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プレゼンで説得力が抜群な人が実践する3段階思考

徹夜で資料を作成し、もてる力をすべて注ぎ込んで説明したのに契約が取れなかった。自社の商品やサービスがいかに素晴らしいか情熱を込めて1時間も熱弁したにもかかわらず「わからん」のひと言で終了。会社に必要なことだから、と理路整然と上司に説明した提案が無視されてしまった――。

これと似た経験をしたことがあるビジネスパーソンは、意外と少なくないのではないでしょうか。伝えたいことが伝わらないと、どんなにいいアイデアがあったとしても仕事の成果にはつながりません。

では、どうすれば?

仕事のスピードや効率を圧倒的に高める思考法をまとめた『仕事を減らす』から一部抜粋、再構成してお届けします。

『仕事を減らす』

「うまく伝わらない」という仕事を増やすリスクを排除せよ

 受け取る側が発信者と同じレベルで話を聞き理解することは、ほぼないと思ったほうがいい。もしかすると相手は、自分がいま抱えるトラブルのことばかり考えて聞いているかもしれないし、小中学校での校長先生の話や会社での社長の訓示を義務として耳に入れる感覚でいるかもしれない。そう考えると伝える力の重要度は、ときに伝えるアイデア以上になることすらあるだろう。

 伝えることは、すべての仕事の基本中の基本だ。報告・連絡・相談はもちろん、営業なら顧客に商品情報を伝える、上司へ状況を伝える、部下に指示を伝える、会議で自分の意見を伝えるなど、仕事のあらゆる側面で必要になる。

ここでは、営業という仕事のなかでも重要な顧客へのプレゼンをテーマに、その根幹を成す伝えることの具体例を紹介していく。経営層へのプレゼン、株主へのプレゼン、会議でのプレゼン、社員へのプレゼン、取引先へのプレゼン、いずれも大切なのは「伝える力」だ。

 ここで紹介する方法は、対象が顧客でなくとも効果は変わらない。つまり営業職以外の方にも必ず役立つものなので、ぜひ実践していただきたい。

 仕事を減らすためには3つのステップがある。1つ目は何らかの対象から意識的に離れて物事をとらえ、その使命を明らかにする「引いて考える」。2つ目は既存の知識を「組み合わせ」る。3つ目が「試す」だ。この3ステップに沿って考えてみよう。

1.プレゼンを「引いて考える」

 まず、ご自身がプレゼンをしている姿を思い浮かべてみてほしい。場所は「会議室A」で、そこには顧客側の担当者2名がいる。プレゼンで用意したパワーポイントは60ページ。1ページを1分で説明すれば60分で終わり、質疑応答に移れる。

 プレゼンが終わり、質疑応答ではかなり突っ込んだ質問もあったので、今回は成功したと思う。しかし肝心の商談は先に進むことはなかった。

 「会議室A」から10メートル上空に引いて考えてみる。

 顧客側の担当者2名はプレゼンと質疑応答が終わると、同じフロアの「会議室B」にいる上司にプレゼン内容を報告したはずだ。はたしてそのとき、あなたと同じ熱量で同じようにわかりやすく、60分かけて説明しただろうか。

 NOだ。ほぼ間違いなく自分の考えで要約した内容を報告したはずだ。もし、その内容が伝えたかったことと違ったら、あなたがプレゼンした内容が顧客の上司に伝わることは永遠にない。

 次に、20メートルほど上空まで引いて考えてみる。今度は役員会が催される「役員室」まで眺められた。その上司が部下の要約した内容を役員会で発表し、決裁を仰ぐ。要約された内容はさらに簡素化され、最初にあなたがプレゼンした内容の骨子は吹っ飛んでいた。プレゼンした側からすると背すじも凍る話だが、これは世界中で毎日のように起きていることだろう。

 熱量の高い熱心なプレゼンには、たしかに顧客個人の判断を促す効果がある。しかし多くの場合、商談の可否は特定の決裁者や会議などでの判断となる。

 つまり、あなたが説明した相手が決裁者でないかぎり、何日もかけて作成した数十ページの資料も、熱く語った素晴らしさも〝決裁に関わる人に伝言してもらうことを想定していない残念な案件〟としか思われないのである。 

 プレゼンで成果が出なかった場合、ほとんどの人はプレゼンのやり方を問題視する。「次回はもっと詳細な情報をきれいにまとめ上げるぞ」などと燃え、目の前の人を説得するにはどうしたらいいかを突き詰めて考える。対策を練り、前回より熱量を上げて力説する。

