堀江貴文×佐藤航陽「人はAIとの会話で何を得るか」
Q)AIは人のコミュニケーションに影響を及ぼしますか?
・1週間に1回会う恋人より、いつでも好きな時に話せる仮想の恋人?
・AI同士の会話に人間は入っていけない
・AIのアドバイスで、コミュニケーションのリスクが減らせる
“彼女”もAIに?
佐藤 航陽(株式会社スペースデータ代表):広告クリエイティブの世界ではすでに、生身の人間からAIアバターへのシフトが起こりつつあります。この流れは今後もとまらないでしょう。
たとえばポルノ業界なども、根底から揺るがしてしまうかもしれません。個人鑑賞用であれば、ミッドジャーニーのような画像生成AIを用いて自分好みの映像をいくらでも作ることができます。ここにVR技術を絡めれば、かつてなかった没入体験が実現されるはずです。
そうなれば、リアルな世界で苦労して恋人を探さなくてよくなってしまう。「人間の彼女は怒るし、お金がかかって面倒で嫌だ」と感じる人は一定数いるはずです。言わずもがな、ChatGPTは会話も得意。そうなると、物理世界はもはや贅沢品になってしまうわけです。
考えてみれば今の現実世界でも、同棲していない限り、彼女と実際に会う時間よりもLINEでやりとりしている時間のほうが圧倒的に多いわけです。1週間に1回程度会う恋人関係であれば、VRとChatGPTのセットによって作られる仮想彼女にひっくり返されても不思議ではありません。
ここまで〝彼女〟の例で進めてしまいましたが、今後、バーチャル上では、完全にAIが世界そのものを作り、その中に私たちは没入していくだけになります。すると、プレイヤー自身は、返信してくれているのが人間なのか、AIなのかの区別がつかなくなってくることでしょう。
さらに、会話が得意でその人の好みに合った対応ができるとなれば、AIはサービス業全般で活用されていくでしょう。キャバクラやバーはもちろん、介護や医療まで応用範囲は広がるのではないでしょうか。
AI同士の会話に人はついていけなくなる
OpenAIを立ち上げたサム・アルトマンやイーロン・マスク(*)の慧眼(けいがん)は、「人間はそもそもそれほど賢くない」ことを知っていたことにあると考えています。
おそらく中途半端に賢い人たちは「自分が理解できることは他の99%の人も同じように理解できる」という思い込みを持っていると思うのです。
でも実際そんなことはなくて、世の中のほとんどの人の会話は実はそれほど正確ではない。もちろん一部の優秀なリサーチャーであれば正確性を求めるでしょうが、一般の人は厳密に会話の中身を精査することはありません。なんとなく両者の間でキャッチボールが成り立っているだけで満足なんです。
サム・アルトマンはそこに気づいていて、ChatGPTにもその設計思想が持ち込まれているように思います。つまり、ユーザーがChatGPTを触るにあたり、ある程度それっぽい会話を返してあげるだけで十分で、正確性を追求しすぎなかったことが成功の一番重要なポイントになっていると考えています。
人間がそれほど賢くない証として、多くの人がそもそも文章を読めていない事実が挙げられます。もちろん日本の識字率自体は100%に近いわけですが、言語の読解力という意味においては人によって相当な差があります。
OpenAIはこうした一般人の文章読解レベルを念頭に置いたうえで、ChatGPTを作り込んでいるように思われます。
ChatGPTは会話における正確性や論理性を過度に追求するよりも、人間の理解や読解力に合わせて、適度に手を抜いている。秀逸な作りになっていると思います。「キャッチボールだけできていれば、中身の内容はそこまで大事ではない。正確性や論理性は、人の会話においてそこまで求められていない」ということがわかっているのだと思います。
今後AI同士が会話を始めたら、トップ・オブ・トップの頭脳を持つ人たちを除いて、人間はついていけなくなるでしょう。今はAIがそれほど賢くない人たちに合わせてくれている状態です。今後AI同士が進化しつつ、会話の抽象度を上げていけば、99%の人は理解が追いつかなくなっていきます。
人間でもトップ1%の知能を持っている人たち同士が会話をしているのを聞くと、議論が飛んでいるように見えて、一般人が理解できないのと同じです。AIが何を話しているのかわからない。今後はそんな状況が当たり前に発生していくと思います。
その意味で、シンギュラリティ一歩手前の入り口、プレ・シンギュラリティに突入しているといえるでしょう。
論理思考やロジックツリーとは別の思考を持つ人たちが登場する
AI技術が発展していくにつれて、エネルギー問題や食糧問題など、これまで僕たちが直面していた様々な問題が、この20~30年の間に、あり得ないアイデアで解決していくのだと思います。それと同時に、そこでは莫大な力を持った企業や個人、そして新人類も誕生するのでしょう。
この速度で今後もテクノロジーが進化していけば、僕たちの世代と、その下の世代の間で倫理観の分断が起こるでしょう。シンギュラリティの前と後とでは、大正の人たちと、今の僕たちくらいの価値観の違いが生まれるのではないでしょうか。
仕事に関しても、今私たちが持っている論理性やロジックツリーで問題解決をするような思考回路とは、まったく違う思考の仕方をする若者が出てくる可能性が高いでしょう。
僕らの世代からすれば、自分が今まで価値があると思っているものが、全部ひっくり返される瞬間に恐怖を感じることになります。そして近い未来、僕たちを含む上の世代は「なんでもかんでもAIに任せないで、こういうことは自分で学ばないといけない」「今の若い人はけしからん」と言っているんじゃないかと、今から想像しています。
AIに“正解”のコミュニケーションを教えてもらう
堀江 貴文:最近、映画『カメラを止めるな!』の監督・上田慎一郎氏が制作した面白いTikTokのショートムービー『キミは誰?』を見た。
ざっとあらすじを説明しよう。
意中の女性を口説くため、大学生の男は会話サポートAIを首元に装着する。このAIは彼女の発した言葉に対して、瞬時に最適な返答をくれる。男はAIの助けを借りて実際にデートにこぎつけるのだが、このデートの途中、トイレから戻ると彼女にもまったく同じ会話サポートAIがついていたことに気づくという話だ。
つまり、初めから終わりまで男も女もAIによって操られていたのだ。
ちなみに、このムービーにつけられたコメントの中には「自分もこんな機械を使いたい」というものもあった。恋愛において間違ったことを言って傷つくのは嫌だからAIに正解を求める、というこの主人公の考え方を受け入れる人も少なくないのだろう。
この物語ではデバイスという「目に見える形」でAIを認識できたが、今後多くの場合、AIは「目には見えない形」で私たちの社会や生活の様々なところに存在するようになるだろう。
<本稿は『ChatGPT vs.未来のない仕事をする人たち』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>