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4人以上の場で会話が苦手になる…じつはみんなそう

「1対1だと会話に困らないのに、4人ぐらいになると途端に話しづらくなる」

 ここだけの話、人数が多くなると、「なんだか話しにくい」と感じたことってないですか?

 話せていないのは自分だけ。ほかはワイワイ楽しそう。

 逃げたい、でも逃げられない。いい時間だし、「解散」の号令、誰かかけて。

 けど、「話せないやつ」だなんて思われたくないから、スマホを取り出して誰かに返信しているフリをする。

 でも、それも限界。ポケットにしまったが最後、会話の輪に入れず、ここでまたすぐにスマホを出すのも「用事あるフリしてる」とばれるようで憚られる。

 あなたをコミュ障っぽくしているものの正体は?

 京都大学で3000億以上の人間の行動パターンを分析した岩本武範さんが「人が増えるほどイヤになる」原因と対策を徹底解説したロングセラー『なぜ僕は、4人以上の場になると途端に会話が苦手になるのか』よりお届けします。

『なぜ僕は、4人以上の場になると途端に会話が苦手になるのか』(サンマーク出版) 岩本武範
『なぜ僕は、4人以上の場になると途端に会話が苦手になるのか』

あなたを「コミュ障っぽく」しているものは何か

「少人数だと話せるのに、複数になると急に話しづらくなる」

 この原因はなんなのか。まずは、その正体を明かすところから始めましょう。

「話すスピードを相手に合わせなさい」「まずは聞きなさい」「あいづちを打ちなさい」「伝え方を変えなさい」「『オウム返し』をしなさい」。

 世にあふれているコミュニケーション本のなかでは、そんな会話のノウハウがさんざん語られてきました。あなたもひとつや2つ、読んだ覚えがあるかもしれません。

 しかし、はたして何名の人が、苦手とするコミュニケーションを克服できたでしょうか。「話し方」も、「伝え方」も、「話の中身」も相手によって変わります。一辺倒に「こうすればいい」というものではない、僕はそう思います。

 だから、こういうコミュニケーションのノウハウは根本の問題を解決できていません。でもそれって、当然で、「コミュニケーションが苦手」、もっというと「複数いると話しづらくなる」原因はまったく別なところにあるから。

 では、いったい何が原因なのかというと、ずばり「脳の処理能力」です。

 会話をしている間、誰かが話すと、それを聞き、あいづちを打ったり、自分も発言したりして反応する。そうすると、それにまた相手が反応する。

「会話」というのは、こういう言葉と思考の応酬です。

 相手の話を聞いて理解するのも、自分の意見を言葉にして話すのも、周囲から見た自分の印象の想像も、すべて脳がおこなっています。会話中、脳はそれらを処理すべく、フル稼働しているのです。

 そして人数が増えると、当然ながら話す人が増え、入ってくる情報も増える。さらに、「誰に話すのか」という選択肢も増えるということは、脳が処理すべきことが増えることになります。つまり、脳に余計に負荷がかかるんですね。

 1対1であれば、脳はなんなく処理できますが、複数になると処理が間に合わなくなり、言葉が出てこなくなったり、相手の話にうまく反応できなかったりする。

「複数いるとしゃべれない」ってつまり、脳がパンクしている状態なんです。

 1対1は平気でも、複数の会話が苦手。

 この原因は、「話し方」でも、「伝え方」でも、「話の中身」でもなく、シンプルにこの「脳の処理能力」にあります。

 ですから、複数のコミュニケーションが苦手なのは、何もあなたが口べただからではありません。むしろ、これまでの調査や研究で知るかぎり、多くの人が「4人以上の場が苦手」なのです。

「ざっくばらんに」と言うけれど

 なかには、「何人いても平気」な人もいるでしょう。

 これは、脳が複数に慣れていて「キツイ」と思う閾いき値ちが非常に高いため。

 そんな彼らに「複数が苦手」なことを理解してもらうのはむずかしく、「『誰がどう思うか』なんて気にせず、ざっくばらんに雑談すればいいんだよ」なんてアドバイスされそうです。

 けど、この「ざっくばらん」がじつにむずかしい。

 そりゃ、ざっくばらんに話せるもんなら話したい、けれど言葉が出てこない。「てか、ざっくばらんってなんだよ!」!

