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食後に眠くてだるい人を襲う「糖質疲労」を放置してはいけない理由

 書評家・印南敦史さんによる『糖質疲労』(サンマーク出版)のブックレビューをお届けします。

「糖質疲労」という言葉は聞き慣れないが、それもそのはず。これは糖尿病専門医である『糖質疲労』の著者、山田悟氏が、アスリートやビジネスパーソンの方々と接する過程で気づいた概念なのだそうだ。

 そこで、まずはそれがどのようなものであるのかを確認しておこう。

「糖質疲労」とは

食後高血糖および血糖値スパイクにより、
① 食後に、眠い、だるい、食べた量の割にはすぐに小腹が減る、集中力がもたない、イライラしている、と自覚する状態
② 上の状態を自覚せずとも周囲から指摘される状態
③ ご自身で「食後血糖値」を測定して140mg/dℓ以上になっている状態

(「Introduction 今日のパフォーマンスと、未来の健康を脅かす『糖質疲労』」より)

「食後高血糖」とは、文字どおり“食後の血糖値(正常140mg/dℓ未満)”が高いこと。いうまでもなく、健康診断で測る「空腹時血糖値」(正常110mg/dℓ未満)とは判断基準が異なる。食事をとったあとには誰でもある程度は血糖値が上がるが、その上がり幅が大きいのが「食後高血糖」なのである。

 食後高血糖は、血糖値が急上昇したのちに遅れて分泌されるインスリンというホルモンの影響で、急ブレーキのように血糖値が急速に下がる現象へと続いていく。

 この、“血糖値が急激に上がり、その後急速に降下する”というさまが「血糖値スパイク」と呼ばれるものだ。「食後高血糖」から血糖値の乱高下が生じるということなのだから、それが不自然な状態であることは私たち素人でも想像がつく。

 糖質疲労の段階ではまだ病気とはいえない。すぐに薬を飲む必要はない。ただ、放置しておくと、いずれドミノ倒しのように糖尿病、肥満、高血圧、脂質異常症に至る可能性がある。その負の連鎖が始まると完治しないので、糖質疲労の段階で対処を打つ必要があるのだ。

一般的な健康診断でチェックするのは空腹時の血糖値なので、「食後高血糖」や「血糖値スパイク」について、健康な人が知る機会はまずありません。
しかし、これらの現象が、今日のパフォーマンスと明日の健康を脅かしているのです。
さらに、私自身もとても驚いたのですが、普段からかなりの運動をしている方や、プロアスリートの方たちですら、「食後高血糖」「血糖値スパイク」を呈して、糖質疲労を感じるという方が多いのです。

(「Introduction 今日のパフォーマンスと、未来の健康を脅かす『糖質疲労』」より)

 よく知られる健康法や健康習慣、トレーニング法などのなかにも、それらの効果を無にするだけでなく、「食後高血糖」と「血糖値スパイク」を起こしかねないものもあるということのようだ。

 そこで、糖質疲労を解決するために山田氏が勧める「うますぎる食べ方」をご紹介しよう。ポイントは、理論と科学的根拠に支えられ、10年の継続が可能な実践的食事法である「ロカボ(低糖質を意味する“ローカーボハイドレート”に端を発する造語)」な食べ方。ゆるやかな糖質制限のみを指しており、ゼロを目指すような極端な糖質制限とは異なるようだ。

「油を控える」はお腹の脂肪に逆効果

 太らないため、生活習慣病を予防するためには、とにかく脂(脂質)をとらないようにしようと思う方も少なくないだろう。ところが、それは古い情報に縛られているだけなのだと山田氏は指摘している。近年の研究によって、従来の常識が必ずしも常識とはいえないことが立証されたというのだ。

脂質を控えるとカロリー消費が1日300kcalも低下してしまうことや、たんぱく質や脂質を摂取すると満腹感を作るホルモンの数値が高く、長く分泌され、空腹感を感じさせるホルモンの数値が低く、長く抑制されることなどが報告されたのです。

(116ページより)

 油脂を控える食事法は、これまで50年近く「健康によい」と信じられてきた。しかし、じつはなんの意味もない食事法だったということが2008年の研究で明らかにされたそうなのである。

日本人はバターや肉の脂を「食べるほうがよい」

 脂質の質を問題にする人も少なくないが、そういう人の多くは「動物性脂肪=飽和脂肪酸」が問題だと考えておられるかもしれない。しかし2013年には、動物性脂肪(飽和脂肪酸)を控えることでかえって死亡率を上昇させてしまうという論文がシドニーのグループから発表されたのだという。

 また、「日本人は動物性脂質の摂取量が多いほど脳卒中の発症率は低い」という論文も出ており、観察研究のレベルですら、飽和脂肪酸を制限することを是とはできない状況なのだそうだ。

血中コレステロールが心配だからと「卵を控える」のは無意味

 かつて「飽和脂肪酸(バター)に加えて、コレステロール(卵)も制限すべき」だとされていた時代があった。しかし現在の食事摂取基準では、食品中のコレステロール量の上限の設定はなくなっている。

食べるコレステロールを控えると、それを補うように肝臓がコレステロールを合成して血中に放出し、食べるコレステロール量が増えると、肝臓がコレステロール合成を休むからです。

(119〜120ページより)

 端的にいえば、食べるコレステロールを控えることは、血中コレステロールの低下や動脈硬化症の予防には無意味だということのようだ。

「腹持ち」をよくするには、米より「肉」「バター」

 また、「コメを食べないと腹持ちが悪い」という考え方も正しくはないらしい。科学的に腹持ちがよいとわかっているのは、肉やバターを食べることだというのだ。

脂質やたんぱく質をしっかり食べると、消化管ホルモンの「グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)」、「ペプチドYY(PYY)」などの分泌が高まり、満腹中枢が刺激され、「お腹いっぱいでもう食べられない!」となります。脂質摂取比率を高くしても、カロリーオーバーになって太るというのは極めて難しいことなのです。
また、たんぱく質と脂質は、空腹感をもたらすホルモンである「グレリン」の分泌を長く抑制するので、満腹感が長続きします。逆に糖質はグレリンを抑える作用が弱いので、お腹いっぱい食べても、小腹が空きやすいです。

(121〜122ページより)

 ダイエット中に過食と余計な間食を防ぎたいなら、脂質をカットするよりも、しっかり食べたほうがいいということだ。

「マヨネーズ」を加えると血糖値が劇的に上がりにくくなった

糖質疲労(食後高血糖)を予防するという観点でも、脂質の摂取は重要。この点についても、意外な研究結果が紹介されている。

日本人を対象にした4種類の食事メニューで食後の血糖の変動を検討した研究では、白米ばかりを食べる300kcal台の食事が一番血糖値を上げ、同じ量の白米に豆腐と卵(たんぱく質)を加えた400kcal台の食事がその次に血糖値を上げ、その次がさらにマヨネーズ(脂質)を加えた500kcal台の食事で、一番血糖値が上がらなかったのが、さらにほうれん草など(食物繊維)を加えた600kcal台の食事でした。

(122〜123ページより)

 なかでも劇的に血糖値を上げにくくしたのが、マヨネーズを加えたときだというのだから、たしかに驚きではある。
 

 
 意外なこともあるかもしれないが、上記を筆頭とする本書の内容には強力な裏付けがある。山田氏自身がロカボに取り組んだことによって高血糖、高血圧をクリアしたのだというのだ。つまりはそういう意味でも、本書は非常に興味深い1冊であるといえるのである。

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shutterstock

【著者】
印南敦史(いんなみ・あつし)
作家・書評家

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