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稲盛和夫「善なる動機をもてば、成功へと導かれる」

京セラと第二電電(現KDDI)を創業、経営破綻した日本航空(JAL)の会長として再建を主導し、「盛和塾」の塾長として経営者の育成にも注力した稲盛和夫さん。

2022年8月に90歳で逝去された稲盛さんは数々の著書を残されましたが、2004年7月にサンマーク出版から刊行した『生き方 人間として一番大切なこと』は稲盛さんの代表作の一つ。

現在は日本国内で150万部を突破。その続編の『心。』は日本で25万部、中国で150万部を突破しています。稲盛さんの経営者としての歩みやそこで培った人生・経営哲学には、今なお色褪せない普遍的な価値があります。
今回は『心。』(2019年刊)から一部抜粋、再構成してお届けします。

『心。』(サンマーク出版) 稲盛和夫
『心。』

善なる動機をもてば、成功へと導かれる

 いかに生きるかという問いは、すなわちいかなる心をもつかと同義であり、心に何を描くかが、どんな人生を歩むかを決定します。

 純粋で美しい心をもって生きる人には、それにふさわしい、豊かですばらしい人生が拓(ひら)けてくるものです。

 一方、自分だけがよければいいという狭量な思いや、人を蹴落としてでも自分だけが利を得ようとする邪(よこしま)な心をもつ人は、一時的に成功を収めることはあっても、やがては没落する人生を送ることになってしまいます。

 いくら努力をして苦労を重ねても、いっこうに人生がよくならないと嘆く人がいたら、まずは自らの内側に目を向けて、正しい心をもっているかどうかを問い直さなければなりません。

 なかでも人がもちうる、もっとも崇高で美しい心――それは、他者を思いやるやさしい心、ときに自らを犠牲にしても他のために尽くそうと願う心です。そんな心のありようを、仏教の言葉で「利他」といいます。

 利他を動機として始めた行為は、そうでないものより成功する確率が高く、ときに予想をはるかに超えためざましい成果を生み出してくれます。

 事業を興すときでも、新しい仕事に携わるときでも、私は、それが人のためになるか、他を利するものであるかをまず考えます。そして、たしかに利他に基づいた「善なる動機」から発していると確信できたことは、かならずやよい結果へと導くことができたのです。

 KDDIの前身である第二電電を設立したときのこと。日本で電気通信事業が自由化されたとはいえ、それまで業界を独占していた強大なNTTに立ち向かうことは、危険かつ無謀なことでした。

 事業を開始するまでのおよそ半年の間、毎晩眠るまでの時間に、私はくり返し自らの心に厳しく問いました。通信事業への参入は、ほんとうに善なる心、正しく純粋な思いからなのか。自分が名声を得たいためではないか、そこにひとかけらの私心もないか――と。

 そして、「自分にはたしかに私心はない、動機は善である」という揺るぎない確信を得てから、参入を決めたのです。

 当初は、同じく手をあげた他の二社に比べて、第二電電は圧倒的に不利だといわれていましたが、事業がスタートしてみると、つねに三社のなかでトップを走りつづけることができました。

 その後、KDD、IDOとの大同団結を果たし、IDOと社名を変えて、いまでは日本を代表する通信事業者の一つとして大きく成長しています。

 また、後年経営破綻した日本航空(JAL)を再建させるべく、請われて会長に就任したときも同様でした。

 当時の政府と企業再生支援機構からお話をいただいた当初、私は高齢であること、また航空業界には門外漢であることなどを理由に、何度もお断りしました。しかし再三の要請をいただくにつれて、その仕事にいかなる社会的意義、そして「善なる動機」があるかどうかを考えざるをえませんでした。

 やがて、そこには三つの大切な意義があることが見えてきた。

 一つは、日本経済の再生のためです。わが国を代表する航空会社の破綻は、日本経済にきわめて深刻な影響を与えることになる。一方、再生に成功すれば社会全体に大きな自信を与えることにつながります。

 二つには、残された社員たちのため。再生がうまくいかず二次破綻ともなれば、三万二千人にものぼる社員が職を失ってしまうことになる。会社の再建は、すなわち彼らの生活を守ることでもあるわけです。

