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あなたの悩みや問題は「あなたを守るために」存在している

 書評家・印南敦史さんによる『わたしが「わたし」を助けに行こう ―自分を救う心理学―』(サンマーク出版)のブックレビューをお届けします。

 人間関係や仕事、お金、あるいは家族の問題など、私たちはいつも多くの問題を抱えているものだ。ところが困ったことに、どれだけ苦しくても、一日も早く解決したいともがいてみても、なかなか解決には至らないことのほうが多い。要するに、「うまくいかない」ということだ。

 うまくいかないと、どうしても気持ちはネガティブな方向へと進んでしまう。だから厄介なのだが、公認心理士である『わたしが「わたし」を助けに行こう ―自分を救う心理学―』(サンマーク出版)の著者・橋本翔太氏によれば、解決できないことには大きな「意味」と「目的」があるのだそうだ。

自分こそが自分自身を助けることができる

 自分が抱えている問題や悩みは、「自分を守るために」存在しているというのである。だとすれば、それは自分にしかコントロールできないものだということになる。言い方を変えれば、誰に頼るのでもなく、自分こそが自分自身を助けることができるということになるのだろう。

私たちの心は、自分を守るために、無意識の領域で驚くほど一生懸命に働いてくれています。
それはまるで外部の異物から身体を守る白血球のよう。
あなたの心を防衛しようと、必死で働いてくれています。
この心を守る働きをするメンバーたちは、まるであなたの「心の防衛隊」です。
臨床での心理セッションなどを通じて、私はクライエントさんの心の防衛隊を見つけることがあります。
その姿はその方を守ろうとがんばってくれる、不器用だけど“心優しき騎士”のようにいつも感じます。
そこでこの本ではこの心の防衛隊を、親しみを込めて「ナイト(騎士)くん」と呼ぶことにしましょう。(33〜34ページより)

 橋本氏いわく、ナイトくんの多くは無意識の一部。つまり、「自分ではまだ意識できていない、自覚できていない」という意味だ。つまり意識できていなかったとしても、どんな人のなかにも「自分自身を守るための防衛隊=ナイトくん」がいるということである。

 心の防衛隊の目的は、対象となる人、すなわち自分が「もう、これ以上傷つかないようにすること」。ところが防衛隊たるナイトくんはとても不器用であるため、自分を守ろうとするあまりに極端な行動をしてしまうのだという。だとすれば、それが日常生活において、問題となって表れてくるのは当然だ。

つまりあなたのナイトくんが、よかれと思ってあなたの心を必死で守ろうとするあまり、かえって問題が起きてしまっているのです。
人間関係、性格、仕事、お金、恋愛、家族、パートナーシップでの問題……。
これらの問題は、じつは不器用で一生懸命なナイトくんが原因なのです。
多くの人が抱えている、さまざまな問題のほとんどが、ナイトくんによる自分自身の心を守る機能である「心の防衛本能」ゆえに起きているのです。(35ページより)

悩みは問題を持っていてもいい

 しかもナイトくんは、人間である限り誰のなかにも存在するものなのだそうだ。たしかにそう説明されれば、日々私たちを悩ませる諸問題の根源がわかるような気もする。だがどうであれ、それらの問題は、なんとかクリアしていかなければならいものでもある。

 そこで橋本氏は、「ナイトくんワーク」というメソッドを通じ、問題の本当の姿に気づくことを勧めている。そうすれば「悩みや問題を一掃しよう」という意識が「悩みや問題を持っていてもいい」というスタンスに変わるため、自然と生きることが楽になるというのだ。

「問題はゆっくり少しずつ解決していけばいいのだから、それまでは問題を持っていてもいい」という考え方。つまり「問題を持っている自分は、心がちゃんと機能している」と考えることができるわけである。

 そこで、本書で紹介されている「ナイトくんワーク」の7ステップをご紹介しよう。少し長いが、これは本書において重要な意味を持つ部分であるようだ。

ステップ1 ナイトくんを見つける
解決したい問題をひとつ選びます。その問題や出来事が起きたときの、身体の感覚を意識します。そこにナイトくんがいます。
 
ステップ2 ナイトくんに名前をつける
可能なら、姿や様子をイメージしながら、名前をつけてあげます。
 
ステップ3 質問を通して対話をする
質問1・「ナイトくん(あなたがつけた名前)、どうして〇〇なの?」
質問2・「ナイトくん(あなたがつけた名前)、あなたの『ミッション』はなんですか?」
質問3・「ナイトくん(あなたがつけた名前)、あなたがその『ミッション』をやめたら、私はどうなると思っているの?」
 
ステップ4 ナイトくんを労い、もうひとりではないことを伝える
 「いままでずっとひとりで、がんばってくれてありがとう」と労い、これからはひとりぼっちじゃないことを伝えます。
 
ステップ5 ナイトくんに自分が大人になったことを伝える
実年齢や、いまの生活、成長したことなどを伝えます。
 
ステップ6 これからも、隣にいてもらうように伝える
 「必要なときにはまた助けてね」などと伝えます。
 
ステップ7 またお話をしようね、と伝えて対話を終了する。
最後に、「またお話をしようね」と、次の約束をしてナイトくんを安心させてあげてから、対話を終了してください。ナイトくんを再び放置したり、ひとりぼっちにしたりはしないよ、という約束をしてあげるイメージです。そしてこの対話が終わったあとも、必要に応じてまた対話を繰り返して、ときどきナイトくんを気にかけてあげてください。(157〜158ページより)

自分で自分の問題を解決できるように

 メルヘンチックなニュアンスが強いため、若干の抵抗を感じられる方もいらっしゃるかもしれない。しかし表現はともかく、ここで橋本氏が強調しているのは「自分との対話」の重要性である。多忙な日常生活を送っていると、冷静に自分と向き合う時間は持ちにくく、そもそもそんな気分にはなれないかもしれない。

 だが、悩みや問題を抱えているときこそ、自分と向き合って冷静になる必要がある。だからこそ自分の姿をナイトくんという他者的存在に投影し、自分の周囲を取り巻く状況を客観的に見つめ、「ここからどう進むべきか」をきちんと見極めることが重要だということなのだろう。

このワークで一番重要なことは、いつでも自分でできるセルフワーク(セルフ心理セッション)である、という点です。
そう、このワークはあなたひとりでも取り組めます。
自分で自分の問題を解決できるようになる力を身につけてもらう。
自分で自分を支えられるようになってもらう。
これは私の活動を通して、一番大事にしていることだからです。(159ページより)

 何度も取り組んでいくうちに、問題の解決や生きづらさの解消につながっていくはずだとも橋本氏は述べている。最初は気恥ずかしいかもしれないが、誰かにチェックされるわけでもなく、あくまで「自分との対話」なのだ。あまり重たく考えず、気軽に試してみればいいのではないだろうか。

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shutterstock

【著者】
印南敦史(いんなみ・あつし)
作家・書評家