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世界中の企業が注目する 「ウェルネス」 とは? ヘルスと何が違うのか?

「ウェルネス」という言葉が世界中から注目されています。ホテル産業、旅行産業、不動産産業、フィットネス産業、食品産業、ペット産業などでウェルネスをサービスの軸にするケースが多くなってきました。

ウェルネスとは、身体的、精神的、社会的にトータルで見て人生を「Well」にしようとする前向きな姿勢、取り組みのこと。

では、なぜ、今ここまでに世界中の人々がウェルネスに注目しているのか。ハーバード大学医学部のウェルネス講義『Health and Wellness」を修了し、ウェルネスに関する書籍『 Life is Wellness 「健康な生き方」の科学 』の著者でもある石村友見さんにお話をうかがいました。

〈解説〉石村友見
株式会社 Life is Wellness代表

劇団四季で『ライオンキング』に出演後、単身ニューヨークに渡り、ブロードウェイ・ミュージカル『ミス・サイゴン』に出演。その後ヨガスタジオを設立し、レッスンからヨガ講師の育成まで尽力。2018年に発表した著書『ゼロトレ』はシリーズ120万部の記録的ヒットとなり、『金スマ』『世界一受けたい授業』など多くのテレビ番組に出演。

その後、ハーバード大学医学部「Health and Wellness」講義にて、ウェルネスの観点から世界最先端の栄養学をはじめ運動、コミュニケーションについて学ぶ。現在は、ニューヨークと東京を行き来する生活。11歳男児の母。

◎人生を、輝くように生き生きと

ウェルネスとは、疾病産業を多く含む従来の「ヘルス(健康)」と区別されることを目的として、1961年にアメリカのハルバート・ダン医師が、

輝くように生き生きしている状態

ハルバート・ダン医師

と提唱したことが最初の定義です。

1977年にはアメリカの全米ウェルネス協会(National Wellness Institute)が 発足し、世界的にこの言葉が普及するきっかけになりました。全米ウェルネス協会の共同創業者であるビル・ヘトラー氏は、ウェルネスの構成要素は次の6つであるとしています。

身体、感情、精神、知性、職業、社会

現在はここからさらに発展し、多元的、重層的な要素でウェルネスは成り立つとされています。

ウェルネスが意味するのは、より良く生きようとする生活態度。単に体の健康を指すのではなく、体も心も元気になって、生き生きとした「自分が望む人生」を歩むことに重きを置く前向きな言葉です。

最初に提唱したハルバート・ダン医師は「本人が病気であるかどうかに注目せず、健康を手段とし、生き生きと輝く人生を目指す姿勢や志向こそがウェルネス」だとしています。

その後、様々な解釈が行われてきましたが、「輝く人生を目指す」という方向性に変化はありません。身体的、精神的、社会的な側面をトータルで健康的に生きることがウェルネスなのです。

◎ヘルスとウェルネスは何が違うのか

「ヘルス」も「ウェルネス」も日本語に直訳すれば、どちらも「健康」です。ところが、 一般的にヘルスが「病気ではない状態(体が健康)」なのに対して、ウェルネスはもっ と広範囲な概念。体と心が健康で、人生に「前向き」な状態を意味しています。決して、体の健康だけを表すものではありません。

下の表は、ヘルスとウェルネスの違いをまとめたものです。

『Life is Wellness 「健康な生き方」の科学』より

ヘルスが主に体を対象にしているのに対し、ウェルネスは心身と人生全般が対象です。

ヘルスは病気を避けようとするネガティブ(アンウェルカム)な反応ですが、ウェルネスは人生を積極的に楽しもうとするポジティブ(ウェルカム)な反応です。

ダイエットや健康法などに代表されるヘルスは自己抑制を強いられますが、ウェルネスは楽しく、自己受容感(ありのままの自分を受け入れる感覚)が高まります。

ヘルスは実践中の中身にフォーカスし、ウェルネスは実践後の気持ちよさにフォーカスします。

◎世界中が注目するウェルネス産業

産業としてのウェルネスについても見てみます。2022年に刊行された『消費トレンド2040市場予測』(日経BP)では、今後の新成長産業として「ウェルネス市場」が取り上げられました。

その本では、ウェルネスについて「病気ではない『ヘルス(健康)』を基盤とし、自分の人生を輝くものにすること。または、そのゴールに向かっている状態」という捉え方をしており、それを実現するためのあらゆる分野にウェルネスが浸透していく可能性が高いと書かれています。例えば、以下のような産業です。

ヘルスケア
メディカル
食品
レストラン
住宅
ツーリズム
フィットネス
ホテルサービス
ウェアラブルデバイス
ペット向けサービス

日本におけるウェルネス市場の規模は、2030年に約6兆円になると推計されています( 日経X TREND『新たな有望消費市場の1つ、「ウェルネス市場」の2040年を見通す』より)。これはじつに、近年の食品業界に匹敵するような市場規模です。

私の住むニューヨークでは、ウェルネスは人々の生活に欠かせないものになっています。 いかに食べるか、運動するか、眠るか、働くか、貯蓄するか、歳をとるかなど「生活のすべて」に関わってくるのがウェルネスです。

これらを前向きに行っていく文化がニューヨークには染み込んでいて、パーソナルトレーナーをつけたり、毎日サラダボウルを食べたり、自宅でパーティをして仲間と語り合ったり、週末にはハンプトンというリゾート地で過ごしたりして、人生を楽しんでいます。

多くの人がウェルネスになるために自分なりの「ライフスタイル」を確立しているわけです。

◎ウェルネス産業の市場規模

アメリカを中心とした世界のウェルネス産業は近年大きく伸びています。

Global Wellness Institute(GWI)が発表した「The Global Wellness Economy:Looking Beyond COVID」のレポートによると、記録的な成長を続けていた世界のウェルネス市場は、コロナの打撃により2020年はマイナスに転じましたが、その一方で、消費者の意識に感染予防や健康を重視する「価値感のリセット」が起きたことで、2021年には パンデミック前の5兆ドル規模に回復、2025年までに7兆ドル規模まで拡大すると予測しています。

GWIはウェルネスを11の領域に分けており、それぞれの2022年の市場規模は次の通りです。とてつもない売上規模になっていることがわかります。

『Life is Wellness 「健康な生き方」の科学』より

「ウェルネス産業」と「疾病産業」はよく比較されます。疾病産業は一般的に、風邪から腫瘍にいたるまで、病気の患者に対して「受身的」に提供される製品やサービスを扱います。

顧客は、決して望んでその状態になったわけではないので「アンウェルカム」な状態。 人々は顧客になりたいわけではありません。 「ヘルスケア産業」と言われるものの多くは、じつは疾病産業です。疾病は「不健康、病気、不調、虚弱、健全ではない状態」のこと。

それに対し、ウェルネス産業は、病気の治療ではなく、より健康で生きて行こうとしたり、若々しくいようとしたりする「積極的」な希望を叶えようとする製品やサービス を扱います。これは顧客にとって「ウェルカム」な状態。人々は自らすすんで顧客になりたがります。

このようにウェルネスは、人生100年時代と言われる現代にとって、長きにわたって健康に生きていくための大切な考え方です。多くの人がウェルネスになることで、幸福感に満たされ、生き生きとした日々を送ることを願っています。

『Life is Wellness 「健康な生き方」の科学』
(サンマーク出版)


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