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「最高の計画」があっても必ず勝てないという現実

 経営トップや部署・チームのリーダーなどに就くと、今後どのように組織を運営して成果を上げていくのかという「計画」の立案を求められる場面があります。ヒト・モノ・カネ・情報といった資源を効率的に投下して、全体を鼓舞していくためにも、目標を掲げて戦略を立てなければなりません。

 ただ、「最高の計画があれば勝てる」というふうにトップやリーダーが考えているとすれば、現実を正確に直視できていない証です。

『NINE LIES ABOUT WORK 仕事に関する9つの嘘』よりお届けします。

『NINE LIES ABOUT WORK 仕事に関する9つの嘘』(サンマーク出版)
『NINE LIES ABOUT WORK 仕事に関する9つの嘘』

映画『オーシャンズ11』の一コマに学ぶ

 ダニー・オーシャンには計画があった。

「ちょっといいか」と、カール・ライナー演じるソール・ブルームが、映画『オーシャンズ11』の序盤に言う。ジョージ・クルーニー演じるダニー・オーシャンが、厳重に警備されたラスベガスのカジノの金庫破りの計画を説明したあとだ。

「仮にケージの中に入って、セキュリティのドアも無事通過して、面倒なエレベーターも降りて、銃をもった警備員をかわして、開かない金庫の中に入って仮にすべてがうまくいったとして、1億5000万ドルもの大金をもって、誰にも止められずに逃げおおせるのか?」

 沈黙が流れる。オーシャン自身が選び抜いたチームの面々は、どうなるのだろうと不安げに顔を見合わせる。

 オーシャンはいったん黙り、それからうなずいて「ああ」と言う。

 ソールは「おお」と言い、それから「わかった」とだけ言う。その瞬間、観客は知るのだ。オーシャンがその場合の計画も立てていることと、ソールがその計画の存在を知ったこと、ソールは計画があることを知るだけで満足で、どんな計画かを知る必要もないこと、そしてそれがよい計画にちがいないことを。

 なぜなら、誰でも知っているように、最高の計画があれば勝てるからだ。

「未来予測」が最初の仕事になる

 われわれ観客にとってのスリルは、計画の成功を見届けることにある──ライナス・コールドウェル(マット・デイモン)のスリの技で警備員のIDカードを盗めるだろうか? モロイ兄弟(ケイシー・アフレックとスコット・カーン)は小芝居と便利な誕生日の風船で、カジノの監視カメラを妨害できるのか? オーシャンはテス(ジュリア・ロバーツ)の心を動かせるのか?(答えはすべてイエスだ。そりゃね)

 だがちょっと時間をとって、メンバーが感じたスリルを考えてほしい。チームは力を合わせて難しい状況をくぐり抜けようとしていたが、彼らには計画があり、各自が担うべき具体的な役割が決められていた。

 各自の役割はきっちり線引きされ、時限が設けられ、順序が決まっていた──たとえばラスティ・ライアン(ブラッド・ピット)がテスに電話をかけるのは、オーシャンがテスのジャケットのポケットに携帯電話を滑り込ませたあとだ。

 だから各自が自分の役割をうまくやる方法を学び、それをうまく実行に移せば、一連の手順がまるで数学的アルゴリズムのように一分の狂いもなく進行し、計画は成功し、金をせしめられるはずだと、全員が安心していられる。

 もしあなたが最近チームリーダーに抜擢されたばかりなら、最初にやらなくてはならないのは、「計画を立てること」だろう。

 たぶんリーダーとして働き始めるより前に、チームに対してどんな計画をもっているのか、具体的にはどんな90日計画をもっているかと、聞かれるだろう。

 そこであなたは腰を落ち着けて頭を絞り、(大半が前任者から引き継いだ)チームメンバーについて調べ、それからダニー・オーシャンよろしく、計画を立てることになる。

 するとすぐに、自分のチームとオーシャンのチームとの多くの違いの1つに気づくはずだ。オーシャンのチームが単独で行動するのに対し、あなたのチームは独自の計画をもつほかの多くのチームと連携しなくてはならない。

