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リーダーは「人を動かすより、まず自分を動かせ」

 一般に「リーダー」というと、強いリーダーシップやプレゼンテーション能力に秀で、周りの人をぐいぐい引っ張っていく人をイメージするかもしれません。それも生まれつきの素質が必要なイメージもありますが、決してそうではありません。

 43歳にして上場会社の社長になり、その後世界に知られるザ・ボディショップや、スターバックス日本法人の社長を歴任するなどの華麗な経歴を持ちながらも「普通のおじさん」と自認する岩田松雄さんが、「まわりに推されてリーダーになる方法」を説いたロングセラー『「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方』よりお届けします。

『「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方』(サンマーク出版) 岩田松雄
『「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方』

まず「リーダーシップ」のイメージを変えなさい

 私が強調しておきたいのは、リーダーシップのイメージを変えてほしい、ということです。リーダーシップといえば、多くの人がイメージするのが、オレについてこい、というカリスマ的な力で、グイグイ人を引っ張っていく、というものではないでしょうか。強いリーダー、一歩前に出るリーダーでなければいけない、と。

 実際、一国のリーダーにしても、企業のリーダーにしても、そうしたカリスマ的な輝きでリーダーシップを発揮する人もたしかにいます。しかし、それだけがリーダーシップでは決してない、ということです。

 私が大好きな書籍に、ジェームズ・C・コリンズの名著『ビジョナリーカンパニー2 飛躍の法則』(日経BP社)があります。優れた企業の本当の強さの秘密とは何か、を検証した本ですが、ここでもリーダーシップについても言及されています。

 たしかに、多くの人々がイメージする、カリスマ的な力によるリーダーシップも登場しますが、それは「第四水準」という書き方がされています。ところが、その上のリーダーシップとして「第五水準」というリーダーシップがあるというのです。

 カリスマ性の有無はまったく関係がない。むしろ、謙虚さを持っている。何かがうまくいったとしたら、「それは運が良かったからだ」「部下が頑張ってくれたからだ」と受け止める。逆に、うまくいかなかったときには、「すべて自分の責任だ」と捉える。

 そうした謙虚な姿勢を持ち、人格的にも優れたリーダーを『ビジョナリーカンパニー2』では、「第五水準」のリーダーと定義していました。

 四〇代でこの本を読んだとき、とても勇気づけられたのでした。私自身、カリスマ型のリーダーにはおそらくなれない。ならばタイプの違う「第四水準」を目指しても仕方がない。

 もし自分が組織の中でリーダーシップを発揮しなければいけなくなるとすれば、この「第五水準」を目指せばいいのだ、と。何より、それは自分がぜひ目指したいと思ったリーダー像でした。

 以前より私は中国古典なども読んでいましたが、東洋の哲学でも、同じようなことが書かれていました。東洋哲学の理想とするリーダーというのは、深沈厚重型の静かな闘志を持った人、優れた人格を持った人だったのです。

『ビジョナリーカンパニー2』の結論と同じことが、中国古典にもうすでに書かれていた。私は洋の東西を問わず理想とすべきリーダー像が同じことに、驚いたのでした。

努力をすれば、必ず報われる

 では、「第五水準」のリーダーシップには何が必要になってくるのか、おわかりでしょうか。私は、まず何よりも持っていなければいけないマインドがあると考えています。

 それが、月並みに聞こえるかもしれませんが、「努力をすれば、必ず報われる」と自分を信じる強い気持ちです。

 私は高校から本格的に始めた野球で、まさかのキャプテンになりました。目立った活躍もしていなかったし、試合にも出ていなかったのですが、下級生が監督に強く推薦したというのです。リーダーになろうと思ったわけではまったくなく、まわりの人から押し上げられて、私はリーダーになったのでした。

 そして大学でも野球部に入って、野球漬けになりました。厳しい練習がまた始まりましたが、上級生が少ないこともあり、早くから外野手として試合に出ることができました。ところが、私は早々に右膝の半月板を損傷してしまうのです。手術して一年ほどリハビリを強いられました。

 復帰にあたって、私はひとつの決意をしていました。幼い頃からずっと野球が大好きだった私が、何より憧れていたのはピッチャーでした。実は高校時代もピッチャーをやってみたかった。しかし、同級生のピッチャーが絶対的エースとしていたので、私は早々にあきらめざるを得なかったのでした。

