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太ると、食べても食べても満足できない「止まらない現象」はなぜ起こる?-ウェルネスライフ

太ると、以前と「同じ量」を食べていたのでは満足感できない。もうちょっと食べたい。その結果、さらに太る。そうなると、ますます食べる量が増えてしまう。こうして体重にも、食べる量にも歯止めがかからなくなる「止まらない現象」に陥った経験はありませんか?

人は、どうして太ると食べる量が増えてしまうのか。どうすれば「止まらない現象」から脱することができるのか。

そんな疑問に『Life is Wellness 「健康な生き方」の科学』の著者・石村友見さんが答えてくださいました。

〈解説〉石村友見
株式会社 Life is Wellness代表

劇団四季で『ライオンキング』に出演後、単身ニューヨークに渡り、ブロードウェイ・ミュージカル『ミス・サイゴン』に出演。その後ヨガスタジオを設立し、レッスンからヨガ講師の育成まで尽力。2018年に発表した著書『ゼロトレ』はシリーズ120万部の記録的ヒットとなり、『金スマ』『世界一受けたい授業』など多くのテレビ番組に出演。

その後、ハーバード大学医学部「Health and Wellness」講義にて、ウェルネスの観点から世界最先端の栄養学をはじめ運動、コミュニケーションについて学ぶ。現在は、ニューヨークと東京を行き来する生活。11歳男児の母。


第6の味覚「脂肪味」

人の味覚は5種類あると言われてきました。甘味、酸味、塩味、苦味、うま味。ところが 近年、九州大学の研究グループによって第6の味覚が注目されています。「脂肪味」です。

人間が味覚を感じるのは「味蕾」(みらい)です。舌の表面にあるブツブツとしたもので、赤ちゃんの口の中には約1万個あり、それが加齢とともに減少していきます。成人で約7000個、 高齢者では約3000個に減ると言われています。

味蕾には、先ほど挙げた甘味や酸味などの5つの成分を受け取る細胞があり、それぞれの味覚を脳に伝える神経とつながっていることがわかっていましたが、さらに脂肪味を脳に伝える神経が発見されました。

これは、簡単に言うと「脂の味を見分ける味覚」のことです。

この味覚の存在を知って、私には納得することが多々ありました。私は、極端に脂に弱く、脂肪分の多いお肉を食べ始めると、わずかひと口かふた口で食べられなくなってしまいます。

ファストフードのポテトを食べると(滅多に口に入れることはないのですが)、その後すぐに気持ち悪くなってしまいます。


油っこい食べ物を次々に口に運ぶ周囲の人たちを見て、「私はもしかすると体が弱いのかしら……」と考えたこともありました。しかし、これらはすべて脂肪味という味覚によるものだったのだとわかりすっきりしました。

研究によると、脂肪味の感じ方は人それぞれで、

1日に2回以上、揚げ物を食べる人
◎脂ののった肉や魚が好きな人
◎和菓子より洋菓子が好きな人
◎低脂肪の乳製品では物足りない人

などは脂肪味が鈍ってしまうようです。これが鈍ることの問題は、脂物を少々食べても満足できず、「もっと、もっと」と食べてしまうことです。

脂っこいものじゃないと食べた気がせず、次々と口に運ぶことで肥満になり、さらに脂肪味は鈍って過食する、という「止まらない現象」に陥ってしまうわけです。

太ると、もっと食べたくなる

こうして食べすぎて肥満になると、さらに食べる量が増えて、もっと肥満になっていきます。

たとえば、あなたが7キロ太ったとします。こうして余分な脂肪がつくと、毎日生きていくための基礎代謝に必要なカロリーも増えます。

以前は、空腹を満たすのに日に2500キロカロリーで済んでいたのに、それが3000キロカロリー必要になる。体重が増えたことによって、体の状態を保つために必要な食欲も増してしまうわけです。

まるで端と端に巨漢の2人が座るシーソーゲームのようなものです。

自分の健康チェックのために「体の声を聞きなさい」とよく言われますが、このシーソーゲームが始まってから「胃の声」を聞いてしまうと、食べる量はどんどん増えていきます。これは、 胃が空腹感を埋めるために欲する量がどんどん大きくなってしまうため。

体の声を聞けばいいというものではありません。 こうなってしまうと、よほどのダイエットをしない限り減量は叶わなくなります。

「栄養が足りてない」を気づける体になる

味を楽しむこと以外に、人が食物を「食べる理由」はいくつかあり、代表的なのが次の2つです。

1、動くエネルギーにする
立ったり、座ったり、歩いたり、走ったりと「体を動かす」ために必要なカロリーに するため。心臓や肺をはじめとする臓器を機能させるための燃料にもしている。食べないとエネルギーが出ず、動けなくなってしまう。

2、細胞の原材料にする
人の体は毎日2000億個の赤血球を作り、約120日ですべての「血液」が入れ替わる。90〜120日で「古い骨」は新しくなり、1か月ほどで「皮膚」は完全に生まれ変わる。

これらの再生のために、食物のタンパク質やミネラルが必要になる。血液、骨、皮 膚、毛髪、臓器など、人間の体の細胞が絶えず生まれ変わるために、原材料としての食物が必要になる。


体は、1には敏感で、2の欠乏には気づきにくいものです。

人は1の「エネルギー」を必要とするとき、空腹感を覚えます。古来、「狩りをしたあと次の獲物にいつありつけるかわからない」と生物学的にプログラミングされているせいで、食事をするたびに「まるでその後しばらくは食べられない」かのようにしっかり食べます。現代では食べたいときに食べられるにもかかわらずです。

さらに、その際はエネルギーが最も多く含まれる食物、たとえば砂糖や脂肪などを 「特においしい」と感じます。

一方、2の血液や骨や皮膚が再生される過程で必要となる栄養素については、「欠乏している」とは自覚しにくいもの。そのため、体がおかしくなるまでこれらの欠乏に気づかない人が多いのです。

「空腹感」を満たすために悪影響のあるものを食べ、「栄養素の欠乏感」を自覚せずに必要な栄養を摂らない。

こうして、口に入れば皆一緒、といった感覚に陥ってしまいます。体も心も充実した「ウェルネス」になるためには、

「空腹」に理性的になり、
「栄養」に敏感になること。

つまり、空腹を満たすために食べすぎるのをやめ、栄養が足りていないときにそれを自覚できる体になることです。

食生活を見直し、鈍ってしまった味蕾の機能を取り戻すことで、「止まらない現象」にストップをかけることができるはずです。その先に待っているのは 「最高の体調」なのです。


*石村友見さんの著書『Life is Wellness 「健康な生き方」の科学』には、この記事に掲載された「止まらない現象」をはじめ、最新の栄養学をベースにした食事法が詳しく掲載されています。以下からお求めください。