 実際、自分のチームから目を移して、社内のほかのチームを見回してみると、誰もが必死になって計画を立てていることに気づくだろう。

 どのチームも計画を立てるか立て直すためのオフサイトへ行こうとしているか、行っている最中か、帰ってきたばかりか、その報告会をしているかのどれかだ。

計画を立てた瞬間「完璧」に思える

 何年かやるうちに、この計画にパターンがあり、年々くり返される予測可能なリズムがあることに気づくはずだ。

 毎年9月になると、11月の取締役会に先立って上級幹部研修が開かれる。

 そこではSWOT分析(強み/弱み/機会/脅威分析)を行い、ときには外部コンサルタントが迎えられることもある。

 山のような分析、協議、提案、対案を経たのちに、煙突からもくもくと白い煙が上がって「戦略計画」ができあがる。上級幹部らはこれを取締役会に提出し、承認を得てから、直属の部下と共有する。

 計画は多くの計画に分割され(部の計画、課の計画、地域別の計画等々)、分割されるたびにますます細かく具体的になり、とうとうあなたも自分のチームをオフサイトに連れて行って、あなた版の計画を立てることになる。

 なぜこんなことが行われるかといえば、「計画こそが重要」だと信じられているからだ。

 計画を正しく立て、広範な全社的計画に全チームの計画を組み込むことさえできれば、資源は適切に配分され、各計画の順序と実施時期が適切に指定され、各職務が明確に示され、適切な人材が配置されると、そう確信していられる。この確信を支えに、全力を尽くすようチームを駆り立てさえすれば、成功は必ずついてくるというわけだ。

 それに、「計画策定」には甘美な響きがある。自分たちは未来を築こうとしていて、この計画を数か月後の未来に向かう足場とし、よりよい世界をつくっていくのだという感覚。計画の役割とは、構想した世界を実現することと同じくらい、安心を与えることでもあるのかもしれない。

計画はほぼ「変更」になる

 それでも、大規模計画が中規模計画、小規模計画へと分割されるサイクルが毎度おなじみなのと同様、現実が計画通りに進まないことに気づくのも毎度のことだ。

 計画を立て始めるときはいつもワクワクするが、計画会議に何度も出るうちに、徒労感が募ってくる。

 紙の上では魅力的で、秩序正しく完璧に見える計画だが、現実は絶対こうならないという予感があり、案の定、すぐにまた別の計画会議が開かれる。

 この会議では大まかな概要を決め、それを具体的で実行可能な行動に落とし込む手順に合意するが、それを行うための会議が少々延期され、やっと開催されたかと思うと、計画の方向性が少々変更になる。

 最終的にあなたのチームで詳細を詰める段になると、新しいアイデアや考えや気づきが生まれ、もとの計画を考え直さなくてはならない。

 今日の現実を一言で表すなら「移ろいやすさ」──ものごとが変化するスピードだろう。

 もしも『オーシャンズ11』が現実の世界で起こっていたなら、オーシャンが計画を立て、完全無欠なチームを選び、各自の役割を決め、それから計画を実行に移し、金庫室に到着し、金庫を開けると空っぽだったはずだ。

 なぜならネバダ州がカジノ施設の規制を改正し、カジノのオーナーが現金からビットコインに切り替え、『フォーチュン』のランキングアップを狙って従業員の福利厚生の改善を図ろうと、地下の金庫室を育児室兼フィットネスセンターに改修してしまったからだ。

 現実世界では、金庫室に侵入したはずの『オーシャンズ11』のチームは、午前11時半のホットヨガ講座に乱入する羽目になる。

<本稿は『NINE LIES ABOUT WORK 仕事に関する9つの嘘』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)

【著者】
マーカス・バッキンガム
アシュリー・グッドール

【訳者】
櫻井祐子(さくらい・ゆうこ)