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「1型糖尿病と2型糖尿病」の違いを知っていますか

日本人の5〜6人に1人。予備軍も含めると約2000万人が罹患しているとされるのが糖尿病です。(厚生労働省調べ)

ピークからは減少傾向にあるものの、依然として患者数は多く世界的にも広がっている糖尿病には1型糖尿病と2型糖尿病の2種類があります。そのメカニズムも含めて基本から整理してみました。全米シリーズ100万部、医学界の定説を覆したと評される『糖脂肪』よりお届けします。

『糖脂肪』

糖尿病の種類

 糖尿病はメタボリック症候群の一種で、慢性的に血糖値が高くなる「高血糖症」(hyperglycemia)が特徴である。接頭辞の〝hyper〟は〝過剰な〟という意味で、接尾辞の〝emia〟とは〝血中の〟という意味である。つまり、高血糖症とはその名のとおり〝血中のグルコース(ブドウ糖)が過剰〟であることを意味している。

 大きく分けて糖尿病には4種類ある。1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠糖尿病(妊娠にともなう高血糖)、その他である。

 2型糖尿病がとびぬけて多く、90%を占めている。妊娠糖尿病は妊娠により引き起こされるものなので慢性的な疾患ではないが、将来2型糖尿病を発症するリスクが高くなる。妊娠期間が終わっても高血糖の状態が続くようなら、改めて1型、2型、あるいはその他の糖尿病かどうか診断する必要がある。

糖尿病の症状は「頻尿」や「のどの異常な渇き」

 どのタイプの糖尿病にもみられるのは高血糖症、つまり血中のグルコース(ブドウ糖)の濃度が高いという症状だ。

 腎臓が再吸収できる量を超えるグルコースが血液中にあると、グルコースは尿中に排出されるようになり、尿の回数や量が増えたり、のどが異常に渇いたりするようになる。

 グルコースが慢性的に排出されるようになると、急激に体重が減ったり、食欲が増したりする。糖尿病の典型的な症状をまとめると次のようになる。

・のどが渇く
・尿の回数が増える
・食べているのに急激にやせる
・体重が落ちているのに食欲が増す
・体が疲れやすい

 高血糖はすべての糖尿病に共通してみられる症状だが、特に1型糖尿病の人によくみられる。2型糖尿病の場合は、徐々に血糖値が上がっていく。2型糖尿病は自覚症状が出る前に血液検査で判明することが現在では多い。

 症状が重い場合──ほとんどが1型糖尿病の場合だが──患者は「糖尿病性ケトアシドーシス」を発症することがある。これは、インスリンの絶対的欠乏によって、血液が危険なレベルまで酸性に傾いてしまうものだ。症状としては意識障害、速い呼吸、腹痛、呼気からのフルーツ臭、昏睡状態などがみられる。これらは緊急を要する事態で、直ちにインスリンによる治療を行う必要がある。

 2型糖尿病が重症化すると、「高浸透圧性高血糖状態」を引き起こすことがある。高血糖から尿の回数が増え、それが深刻な脱水症状、発作、昏睡を引き起こし、死にいたることもある。2型糖尿病の場合、インスリンの分泌量は通常か高い値であるので、先のケトアシドーシスは起こらない。

こうして糖尿病と診断される

 糖尿病は「ヘモグロビンA1C」(たんに「A1C」といわれることもある)の数値か「血糖値」によって診断される。

 アメリカ糖尿病学会は2009年から診断基準としてA1Cを取り入れているが、A1Cを測るには食事を抜く必要もないし、1日のどのタイミングでも測定できるため、糖尿病の検査としては最も便利である。

ヘモグロビンA1C──3か月間の平均血糖値

「ヘモグロビン」とは、全身に酸素を運ぶ赤血球の中にあるたんぱく質のことだ。

 赤血球の寿命は平均すると3か月程度で、この間にグルコースの分子がヘモグロビンと結合するのだが、グルコースと結合するヘモグロビンの数は血中のグルコースの量によって変わってくる。

