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専業主婦(夫)か仕事復帰かの議論で外せないこと

 4月からの新年度。産休・育休から復職する人も少なくないでしょう。

 ブラウン大学経済学部のエミリー・オスター教授は、経済学者として膨大なデータにあたり、そこから得た知見と、自身の子育て経験を交え、全てに科学的根拠を求めた『米国最強経済学者にして2児の母が読み解く子どもの育て方ベスト』を著しています。

 そこで論じていることの1つのテーマが『「家」にいる? 「仕事」にいく? 専業主婦(夫)か仕事復帰か』。

 イェール大学助教授の成田悠輔氏も「母になったデータのプロが激ツメする」と絶賛する、親が知っておくべきこと「全部」を1冊に凝縮した本書からお届けします。

『米国最強経済学者にして2児の母が読み解く子どもの育て方ベスト』(サンマーク出版) エミリー・オスター
『米国最強経済学者にして2児の母が
読み解く子どもの育て方ベスト』

他の親をとやかく言うのは無益で、非生産的

 子育てをめぐる論争で、出産後に復職するかどうかの選択ほど、重いテーマはない。

 この章のタイトル『「家」にいる? 「仕事」にいく? 専業主婦か仕事復帰か』は、友人の息子の学校でのやりとりに由来する。「きみのママはどっちのタイプ? うちのママは家にいるけど」と訊かれ、彼はこう答えたという。「へえ、うちのママは仕事に行くよ」

 「どっちのタイプのママ」という台詞には、かなりの対立感情が宿っている。日中何をしているかの選択で、自分がどのタイプの母親(そして人間)なのかが決まるような気がする人は多い。

 そのうえ、というかその結果、この話題は計り知れない緊張感や重苦しい空気をはらむことになる。働いている女性は、ずっと子どものそばにいないことに罪悪感を抱くと話す。働いていない女性はよく疎外感を味わい、いら立つと言う。個人のレベルでは自分の選択に満足していても、どちらの側からも審判の声が響いてくるような気がするのだ。

 「学校の遠足にどうして行けないの? ああ、わかった、仕事か。残念ね」 

 「で、どうしているの? ああ、子どもと家にいるだけ? 私にはとてもムリ──職場の人たちがみんな困るし」

 もう、やめよう。ほかの親をとやかく言うのは何につけても無益で、非生産的だ。この件も例外ではない。

大人は「何時間労働」がいい?

 1つには、議論の前提が無益だ。子どもと家にいるべきかどうかの選択はそれぞれの家庭で決めるべきだ。しかもなぜ、「母親」でなければならないのだろう。そんな必要はない。

 「専業主夫」も有効な選択肢だ。時には家にママが2人いてもいいし、パパが2人いてもいい。親が1人だってかまわない。

 だから、まずこの問題は、「あなたはどっちのタイプのママになるの?」ではなく、「あなたの家庭にとって最適な、大人の労働時間の編成は?」という問いかけから取り組んでいこう。

 ピンとこない質問だというのはわかっている。だが、意思決定にはこちらのほうが役立つ。

 第2に、親が子どもと家にいるべきかどうかの議論は、家庭によっては選択の対象ですらないという事実を無視している。

 アメリカには、家庭の大人全員が働かなければ、日々の暮らし(住む場所があり、食卓に食べ物が並ぶ)がままならない人たちが大勢いる。

 あなたの家庭が選択の自由に恵まれているなら、その選択についての考え方を提示するのがこの章の目的だ。理想をいえば、まずは罪悪感や恥ずかしさからではなく、意思決定の理論と信頼できるデータから始めよう。

意味のない「罪悪感」を捨てる

 仕事をするかどうかの選択はどう考えればいいだろう? 3つの要素があると思う。

①子どもにとって何が一番いいのか?(「一番いい」とは、子どもの将来の人生がうまくいくとか、幸せになるなどに役立つということにしよう)

②あなたは何をしたいのか?

③あなたの選択が家計に持つ意味は?

 ①と③についてはよく話題になる。

 ただ、②についてもぜひ考えてほしい。つまり、自分が仕事をしたいのかどうかを考えるべきなのだ。よく聞くのは、「働かないといけないから」「専業主婦でいないといけないから」という言葉だ。どちらも、場合によってはその通りなのだろう。でも言うほどではないと私は思っている。

 問題はそこにある。自分が働きたかったから、家にいたかったから、その選択をしたと言えばいい。

 私のことを書こう。

 私は幸いにも働かなければいけないわけではない。それは、ジェシーと私は、1人分の収入で生活できるよう生活設計を変えられるという意味だ。私が働くのは、自分がそうしたいからだ。子どもたちのことは大好きだ! かけがえのない存在だと思う。でも家で一緒にいるだけでは私は満足できない。私が最高に幸せになれる時間配分は、だいたい1日に仕事が8時間で、子どもとの時間が3時間だと計算している。

 それは、総じて子どもたちよりも仕事のほうが好きだということではない──どちらかを選べといわれたら、必ず子どもたちが勝つ。でも子どもたちとの時間の「限界価値」の低下は早い。これは1つには子どもたちといると疲弊するからだ。最初の1時間は素晴らしいが、次の1時間はそれほどでもなくなり、4時間目にはワインを1杯飲みたくなるか、少し研究に時間をとりたくなる。

「わが家にいいこと」を考える

 仕事はそうはならない。確かに8時間目は7時間目よりは楽しくなくなる。ただ、最高のときも、最低のときも、子どもたちとの時間ほど高みに行かないし、落ち込まない。仕事の肉体面、精神面の厳しさは、親として子育ての現場にいるときの肉体面、精神面の厳しさと比べれば、たかが知れている。私の仕事の8時間目は、普段の子どもとの5時間目よりうまくいく。だから私は仕事をしている。仕事が好きだからだ。

 こういうことは言ってもいいはずだ。「家で子どもと一緒にいたいからそうしている」と言っていいのと同じだ。1日に8時間も経済学なんかやりたくないと思う人が大勢いるのはよくわかっている。

 子どもたちの成長には自分が家にいるのが一番いい。そう言っておかないとまずいのだとしたら、それはおかしい。少なくとも、それだけを決定の理由にするのはやめよう。「こういうライフスタイルが好きだから」とか「わが家はこれでうまく行くから」という選択の理由があってもいい!

<本稿は『米国最強経済学者にして2児の母が読み解く子どもの育て方ベスト』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)

Photo by Shutterstock

【著者】
エミリー・オスター(Emily Oster)
米アイビーリーグの名門校、ブラウン大学経済学部教授。経済学者の両親のもとで育つ。ハーバード大学で統計学を学び、経済学の博士号を取得。開発経済学、医療経済学など幅広い分野の研究成果がメディアで注目され、2007年には有名講演者の登壇するTEDカンファレンスでアフリカのエイズ問題を講演。シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネス准教授時代の2013年、自身の妊娠出産で検証した客観的なデータをもとに、著書『お医者さんは教えてくれない 妊娠・出産の常識ウソ・ホント』(東洋経済新報社)を刊行、大反響を呼ぶ。夫は同じブラウン大学教授の経済学者ジェシー・シャピロ。2人の子どもと共にロードアイランド州プロビデンスに在住。

【訳者】
堀内久美子(ほりうち・くみこ)


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