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短時間で効率的に血管を強くするストレッチの秘密

がん、心疾患、脳血管疾患、高血圧性疾患、糖尿病、腎疾患、肝疾患――。こうした生活習慣病によって日本人の半数以上(56.8%)が亡くなっています(厚生労働省「令和3年人口動態東経月報年計の概況」)

生活習慣病には特効薬がありません。それは日々の生活が原因だからです。生活習慣病のリスクは運動で低減できるとされますが、運動習慣のない人やスポーツの苦手な人にはなかなかハードルが高いものです。こうした方々の特効薬をイメージして「メディカル・エクササイズ」とでも呼ぶべきストレッチを医師監修のもと、米国スポーツ医学会認定運動生理学士でもある中野ジェームズ修一氏が開発しました。

その名も循環系ストレッチ。短時間で効率よく、血流をアップさせられる秘密とは? 中野氏の著書『血管を強くする 循環系ストレッチ』から一部抜粋、再構成してお届けします。

『血管を強くする 循環系ストレッチ』(サンマーク出版) 中野ジェームズ修一  田畑尚吾
『血管を強くする 循環系ストレッチ』

体の硬い人もラクに気持ちよくできる

 ストレッチと聞くと「無理に伸ばされるのがキツい」「拷問だ!」などと思う方もいらっしゃるかもしれません。それは、おそらく反動を使わずに筋肉をじっくり伸ばす「静的ストレッチ」だと思います。

 ご安心ください。『循環系ストレッチ』は、硬くなった筋肉を無理に引っ張るようなことはしません。少しずつ体の動きを大きくすることで、普段あまり動かせていない筋肉や関節まで、無理なく効率的に動かしていくエクササイズです。動きながら、体が勝手に伸びて柔軟性が上がるストレッチ、とお考えください。

 循環系ストレッチの特徴は、血液の巡りがよくなって体がしっかり温まる点にあります。温度が上がると筋肉を覆う筋膜の抵抗性もどんどん下がり、どんなに体の硬い人でも、自然に大きくスムーズに動けるようになっていきます。動作の順番にも工夫を凝らし、体の硬い人も最短で全身の血流を促せる構成にしました。

ぬぎストレッチのやり方

 具体例を一つご紹介しましょう。肩と肩甲骨まわりの血流アップを狙った「ぬぎストレッチ」(循環系ストレッチ①)です。

『血管を強くする 循環系ストレッチ』より

 肩甲骨を大きく回す動きと、下半身の大筋群を使うスクワットを組み合わせました。肩まわりの小さい筋肉を皮切りに徐々に体を大きく動かしていき、最後は足首、ふくらはぎから血液やリンパを流します。

 上半身のターゲットは、日常生活で動きの小さくなった肩と肩甲骨まわり。脂肪を燃焼させる褐色脂肪細胞が集まる部位なので、あっというまに体が温まるのを実感できます。

 下半身はひざの曲げ伸ばしを徐々に深めつつ、下肢の筋肉のポンプ作用を働かせます。動かす筋肉の範囲を徐々に広げながら、上から下へ、下から上へとグルグルと巡るサイクルを促すのです。

 効果の最大化を狙うなら、本書で紹介している順番どおりに行うのがベストです。最初は循環系ストレッチ①(ぬぎストレッチ)だけ、慣れてきたら②(のびストレッチ)、③(ふりストレッチ)と続けてみてください。冷えやすい指先や足先はもちろん、血行が悪くなりがちな部位の血流も断然よくなります。

 多くの実践者から「スッキリ爽快になる」という感想をいただいた、新しいストレッチです。

※②③は本書『血管を強くする 循環系ストレッチ』(サンマーク出版)で詳しく紹介しています

血管の集まる部位をしっかりほぐす

 循環系ストレッチのもう一つの狙いは、血管の集まる部位を動かすことです。

 心臓から拍出された血液は、まず太い血管(動脈)を大量に流れ、そこから枝分かれして、体の末梢まで少しずつ血液を届けてくれる毛細血管へと広がっていきます。

 動脈は、道にたとえると幹線道路です。車線も行き交う車も多い幹線道路が渋滞すると、枝分かれする小路に入る車も減ります。血管も同じで、大きな動脈の流れが滞ると毛細血管への流れも滞り、結果、全身の血流が低下するわけです。

 循環系ストレッチでは、この低下した血流を復活させるために、幹線道路となる動脈が集まる部位に注目しました。首の付け根、肩まわり、わきの下や胸の前、そけい部などは大きな動脈の通り道で、多くの血管が集まります。そこを積極的に動かすと血管まわりの筋肉がほぐれ、滞っていた血液を押し流してくれるのです。

 ゲートが開いたかのように動脈の流れがよくなると、枝分かれした毛細血管にも血液がしっかり届きます。そうすると毛細血管は網目状にどんどん広がり、体のすみずみまで血液が巡るようになるのです。

動きが激減した部位を狙っている

 人間の体は、走ったり物を投げたりするような「大きな動き」を繰り返せる構造になっています。しかし生活が便利になるにつれ「大きな動き」は必要なくなり、さらにIT化やテレワークの浸透によって体を動かすこと自体が激減しました。

 この変化が私たちの体を蝕んでいるのです。

 体を動かさないと血流を上げる機会が減り、余った糖や脂質が血中に残って血管という体のインフラが傷みます。生活習慣病の多くは血管が硬くもろくなることで起き、その行き着く先が心疾患や脳血管疾患、腎不全などによる突然死です。

 エクササイズで「大きな動き」を実現するには、大きな関節である①肩甲骨を含む「肩関節」、②背骨で構成される「椎間関節」、③骨盤と大腿骨の「股関節」をよく動かすことが必要となります。

 普段よく使う手先・足先より肩甲骨・脊柱・股関節を動かしたほうが、血液を押し流す筋肉のポンプ作用は圧倒的に効率よく働くからです。こうして血流がよくなり、糖や脂質の消費が増えれば、血管はしなやかになって健康維持に大いに役立ちます。

<本稿は『血管を強くする 循環系ストレッチ』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

【著者】
中野ジェームズ修一(なかの・じぇーむず・しゅういち)
1971年生まれ。米国スポーツ医学会認定運動生理学士、フィジカルトレーナー。スポーツモチベーション最高技術責任者、フィジカルトレーナー協会(PTI)代表理事。日本では数少ないメンタルとフィジカルの両面を指導できるトレーナーとしてトップアスリートから中高年の生活習慣病患者までを指導。2014年からは青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化も担当し、数々のオリンピアンのフィジカルトレーナーを勤めてきた。自身が技術責任者を務める東京都・神楽坂の会員制パーソナルトレーニング施設「CLUB100」は、無理なく楽しく運動を続けられる施設として、幅広い層から支持を集め活況を呈している。著書および講演多数。

【監修者】
田畑尚吾(たばた・しょうご)/糖尿病専門医、日本医師会認定健康スポーツ医

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