」とのバランスをとってきた。

 羽が1センチ長くなるごとに、「反生産性」も高くなる。同じことは、シカの角やスズメ類のさえずりによる求愛行動にも当てはまる。シカの雄は立派な角で、スズメ類の雄は美しいさえずりで、雌の気を引こうとするが、同時に捕食者の注意も引きやすくなる。

 だからあなたも、「反生産性」には注意すべきだ。「反生産性」は、ものごとを検討しなおしてこそ、見えてくる。

 私たちはもっと、「反生産性」という視点で、生活を検討しなおすべきだろう。自分自身のことをいえば、私は1台のノートパソコンだけを使い(家にインターネット回線は引いていない)、スマートフォンのアプリは最小限に抑え、まだ使える古い電子機器はできるだけ新しいものと取り替えないようにしている。

 そのほかのテクノロジーは、すべて生活から排除している。テレビも、ラジオも、ゲーム機も、スマートウォッチも、アレクサ(アマゾンが開発した人工知能音声アシスタント)も。スマートホーム(家の中の電化製品をインターネットで統合し、管理する住まい)は、私にとってはホラーでしかない。

 家の電灯は、インストールしてネットにつないで頻繁にアップデートしなければならないアプリを使うより、自分の手で点けたり消したりするほうがいい。それに、手動のスイッチを使えばハッキングされることもない。それでまた、別の「反生産性」の要因が排除できるというわけだ。

「本当に必要なもの」以外は、思い切って排除する

 デジタルカメラが市場に出まわりはじめた頃のことを、覚えているだろうか。「これはすばらしい!」。当時は誰もがそう思ったはずだ。

 もう高いフィルムを買う必要もなければ、現像を待つ時間もいらない。写りの悪い写真ともおさらばできる。これからは何枚でも撮りなおしができるのだ。

 とんでもなく便利になったかのように見えたが、いま振り返ると、これも反生産性の明らかな例であることがわかる。

 いまでは99パーセントの人々は不要な写真やビデオの山を抱え、それらを整理する時間もないままにローカルバックアップやクラウドに保存して、まるで巨大インターネット企業が悪用しやすいようにしているかのように、あちこちに持ち歩いている。

 加えて、定期的なアップデートを要求してくる複雑なソフトウェアなしでは機能しない画像処理。そこにかかる時間もある。コンピューターを買い替えるときには、その同じソフトウェアを新しいコンピューターにインストールするための費用もかかる。

 結論。テクノロジーというものはたいてい、登場したときにはすばらしく、とても便利になったかのように見えるが、人生の質という観点からいえば「反生産的」に作用することが多い。

 よい人生の基本的なルールは、本当は必要ないものを排除すること。特にテクノロジーに関しては、このルールがぴたりと当てはまる。新しい電子機器に手を出す前に、まずは脳のスイッチを入れて、よく考えてみよう。

<本稿は『Think cleary』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shutterstock


【著者】
ロルフ・ドベリ
作家、実業家

【訳者】
安原実津(やすはら・みつ)


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