 これを繰り返しても、残念ながら成果にはつながりにくい。そんなときは離れた位置に幽体離脱したように視点を引いて、その仕事をしている自分の姿や取引先を俯瞰してみよう。そうすると次のような本質が見えてくる。

「プレゼンは共有を使命とする」

 「引いて考える」ことでプレゼンにおける使命が明らかになった。いよいよ、この使命を実現するための小さなイノベーションを考えることになる。営業職なら決裁者や合議の場への参加者、企画職なら企画会議の参加者など、プレゼンを直接聞いた人に好印象を与えつつ、プレゼンを聞いていない人にも内容を正確に共有できるようにしておかなければならない。

2.プレゼンの「組み合わせ」

 次のステップは、「組み合わせ」の参考になる知識がないかを探す思考の旅だ。自社にヒントとなる実例がないか探してみるのが最初のアプローチだろう。チャットなどで、プレゼン相手以外にきちんとプレゼン内容を共有させることに成功した例がないか問いかけてみる。

 誰からも返事がない。

 ここであきらめる人は多いが、旅は始まったばかりだ。

 次に他社に視点を移してみる。

「同業他社やほかの業界」の情報はなかなか得ることができない。しかし「プレゼン相手以外に内容を共有させる必要があるという問題意識」をもっていると、思わぬことに気づくケースがある。

 たとえばユニークな視点の斬新なドラマを観たとき、誰が脚本を書きキャスティングを考えたのか、気になったことはないだろうか。

 ここではSNSで見かける新商品を誰が考え、どうやって会社を説得したのだろうと思いをめぐらせてみることにした。

あの大ヒット商品の企画書に記された魔法の11文字

 SNSを眺めていると、CASIOのG-SHOCKの最初の企画書には「落としても壊れない時計」というたった11文字だけが書かれていたと知った。つまりこれは、まだ開発されていないG-SHOCKを明確にイメージさせられた魔法の11文字ということだ。なぜなら企画会議の先にある役員会議の参加者にも、この新商品を鮮明にイメージさせられ、しかも承認された言葉だからだ。

 検索でも資料探しでもいいが、ここでは手っ取り早く生成AIに「1行で特徴をあらわした商品の例は?」と質問してみた。すると次から次へと例が挙がる。

「指で触れるだけですべてが操作できるスマートフォン」 AppleのiPhone
「本を持ち歩く必要のない電子書籍端末」AmazonのKindle
「据え置き型と携帯型の両方の機能を備えたゲーム機」NintendoのNintendo Switch
「最先端の技術を搭載したコードレス掃除機」DysonのDyson V15 Detect
「コンパクトサイズで大容量の食洗機」PanasonicのNP-TZ100
「低燃費と走行性能を両立したコンパクトカー」トヨタ自動車のカローラ

 エレベーターピッチという言葉がある。これは、エレベーターに乗っているあいだ程度の短時間で偶然出会った重要な人物の関心を引き、自分のアイデアやビジネスの要点を的確に伝えて興味を抱かせることを指す。

 起業家は、このエレベーターピッチで投資家から巨額の投資を得る。

 たとえばCOVID-19で日本でも有名になったUberの創業者、トラビス・カラニックとギャレット・キャンプは、TechCrunchでエレベーターピッチを行い、250万ドルの投資を獲得した。Zoomの創業者であるエリック・ヤンは、セコイア・キャピタルでエレベーターピッチを行い1億ドルの投資を獲得した。

 さらに、WeWorkの創業者アダム・ニューマンとミゲル・マッケルビーは、ソフトバンクグループでエレベーターピッチを行い100億ドルの投資を獲得した。その後の経営は別にして、このプレゼン能力には驚くばかりだ。まさにエレベーターピッチの効力を表す事例と言えるだろう。

 新商品の企画書であれエレベーターピッチであれ、長い説明はダメで、要点を突いた1行程度の短いものが共通認識には必要だということがわかってくる。

「引いて考える」ことで、プレゼンは共有を使命とすることが明確になった。そのための手段として、要点を押さえ特徴を凝縮することが大切だとわかった。これはプレゼン資料のページ数を増やし充実させ、内容を飾り、情熱的に話すという従来のアプローチと真逆だ。

プレゼンに強大な貫通力をもたらす武器

 ここで新しい、プレゼンの小さなイノベーション案が浮かんでくる。資料の冒頭や最後には必ず、要点を押さえ特徴を凝縮した1行を挿入しておく。これなら「会議室A」で説明した顧客の担当者2名に伝わり、その上司にも伝わり、さらに役員会に参加した人たちにも正確に伝わりやすい。

