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稲盛和夫「人生を生き抜くためのシンプルな知恵」

「もし挫折も苦労もまったく知らず、順風満帆な人生を歩んできたとしたら、自らの心を磨こうという努力をすることもなく、また他人の気持ちを汲み取ったりいたわったりすることのできない人間になっていたことでしょう」

 2022年に90歳で逝去された稲盛和夫さんは、2019年刊の著書『心。』でこう述べていました。稲盛さんが説いた、人生の生き抜き方とは?

『心。』(サンマーク出版) 稲盛和夫
『心。』

人生を生き抜くためのシンプルな知恵

 この世に生を受け、命をまっとうするまで歩みつづける人生という道のりは、だれにとっても波瀾万丈のドラマです。

 栄光に満ち、歓喜きわまる日があれば、苦難にさいなまれ、歯を食いしばって耐え忍ぶ日もあるでしょう。

 そんな人生を、私たちはどう生き抜いていったらよいのでしょうか。この世という荒海をどのように漕ぎ進めばよいのか。

 それは、実にシンプルなことなのです。人生で起こるあらゆる出来事はすべて自らの心が引き寄せ、つくり出したもの。そうであればこそ、目の前に起こってきた現実に対して、いかなる思いを抱き、いかなる心で対処するか―それによって、人生は大きく変わっていくのです。

 パナソニックを創業した松下幸之助さんは、幼いころに父親が米相場で失敗して破産したために小学校を中退して丁でつ稚ち 奉公に出され、子どものころから苦労を重ねてこられました。

 しかし、そんな運命にめげることなく、奉公先の主人に喜んでもらいたいという一途な心をもちつづけ、懸命に仕事に励んだ。そうした松下さんの実直で明るい心が、のちのパナソニックの繁栄を築く礎となったのです。

 同じように丁稚奉公にやられた子どもは、当時たくさんいたことでしょう。自らの境遇を恨み、世の中に対してひがんだり妬ねたんだりした子も多かったはずです。そういう子が松下さんのように大成することはなかったにちがいありません。

 どんな苦難に見舞われようとも、自らの運命、境遇を素直に受け止め、耐え忍びながらも明るく懸命に努力を重ねる。そういう人の人生は大きく拓けていきます。

 現状が苦しければ苦しいほど、人はとかく愚痴をこぼしたり不平不満をもらしてしまうもの。

 しかし、それらはめぐりめぐって自分に戻ってきて、さらに悪い境遇を呼び起こしてしまうのです。

 私自身、前に述べたとおり少年期から社会に出るまでは不運と挫折の連続で、苦難と逆境の中を歩みゆく人生でした。

 そんな自らの境遇に不平不満ばかりを唱えていたときは何事もうまくいくことがありませんでした。しかし、運命を素直に受け入れ、肚(はら)を据えて仕事に没頭し出したとたん、人生の流れは逆風から追い風へと変わったのです。

 あとから思えば、いっけん不幸の色に染まっているように思えた少年時代は、実は天が与えてくれたすばらしい人生への前奏曲でした。

 もし挫折も苦労もまったく知らず、順風満帆な人生を歩んできたとしたら、自らの心を磨こうという努力をすることもなく、また他人の気持ちを汲み取ったりいたわったりすることのできない人間になっていたことでしょう。

 目の前に現れた状況がいかに過酷なものであっても、それに対して恨んだり、卑屈になったりせず、つねに前向きに対処していく―それこそが、すばらしい人生を生きる秘訣なのです。

<本稿は『心。』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shutterstock


【著者】稲盛和夫(いなもり・かずお)
1932年、鹿児島生まれ。鹿児島大学工学部卒業。59年、京都セラミツク株式会社(現・京セラ)を設立。社長、会長を経て、97年より名誉会長。また、84年に第二電電(現KDDI)を設立、会長に就任。2001年より最高顧問。2010年には日本航空会長に就任。代表取締役会長、名誉会長を経て、2015年より名誉顧問。1984年には稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。毎年、人類社会の進歩発展に功績のあった人々の顕彰を行う。2022年逝去。


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