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現状を疑い続け、大成果を得た弁護士が守った3原則

 カリフォルニア大学バークレー校で大人気の授業「Becoming a Changemaker」。講義を担当するアレックス・ブダク氏は「人がしないことに取り組むこと」「現状を疑うこと」で得られることがあると解きます。

著書『自分の能力が変わるカリフォルニア大学バークレー校超人気の授業』より、現状を疑うことで法曹界のチェンジメーカーになった弁護士が大事にした3つの原則を解説します。

『自分の能力が変わるカリフォルニア大学バークレー校超人気の授業』(サンマーク出版) アレックス・ブダク
『自分の能力が変わるカリフォルニア大学バークレー校超人気の授業』

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著者:アレックス・ブダク
社会起業家、カリフォルニア大学バークレー校教員
カリフォルニア大学バークレー校ハースビジネススクールで、「チェンジメーカーになる」と題した、変革を起こせる力を身につけるための講義を開発し、教えている。
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「人がしないこと」はすばらしい!

 ブライアン・スティーブンソンは、ハーバード大学法科大学院(ロースクール)の卒業生として「よくある道」は歩まなかった。

 デラウェア州の貧しい田舎町で育ち、このロースクールに入学するまで本物の弁護士を一度も見たことがなかった。弁護士になりたいと思ったのは、「誰もが正義を受けるべき。とくに、社会的に弱い立場にいる人たちこそ」という信念を持っていたからだ。

 自分の使命は、「人権や平等な正義への貢献に人生を捧げる」ことだと感じていた。

 しかしいざ入学すると、クラスメイトたちの会話の内容が「貧しい人を助けるとか、社会から取り残された人のために正義を創り出すといった問題とは、まったくかけ離れているように思えた」。

 身につけた世界最高水準の法律知識を使って卒業後に何がしたいのか、はっきりとはわからなかった。それでも、既存のレールの上を進むのでは満足できない確信はあった。

「私にとって法律は、世の中を変えるための価値ある道具だった。法律が、変革のための強力な武器であるという考えは今でも変わらない」

みんなが座っているときに立つ

 転機は、ロースクール入学後、南部人権センターと関わったことがきっかけで訪れた。そこで、不公平な制度のために、貧困者や有色人種に対して十分な法的支援が与えられていないと主張する人々に出会った。

 生まれ故郷の田舎町での記憶が蘇った。「世界には断絶がある。その片側で育った人は、反対側で育った人とは明らかに違う世界を生きている」とスティーブンソンは言う。

 変革に対する大きな野心を胸に、1989年、わずかな自己資金を元手に、その後のライフワークとなる「大量投獄、過剰刑罰、人種的不平等の撲滅」を目的とする非営利組織「Equal Justice Initiative(EJI)」(公平な正義のためのイニシアチブ)を立ち上げた。

 EJIはまず、アラバマ州で死刑判決を受けた人に法的代理人を保証する活動を始め(それまで同州は全米で唯一このような人に法的支援を提供していなかった)、この支援がなければ処刑されていたであろう125人の誤った判決を覆す手助けをした。

 スティーブンソン自らも17歳以下の子どもに仮釈放なしの終身刑を科すことは違憲であるという異議申し立てを主導し、米連邦最高裁でそれを認める判決を勝ち取っている。

 彼は、人がしないことを進んで行いながら、キャリアと影響力を築いてきた。

「誰かが座っているとき、誰かが立たなければならない。誰かが黙っているときは、誰かが声を上げなければならない」

疑問を「もっと素朴」にする

 その知性や学歴、才覚をもってすれば、スティーブンソンは法曹界でどんな成功でも収められただろう。

 しかし彼は、弁護士としてのあり方から、この国の司法制度が本当にすべての人に役立っているのかどうかまで、あらゆる現状を疑うことで自らの足跡を残してきた。

 彼がこれまでの人生でこれほど多くのポジティブな変化をもたらすことができたのは、現状を疑ううえで、次の3つの原則に従ってきたからだ。

▼ ①「素朴な疑問」を大事にする

 ロースクールでは、なぜ多くの人が然るべき正義を受けられないのかという素朴な疑問を抱いていた。常識にとらわれず、法的支援を十分に得られていない人の立場から、彼らの権利を積極的に主張した。