 血液検査をしてヘモグロビンと結合したグルコースの量を測定したものが、ヘモグロビンA1Cだ。よって、A1Cは3か月間の平均血糖値を反映するものである。

 北米ではA1Cはパーセンテージで表されるが、イギリスやオーストラリアでは「モル」という単位で表されている。アメリカ糖尿病学会では、A1Cが5・7%未満を正常と定義しており、6・5%より多いと糖尿病だとされる(図2-2参照)。

 境界型糖尿病とは糖尿病へ移行する前の段階で、「血糖値が異常に高いが、糖尿病と診断するほどではない」状態を指す(「糖尿病予備群」)。将来、2型糖尿病に発展するリスクが極めて高いことを示している。

 A1Cが6・0~6・5%(42~48 mmol/mol)の人は、今後5年間に糖尿病に発展するリスクが25~50%と予測されている。A1Cが5・0%(31 mmol/mol)の人に比べると、リスクは20倍以上になる。

血糖値──検査方法によって「見るべき数値」が変化

 糖尿病診断に用いられるもうひとつの検査は、血糖値あるいは血漿ブドウ糖を測定する血液検査である。空腹時血糖値、あるいは経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)による測定が行われる。

 空腹時血糖値を測定する場合、患者は少なくとも検査前の8時間はカロリーを摂取してはならない。採血をして血糖値を測定し、126㎎/dL(7・0mmol/L)より高ければ糖尿病と診断される。

 OGTTを行う場合、患者は通常75グラムのブドウ糖が入った飲み物を飲むよう指示される。そのうえで2時間後に採血をし、血糖値を測定する。200㎎/dL(11・1mmol/L)より高ければ糖尿病と診断される。

 簡単で便利だという理由で、糖尿病の診断にあたっては空腹時血糖値の測定やOGTTに代えてA1Cを使うことが増えてはいるが、どの検査も正確に測定できるので問題はない。 

 場合によっては随時血糖値を診断に使うこともある。これは食事時間に関係なく、ランダムに採血して血糖値を測定するものだ。200㎎/dL(11・1mmol/L)より血糖値が高いことに加え、ほかに症状があれば糖尿病と考えられる。

血糖値は「ホルモン」でコントロールされている

 つねに血液内を循環しているグルコース(ブドウ糖)の総量は、驚くほど少ない。およそ「小さじ1杯程度」だ。グルコースは血中に浮かんでいるわけではなく、そのほとんどが細胞内にある。

 血糖値は、極端に高かったり低かったりしないように、ホルモンによってしっかりとコントロールされている。糖をたくさん食べたときでさえ、様々なホルモンの作用によって、血糖値は一定の、ごく狭い幅に収まるようコントロールされる。

 グルコースが腸から血液に吸収されると、膵臓内にあるランゲルハンス島の細胞からインスリン・ホルモンが分泌される。インスリンはグルコースを細胞内に取りこみ、エネルギーとして使えるようにする。

 余ったグルコースは将来使うときのために肝臓に蓄積され、血糖値は正常な範囲を超えないよう保たれる。

1型糖尿病──全身の臓器に影響。心臓病リスクは10倍以上とも

 1型糖尿病は、かつては「子どもの糖尿病」といわれていた。なぜなら、子どものうちに発症することがほとんどだったからだ。

 たしかに、1型糖尿病と診断された患者の4分の3が18歳未満ではあるが、この疾患はどの年齢でも発症する。

 ここ数十年、原因はわからないが世界中で1型糖尿病が増加しており、アメリカでは今後も年率5・3%で増えていくとみられている。

 ヨーロッパでは、現時点で、この新しいタイプの1型糖尿病が2005年から2030年にかけて倍に増えるとみられている。

 1型糖尿病は「自己免疫疾患」である。つまり、体の免疫システムがインスリンを分泌する細胞を攻撃してしまうことによって起こる疾患だ。

 患者の血液内にランゲルハンス島の細胞に対する抗体があることが検査でわかれば、自己免疫反応が起こっているということになる。「時間とともにインスリンを生成する細胞が破壊されていって1型糖尿病となり、インスリンが極端に不足するようになる」のがこの疾患の典型だ。