 会議やグループワークのように「議題」や「やること」がある程度決まっている場は苦にならないけど、打ち合わせ前にみんなでやる雑談がどうにも苦手で、輪に入りきれない。

 そもそもの大前提として、「何を話せばいいのか?」の前に、「どうすれば話せるようになるか」を考えるのが先決だと、僕は思います。

 会話は「反射的」にはおこなわれません。

 相手の情報をインプットして整理し、その場に合った適切な情報をアウトプットできるよう、脳は目まぐるしく回転しています。

 そして、その脳の働きに大きく影響する要素こそが、「何人いるのか」なのです。

「品揃え豊富なジャム売り場」は売れない!?

 そんな「脳の処理能力と数」について、こんな研究結果があります。

 それは、アメリカのコロンビア大学が実施した「人の購買意欲がもっともかき立てられるのは、ジャムが何種類並んだときか」を調べたジャム売り場での実験です。

 行動経済学の検証のひとつで、マーケティング業界などでは「ジャムの法則」と呼ばれるこの実験。

 研究チームは、「選択の数が変わると人の行動がどう変わるのか」について調査しました。

 スーパーでジャムを販売するとき、お店の人はこう思うわけです。

「ジャムの数は多いほうが、いろいろあるように見えて売れるのか?」

 はたまた、

「少ないほうが一つひとつの商品が目立って売れやすくなるのか?」

 商品は売れてナンボ。どのように陳列するかはお店にとって重要な課題です。

 実験では、スーパーの試食販売で「24種類のジャムを並べる」場合と「6種類のジャムを並べる」場合で、どちらの売り上げが伸びるのかを調べました。

 結果、どうなったと思いますか?

 より多くの人が集まってきたのは、24種類のジャムを並べた場合。イチゴにブルーベリー、マーマレードと、カラフルなジャムがたくさん並んでいると目を引き、足を止めたくなります。

 ところが、その人たちのなかから、最終的にジャムを購入したのは、たったの3%。

 これでは、「あれだけ人が集まって売り場が盛り上がっていたのに、全然売れてない」とスーパーの人はがっくり肩を落としてしまいます。

 一方、6種類だけ並べた場合は、人の集まりはそこそこでしたが、その人たちの30%が何かしらのジャムを購入していきました。30%というと、3〜4人に1人が購入している割合です。購入した人の数でいうと、24種類のときより、6倍以上多いという結果が得られました。

 なぜ、選択肢が少ないほうが売り上げは伸びたのか。

 まさにこれこそ、脳の処理能力が関係しています。

 人間の脳というのは選択肢が増え、処理が追いつかなくなるとストレスを感じます。

 脳は、このストレスが大の苦手。こういう状況になると、面倒になり「だったら、や~めた」とすぐにあきらめてしまう。脳ってけっこうワガママなんです。

 24種類というのは脳からすると数が多すぎる。興味を惹かれて集まった人も、結局は脳がその違いを処理しきれず、「どれを買えばいいのかわからない」と混乱して購入にはつながらなかったのです。

 反対に6種類のほうは、「このなかだったらイチゴがいいな」と、脳が1個を選びやすかったため、購買数が伸びたというわけ。

 人は情報が多すぎると脳の処理が追いつかず、パンクしてしまう──。

 このことは、科学的に確認されているのです。

<本稿は『なぜ僕は、4人以上の場になると途端に会話が苦手になるのか』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)


【著者】
岩本武範(いわもと・たけのり)
1975年、静岡市出身。静岡産業大学准教授、博士(工学/京都大学)。人の行動データ分析、ウェルビーイング、心の余裕の追究などを研究の専門領域としている。

『なぜ僕は、4人以上の場になると途端に会話が苦手になるのか』(サンマーク出版) 岩本武範