「既存のプレゼン資料と、特徴を凝縮した1行の組み合わせ」

 これによってプレゼン資料そのものをわかりやすくするために修正や加筆を繰り返してきた労力は、特徴を凝縮した1行を考えるという頭脳労働に変貌した。これは電車に乗っているときでも、食事中でも、散歩中でもできる。それをプレゼン資料に書き込む時間は5分とかからないだろう。

3.プレゼンで「試す」

 ここまでの思考プロセス「引いて考える」「組み合わせ」で、既存のプレゼン資料と特徴を凝縮した1行を組み合わせる、という未検証の小さなイノベーションが生まれた。これから検証が始まる。

 さっそく別の顧客で「試す」ことをしてみる。先方の担当者には凝縮した1行をさらに強調したので、これまで以上に反応がよかった。

 しかし契約には至らなかった。

 おかしい。

 役員会まで凝縮された1行は伝わったのだろうか。担当者に確認したところ、それは伝わっていたという。

 今回の小さなイノベーション(未検証)を生み出すために有効な「組み合わせ」の知識は、自社にはなかった。そのため「同業他社やほかの業界」に求めた。そこで見つけた凝縮した1行という知識の組み合わせで、先方の上司までは的確に伝わったが、役員会を通るほどの貫通力がなかった。

 上司まで的確に伝わったなら、引いて考えて明らかにした使命は問題ないだろう。ならば「組み合わせ」に戻って「試す」のやり直しだ。別の会社や業界(同じ業界やほかの業界)の情報に知識を求めてみる。

 生成AIのプロンプトが思いつかない。SNSを眺めていてもひらめかない。こんなときは書店に赴くのも一つの方法だ。もちろん情報の量ではWeb空間に敵わないが、出所の怪しいものは少ないし、実績ある著者のベストセラーやロングセラー以外にも、さまざまなタイプの本が並んでいる。そのときの問題意識によって、妙に気になるタイトルや帯が目に飛び込んでくる。

 書店をぶらぶらしていると、トヨタのノウハウ本が多数並ぶコーナーがあった。そのなかに「紙1枚にまとめる」「A3にまとめる」という本が並んでいた。立ち読みしてみると稟議書、会議の議事録、企画の提案書、打ち合わせの資料など、仕事のあらゆる場面でA3、A4サイズの書類を「1枚」用意した状態で臨むとある。

 トヨタはスムーズな情報伝達やコミュニケーション、問題解決などの取り組みがあるからこそ、社員数約7万人の巨大企業がナンバーワンの座に輝くことができたとまで書いてあった。さっそく1冊選んで購入してみることにした。

「紙1枚にまとめる」を追加で「組み合わせ」

 ここで60ページのパワーポイントを1枚にまとめてみようとひらめいた。生成AIでもない、SNSでもない、Google検索でもない、書店をぶらぶらすることで、既存のプレゼンをA3用紙1枚に凝縮する試みを思いついた。

「組み合わせ」は1対1とはかぎらない。複数でもいい。先ほどの凝縮した1行をタイトルにし、60ページのプレゼンを1枚(A3)に凝縮する。つまりCASIOのG-SHOCKの企画書が成功した事例と、トヨタ自動車の稟議書の事例を「組み合わせ」るのだ。

 そしてプレゼン後、担当者に紙とPDFで渡せば、彼らの上司にも役員会にも全体像が伝わりやすいはずだ。さらに通りやすくなるだろう。

 このやり方を別の顧客に「試す」。しかし、またもや契約には至らなかった。担当者によると、上司の理解はクリアになり役員会も万全だったとのこと。

 ならば、なぜだ。ここであきらめてはいけない。

 思考を止めてはいけない。

 今回の小さなイノベーション(未検証)は、「同業他社やほかの業界」に「組み合わせ」の対象となる知識を求めた。しかもトヨタ自動車という日本でトップクラスの企業のノウハウだ。だが効果は足りなかった。「試す」は続く。

 次は「技術の歴史」に目を向けてみる。いまはあたりまえになっている技術でも、世に存在しなかった時代は予算獲得に苦労したはずだ。そこにも知識や知恵があるのではないか。しかし残念ながら、有用な知識が見つからなかった。次に「日本の歴史」「世界の歴史」へと思考の旅は続く。

 ふと中国の歴史書にあった「三人言いて虎を成す」という故事が目についた。王に「市場に虎があらわれたと言ったら信じますか?」とたずねると、王の答えはNO。「では、二人が言ったら信じますか?」でも答えはNO。

「では三人なら?」とたずねると、王は「信じるかもしれんな」と答えたという。つまり3人が同じことを言うと3つの情報の差異までも把握でき、人はその情報を信じやすいのだ。