 大学でケガから復帰するとき、どうせゼロから始めるなら、自分の夢であったピッチャーを目指そう、と思いました。そして、ピッチャーを目指したい、と宣言したのです。まわりからは反対されました。近畿リーグ一部というそれなりのレベルのチームでしたし、ピッチャー経験も私にはない。他のポジションなら試合に出られるのに、何もわざわざピッチャーなんて、やる必要はないじゃないか、と。

 実際その通りでした。まったくの鳴かず飛ばず。たまに練習試合で投げさせてもらうけれど、やっぱり抑えられない。ただ、あきらめず練習だけは黙々とやっていました。夏場の一〇〇〇本ダッシュや、練習が終わってから必ず五キロ走っていました。新チームではキャプテンから新人監督を頼まれもしました。新人たちを指導しながら人一倍練習を続けました。

人を治める前に、まず自分を修めよ

 そんな姿を、認めてくれたのだと思います。チームメイトが、三年生の秋の最終戦に岩田を投げさせてやってくれ、と試合当日に監督に進言してくれたのです。うれしかった。でも、みんな五回持たないだろうと言っていたようです。

 ところが私は相手打線を二点に抑えて完投し、勝ち投手になることができたのです。ずっとブルペンで腐らずに黙々と、いつでも投げられる準備をしていたおかげで、このワンチャンスを生かすことができました。大きな成功体験でした。

 高校のときでもそうでしたが、地道にコツコツ頑張っていると、誰かが見てくれている。どこかで花開く、という思いが私の中に確実にインプットされたのでした。
コツコツとした地道な努力がどうしてできるのか。それは、頑張ればきっといつかその努力が実を結ぶと信じられるからです。それを信じることができれば、努力をコツコツ続けられるのです。

 リーダーといえば、ともすれば、人を使い、人を動かすことをイメージしてしまう人も少なくないと思います。

 しかし私は、人を動かす前に、自分自身を動かす必要があると思っています。

 人を治める前にまず、自分を修める必要があるのです。自分を修めることもできないのに、人を治められるはずがありません

 私自身、完璧にできてきたのか、と問われたらまったく自信はないのですが、それでも自分を修めようという意識を常に持っていました。自分を修めることが、「第五水準」のリーダーには、まずは問われてくるのだと思います。

 このときのベースとなるのが、努力は必ず実を結ぶのだ、最後には何とかなる、という強い信念だと思います。

 そして、その信念は、必ず行動に表れる。さらに、その行動を、人は見ているのです。

 我こそがリーダーだ、などと思わなくていいし、示さなくてもいいのです。自分で自分を修めようと努力し、自分でコツコツ頑張って自分を高めていくと、まわりから推されてリーダーになっていくのです

 結果的にそうなっていく。それが最も自然だし、最高の形のリーダーだと思います。
自分にできないリーダーシップなど、発揮する必要はありません。

 まずは自分にできることをする。できることからコツコツ努力する。それを追求することこそが、「ついていきたい」と思われるリーダーになる第一歩だと私は信じています。

<本稿は『「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)


【著者】
岩田松雄(いわた・まつお)
株式会社リーダーシップコンサルティング代表取締役社長。元立教大学教授、早稲田大学講師。1958年生まれ。大阪大学経済学部卒業後、日産自動車に入社。セールスマンから財務に至るまで幅広く経験し、UCLAアンダーソンスクールに留学。その後、外資系コンサルティング会社、日本コカ・コーラ株式会社役員を経て、株式会社アトラスの代表取締役社長として3期連続赤字企業を再生。その後、株式会社タカラ常務取締役を経て「THE BODY SHOP」を運営する株式会社イオンフォレストの代表取締役社長に就任し、売り上げを約2倍に拡大させる。2009年、スターバックスコーヒージャパン株式会社のCEOとしてANAとの提携、新商品VIAの発売、店舗内Wi-Fi化、価格改定など次々に改革を断行して業績を向上。UCLAビジネススクールよりAlumi 100 Points of Impactに選出される(歴代全卒業生37,000から100人選出。92年卒業生では唯一人)。2011年、リーダー育成のための株式会社リーダーシップコンサルティングを設立し、現在に至る。

『「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方』(サンマーク出版) 岩田松雄