 1型糖尿病には遺伝的素因が強く認められるが、自己免疫による細胞破壊がなぜ起こるのかはわかっていない。一定の季節によく診断されることから、感染症が引き金となって発症するのではないかとも考えられるが、はっきりした原因はまだわかっていない。

 ほかにも要因として考えられるのは、牛乳、小麦たんぱく質への感受性が高いことや、ビタミンDの欠乏などである。1型糖尿病は、たとえばバセドウ病(甲状腺疾患)や尋常性白斑(皮膚疾患)など、ほかの自己免疫疾患とともに起こることも多い。

 1型糖尿病はインスリンの絶対的な欠乏によって起こる疾患である。

 だから、欠乏しているインスリン・ホルモンを十分に補うことが、治療成功の鍵となる。インスリンの投与という治療法の発見によって予後は劇的に改善し、糖尿病は治るようになったと多くの人が思った。

 だが、話はハッピー・エンドでは終わらない。年数を経るにつれ、1型糖尿病の人はそうでない人に比べて、合併症を起こすリスクがはるかに高くなり、全身の臓器に影響をおよぼすようになる。

 1型糖尿病の人は健康な人に比べて寿命が5年から8年短いし、心臓病になるリスクは10倍以上である。

2型糖尿病──世界の9割以上の糖尿病患者はこちら

 これまで2型糖尿病に悩まされてきたのは中高年だったが、世界的に子どもの間でも急速に広がりつつあり、これには肥満の子どもが増えてきたことが影響している。

 ニューヨーク市のあるクリニックは、1990年から2000年にかけて、新たに糖尿病と診断した患者の数が10倍も増加したと報告しており、その半分が2型糖尿病だったという。

 2001年には、糖尿病と診断された若者のうち2型糖尿病だったのは3%未満だった。ところが10年後の2011年には、その割合が45%まで増えた。

 驚異的な広がりといっていいだろう。チーズが熟成されるよりも速く、2型糖尿病はサイクロンのように社会に襲いかかり、甚大な被害をもたらしたのだ。

 全体的にみると、世界中で糖尿病と診断される人のおよそ90~95%は2型糖尿病だ。この疾患は長い年月をかけて徐々に進行し、正常型から境界型(予備群)、そして2型糖尿病へと進行していくのが一般的だ。年齢が上がったり肥満になったりすることで、よりリスクは高まる。

 高血糖の症状は1型糖尿病のようにインスリンの不足によって起こるのではなく、「インスリン抵抗性」によって起こる。

 研究者たちが初めて2型糖尿病患者のインスリン値を測定したとき、彼らは低い値が出るだろうと考えていた。だが、驚いたことに、インスリン値は高かったのである。低いのではなく。

 インスリンが出ているのに血糖値を下げることができない状態を「インスリン抵抗性がある」という。体は抵抗性を克服して血糖値を正常に戻そうと、インスリンの分泌量をさらに増やす。その結果、インスリン値がどんどん高くなるのだ。

 だが、その効果は限定的だ。インスリン抵抗性を克服するだけの量のインスリンを分泌できなくなると、皮肉なことに血糖値は上がり、2型糖尿病と診断されることになる。

<本稿は『糖脂肪』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)


Macdonell Photograph

【著者】
ジェイソン・ファン(Jason Fung)
医学博士。減量と2型糖尿病の治療にファスティングを取り入れた第一人者。その取り組みは『アトランティック』誌、『フォーブス』誌、『デイリー・メール』紙、「FOXニュース」などでも取り上げられた。ベストセラー『The Obesity Code』(『トロント最高の医師が教える世界最新の太らないカラダ』サンマーク出版)の著者。カナダ・オンタリオ州のトロントに在住。

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