 さっそく好意的な意見をもつユーザーの取材事例を用意しようとしたが、2社しかない。「三人言いて虎を成す」からすると1社足りない。そこで懇意にしている顧客とZoomなどでミーティングの機会を設定した。

 まとめると次の2つとなり、これで「組み合わせ」は3つとなる。

  • 1 人は3人がいいと言うと、その情報を信じやすい

  • 2 2社は取材事例として、1社は生の声を届けた

  • 組み合わせ① CASIOのノウハウで1行に凝縮されたタイトル

  • 組み合わせ② トヨタ自動車のノウハウを使って1枚に凝縮したプレゼン資料

  • 組み合わせ③ 「三人言いて虎を成す」の故事

 組み合わせ①と②で中身は伝わったはずなのに、役員会の承認が得られなかったのは、人に伝えるとき「なぜなら~ので」と表現すると判断の背中が押される、という中国の歴史書にあった「ので理論」が働かなかったからと推測した。

 これを別の顧客で試してみた。すると組み合わせ①②と「なぜなら」A社、B社、C社で採用されている「ので」(ので理論)、という3つが組み合わされ、無事契約が獲得できた。ここで「試す」プロセスはとりあえず完了だ。

  • 試す① 60ページのパワーポイント資料と、プレゼンを1行に凝縮するCASIOのノウハウを組み合わせた小さなイノベーションver.1

  • 試す② 小さなイノベーションver.1に、トヨタ自動車の1枚に凝縮する稟議書のノウハウを組み合わせたver.2

  • 試す③ ver.2に「ので理論」を組み合わせたver.3

 この3回で伝える力は大きく強化された。さらに徹夜で数十ページの資料を顧客ごとにつくる仕事は激減した。というより必要なくなる。

 逆に必要になるのは1行に凝縮する、1枚に凝縮するという頭脳労働だ。これは通勤時間でも散歩中でも、ランチの最中だってできる。しかも一度できてしまえば好意的な意見の事例とともに、どの顧客にも流用できるので効果的かつ効率的だ。

▶️プレゼンでの「仕事を減らす」効果
(before)
数十ページの資料(3時間)×顧客ごと(顧客数の40社)
→120時間(成約率が低い)

(after)
凝縮された1行と1枚の資料(考えがまとまれば2時間。顧客数は無限)
→初回のみ2時間(成約率が高い)

減らした仕事と労力 118時間分の仕事を削減。成約率が上がる

 このように「引いて考える」「組み合わせ」「試す」の3つで伝える力を強化すると、必然的に仕事を劇的に減らすことになる。

 ここでは「組み合わせ」の段階で、知識を得る順番を自社から「同業他社やほかの業界」と拡大し、次に「技術の歴史」「日本の歴史」「世界の歴史」に求めた。「組み合わせ」の知識はラクに見つかるに越したことはない。このように近いものから順に探していこう。

 そのための素材として、ここで紹介したのは最も簡単な方法としての生成AI、そしてSNS、書店をぶらぶらする(本)、Google検索、過去に読んだ本からの知識などだ。手間も費用もほとんどかからない。

 加えて必要なものがあるとすれば「組み合わせ」を探す意識くらいだ。

 生成AIの進化によって、今後は生成AIだけで有効な「組み合わせ」を見つけることも増えるだろう。しかし手段は絞らないほうがいい。そのうち街をぶらぶら散歩していると突然降りてくる感覚を味わうことになる。人間の脳は優秀で、無意識の領域で勝手に「組み合わせ」をつくるようになっていくからだ。

<本稿は『仕事を減らす』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>


【著者】
田中猪夫(たなか・いのお)
1959年、岐阜県生まれ。故・糸川英夫博士の主催する「組織工学研究会」が閉鎖されるまでの10年間を支えた事務局員。Creative Organized Technologyを専門とする。
大学をドロップ・アウトし、20代に、当時トップシェアのパソコンデータベースによるIT企業を起業。 30代には、イノベーションの宝庫であるイスラエルのテクノロジーの日本へのマーケット・エントリーに尽力。日本のVC初のイスラエル投資を成功させる。 40代には、当時世界トップクラスのデジタルマーケティングツールベンダーのカントリーマネージャーを10年続ける。そして、50代にはグローバルビジネスにおけるリスクマネジメント業界に転身。
ほぼ10年ごとに、まったく異質な仕事にたずさわることで、ビジネスにおけるCreative Organized Technologyの実践フィールドを拡張し続けている。

Photo by Shutterstock


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