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特別な勉強なく運動だけさせた小学生たちの成績が一様に上がった秘密

 子どもの成績を伸ばすためには、机に向かってひたすらに勉強するしかない――。

 最新の研究では別の結果が出ています。必要なのはむしろ外に出て身体を動かすこと。

 スウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセン氏が、運動が脳にどんな影響を与えるかをテーマに、効果の高い身体の動かし方やそのメカニズムをまとめた『運動脳』からお届けします。

『運動脳』(サンマーク出版)
『運動脳』

普段は運動しない肥満気味の小学生たちを外で運動させた

 アメリカの研究チームは、次のような試みを行っている。スポーツをまったくせず、自由時間には座ってばかりいる肥満気味の小学生たちを集めて、放課後に運動させたのだ。子どもたちが参加しやすいように、研究者は好きな運動を自由に選ばせた。ランニングを選ぶ子ども、縄跳びを選ぶ子ども、ボール遊びを選ぶ子どももいた。

 その結果、特別な勉強は一切していないのに、みな一様に算数の試験の得点が上がっていた。また活動量が増えれば増えるほど、試験の得点も高くなった。じつは、たった20分でこのような効果があったのだが、とりわけ試験の得点が大幅に上がった子どもたちは40分以上、息がかなり切れる運動──心拍数が1分間で最大150回まで上がる運動をしていた。

 効果が現れたのは、算数の成績だけではない。学校では直接教わらないが「長きにわたって人生に利益をもたらす能力」にも変化があった。

 研究チームは、スポーツが嫌いで、いつも周囲からもっと運動するように言われていた肥満気味の子どもたちの脳をMRIでスキャンした。すると前頭前皮質(額のうしろにあり、抽象的思考や集中力、計画立案などの能力をつかさどる領域)が活発化していたのである。

 子どもの能力を伸ばすのは、机に向かって勉強することよりも、身体を動かすことなのだ。この成果を、研究チームは次のようにまとめている。

「子どもが潜在的な能力を存分に発揮するには、身体を活発に動かさなくてはならない」

学力を上げるのは「心拍数」だった

 こういった調査の結果を総合的に見れば、運動が短期的にも長期的にも、子どもの脳に多大な影響をおよぼすことは明らかである。たった一度の運動で集中力が高まり、それを維持することができて、読解力も向上する。

 効果は1時間から数時間続いたのち、少しずつ薄れていく。だが大人と同じように、運動を定期的に数か月続けると(要は習慣にしてしまえば)、効果は増大して長続きする。

 ここで念を押すが、どのような運動を選ぶかは大人と同じく大した問題ではない。ランニング、遊び、テニスやサッカーの試合──どんなものでも同じように効果があると考えられている。

 ポイントは「心拍数を増やすこと」。だが何より大切なのは、何をして身体を動かすかではなく、とにかく身体を動かすことだ。

 脳の成長という観点から、運動を積極的にさせたほうがよい年齢はあるのだろうか。

 まだ詳しくわかっていないが、多くの研究データによれば、小学校に通う学童期が最も運動の恩恵を得られるようだ。

〝頭がよくなる〟は「どこ」が「どうなる」ことか

 科学は、運動によって大人の脳の機能が向上することを立証し、また、子どもの脳でも同様の変化が起きることも証明した。

 そしてさらに、「学習脳」の仕組みも明らかにしている。

 脳は、主に「灰白質」と「白質」に分けられる。

灰白質 白質 脳 運動脳 サンマーク出版
『運動脳』より

「灰白質」は外側の層で、大脳皮質ともいわれる。厚さは数ミリほどで、実際は灰色というより、ややピンクがかった淡い色をしている。これは、血液を供給する血管があるためだ。

 脳のとてつもなく複雑な営みの舞台こそが、この灰白質。情報の選別や記憶の保管は、この場所が行っている。

 そういった「魔法」が繰り広げられることを思えば、灰白質が相当なエネルギーを消費することもうなずける。何しろ灰白質は、脳内で占める容積の割合は40%ほどでありながら、脳全体が必要とするエネルギーの90%を消費しているのである。

 いっぽう「白質」は、灰白質の内側に層をなしている。あらゆる情報は、ここから各領域に伝えられる。

 白質は、神経細胞から伸びる「軸索」という長い線維が集まってできている。神経細胞は、この軸索を使って情報を伝え合っている。いうなれば灰白質がコンピュータで、白質はいくつものコンピュータ同士をつないでシグナルを伝えるケーブルといったところだろうか。

 この軸索は、「ミエリン」という物質(ケーブルのカバーだと思ってほしい)で何重にも取り巻かれている。ミエリンは絶縁体として電気信号がショートするのを防ぎ、情報が混ざり合うことなくスムーズに細胞に伝わるように助けている。

 灰白質と白質のどちらが欠けても、私たちの身体は正常に機能しない。灰白質が主要な仕事を一手に引き受けていることは確かだが、もし軸索が適切にシグナルを伝えられなければ、脳は正常に機能しないのだ。

 この関係は、非常に筋が通っている。コンピュータの電子回路がすべて正しくつながっていなければ作動しないのと同じだ。

「理系科目」を伸ばす

 それでは、運動をした子どもの脳でとくに変化が見られたのは灰白質だろうか、それとも白質だろうか。じつは、どちらにも変化が見られたのである。

 科学者たちが最初に気づいたのは、海馬の灰白質が成長していることだった。海馬は灰白質の一部である。とはいえ白質も、やはり運動やトレーニングによって強化される。子どもたちが運動を定期的に行った場合、白質にも変化が見られたのだ。灰白質と同じく、白質も組織が密集して厚みを増していた。つまり機能性がより高まったということだ。

 白質が複数のコンピュータをつなぐケーブルだとすれば、子どもたちの脳内のデータ転送を行うケーブルの働きが運動によって強化されたということになる。つまり、情報が領域から領域へと効率よく伝わるようになり、脳全体の働きがよくなったのだ。

 認知機能が灰白質で処理されていることは確かだが、白質も決して無関係ではない。白質は、とりわけ子どもたちの学力に関わっていると考えられている。

 小学校に通う子どもたちの脳をDTIという最先端の医療機器でスキャンした結果、脳の左側の白質が「数学的な能力」に関わっていることがわかった。算数を含む学力が上がった理由が、運動で白質の働きが強化されたためだと断定はできないものの、それを信じるだけの根拠は充分にある。

 興味深いことに、運動が白質におよぼす影響、つまり脳のケーブルの働きが強化されるという効果は、決して子どもにかぎらない。運動やトレーニングをすると、年齢を問わず白質の機能が強化されるという。とりわけ大人の脳の白質と運動量は、かなり関係があると考えられている。

 だが、白質の機能を高めるために、激しい運動をする必要はない。座ってばかりいないで、毎日をできるだけ活動的に過ごす。これだけでも、かなりの効果がある。長距離マラソンをする必要はないのである。

<本稿は『運動脳』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)


【著者】
アンデシュ・ハンセン(Anders Hansen)
精神科医。スウェーデンのストックホルム出身。
カロリンスカ研究所(カロリンスカ医科大学)にて医学を、ストックホルム商科大学にて企業経営を修めた。現在は上級医師として病院に勤務するかたわら、多数の記事の執筆を行っている。

【訳者】
御舩 由美子(みふね・ゆみこ)

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