▼ ②まわりと「逆」を見る

 ロースクールの華やかな世界とは対照的な貧しい人々が暮らす地域で非営利組織を設立した。自らの原体験を忘れず、平等な正義の実現に全力を傾け、社会的弱者の擁護に人生を捧げた。他の弁護士が顧客にしたがらない死刑囚をはじめとする人々を弁護し、それを通じて、社会から軽視されている人たちがいかに人間性を踏みにじられていて、その責任が私たち一人ひとりにあるかを世間に知らしめた。

▼ ③賢くリスクを取る

 スティーブンソンが担当する案件は、依頼者にとって条件が不利なものや、有利な判決が下るのが極めて難しいものが多かった。だが、新しい依頼者がどんなトラブルを抱えていても、どれほど社会的に弱い立場の人でも、彼は賢くリスクを取ってサポートした。

 また、個人としてもリスクを負っていた。自分が追求する仕事のタイプは、法曹界での一般的なキャリアとは異なり経済的な見返りがあまり得られないものだ。それを承知のうえで、自らの成功と幸福を懸けて仕事に打ち込んだのだ。

 だが、見返りはあった。死の宣告から人を救えることだ。スティーブンソンが賢く取っていたリスクは、その価値が十分にあるものだった。

「面倒なことに進んで取り組まなければ、世界は変えられない」──彼は現実と希望のバランスを取りながら仲間のチェンジメーカーにアドバイスする。

「不公平は絶望が横たわる場所に蔓延する。希望には計り知れない力がある。誰も絶望させてはいけない。希望は不正の天敵なのだ」

 彼は現状を疑い、前述した原則を実践することでチェンジメーカーになったのだ。

 効果的に現状を疑うには、2つの能力が求められる。

 1つは、疑う価値のある常識や慣習を見つける能力。もう1つは、リスクを取って変化を起こし、他人を巻き込んでいくためのマインドセットとスキルだ。

<Column なぜ「現状」を疑うべきなのか?>

 激変する現代社会では、過去の栄光も将来の成功を保証しない。

 経済誌フォーチュンに毎年掲載されるアメリカの売上規模上位500社「フォーチュン500」に1955年時点で名を連ねていた企業のうち、現在もこのリストに残っているのはわずか52社(10・4%)。リストから外れた企業の大半は吸収合併されたか倒産している。

 個人であれ組織であれ、過去の栄光には安住できない。私たちは常に常識や慣習を疑い、進化や変化、成長の新たな方法を見出さなければならないのだ。

 現状に疑問の目を向け、たとえ既存の規範や慣例を揺るがすことになるとしても、ポジティブな変化の機会を見つけ、それを追求する──それがチェンジメーカーだ。

 2010年代にデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略の実施を後回しにして、こうした技術を容易に導入できる時代がじきに来るはずだと高をくくっていた企業のことを考えてみよう。

 これらの企業は当面は現状と何も変わらないはずだと想定していたが、2020年、新型コロナウイルスの感染拡大によって世界は大混乱に陥り、最も保守的な企業でさえ、「変化するか、倒産か」という究極の選択に迫られた。

 この混沌とした状況の中、最高の成果を上げたのは、現状を疑うことを習慣化し、前もって行動していた組織や個人だった。

 オーストラリアのツーバーズ・ブルーイング社は、同国初の女性が経営者を務めるアルコール飲料メーカーだ。新型コロナウイルスのパンデミックが起きたとき、メルボルンにある同社のワイン試飲室やレストランは大きな危機に晒された。

 だが、同社には即座に変化に対応できる備えがあった。政府によるレストランの営業停止命令が出た最初の週末には「ドライブスルー・ボトルショップ」をオープンし、常連客向けにフードデリバリーとオンライン注文を開始した。「現状を疑う」精神が定着していた同社の店舗は、大きな変化にすぐに適応できたのだ。

 変革を率いるリーダーは、様々なリスクに直面する。しかしこれから本章で見ていくように、役割や権限、影響力にかかわらず、「周囲の賛同を得ながら、賢明かつ計算されたリスクを適切なタイミングで取る方法」は学べる。

<本稿は『自分の能力が変わるカリフォルニア大学バークレー校超人気の授業』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)