 三つには、国民の利便性のため。日本航空がなくなれば、国内における大手航空会社は一社だけになり、公正な競争原理は働きにくくなる。運賃は高止まりし、サービスも低下して、利用者に不利益が及びかねない。

 日本航空の再生は、たしかに社会的に大きな意義をもつ仕事である―「義を見てせざるは勇なきなり」という思いから、私は会長就任を受諾することに決めたのです。

 これもまた、世間の大方の意見は、日本航空の再建はだれが手がけてもダメだろう、二次破綻は避けられないといった悲観的なものでした。しかし、そうした予想を見事にくつがえし、日本航空は改革に着手した一年目から急激な回復を遂げ、その後も過去最高益を次々に更新するまでになりました。

 そして破綻から二年半あまりを経て、無事に株式再上場を果たすことができたのです。

燃える闘魂もまた、「善なる動機」から生まれる

 もちろん、すべてが「やさしい思いやり」の心だけでうまく運ぶわけではありません。何事かをなそうとすれば、いかなる困難にも負けず、果敢に突き進む強い意志、何があっても成し遂げるというすさまじいまでの熱意が必要です。

 そうした〝燃える闘魂〟もまた、善なる動機に基づいた目的の成就に必要なもので、やさしい利他の心に裏打ちされてこそ、揺るぎのない強固なものになるのです。

 明治維新が成功したのは、勤王の志士たちに「世のため、人のため」という思いに基づいた〝大義の御旗〟があったからです。世の中を改めることなくしてはこの国の近代化はならず、日本は欧米列強の植民地にされてしまう。その危機感や気概―私心を捨てて、国を思う心が彼らをつき動かし、維新回天の業わざを成し遂げるエネルギーとなったのです。

 第二電電が、不利な条件の中からスタートしたにもかかわらず、大きく成長することができたのは、すべての従業員が「長距離電話料金を下げて、国民のために役立つ仕事をする」という目的のもと、一丸となってがんばってくれたからです。

 その過程では、幾度となく困難に見舞われ、大きな障壁にぶつかりましたが、そんなとき私はいつも、従業員に対してこういって励ましつづけました。

「いま私たちは百年に一度あるかないかという機会を手にしている。その幸運に感謝し、たった一度の人生を意義あるものにしよう」

 彼らもまた、その声にこたえて懸命に努力を重ねてくれたのです。

 日本航空が再生を果たすプロセスでも、それは同じです。

 従業員たちが自分の都合や欲得よりも会社にとって何が大切かを考え、その思いに基づいて自ら行動を起こしてくれた。企業再生の原動力となったのは、そうした従業員の〝心〟のありようであり、彼らが一貫して揺るぎなき熱意をもちつづけてくれたからなのです。

 日本航空の会長に就任した際、私はすべての従業員に向けて、次のような言葉を紹介しました。

――新しき計画の成就は、ただ不屈不撓(ふとう)の一心にあり。さらばひたむきにただ想おもえ、気高く、強く、一筋に――

 これはインドでヨガの修行をして悟りをひらき、日本でその思想と実践に基づく生き方を伝えた哲人・中村天風の言葉で、かつて成長を続けていた京セラにおいて掲げたスローガンでもあります。私はこの言葉をあらためて、日本航空の全社員に向けて紹介したのです。

 このなかでも大切なのは、「気高く」という言葉です。美しく気高い心を根幹にもっているからこそ、ひたすらに強く揺るぎのない「思い」をもつことができる。

 何が何でも成し遂げるという強烈な思い、どんな苦境にも負けずに進もうという揺るぎない意志が、事を貫徹するためには必要です。そういう思いのもと、かかわる人たちが一丸となって最大限の努力をなしたときに、事は成就する。

 その根幹となるのも、美しき利他の思いなのです。

 何事をなそうとも、いかなる運命を歩もうとも、私たちが生きているかぎり、めざすべきものは、他によかれかしと思い、他のためによきことをなす「善なる心」です。それは、「真・善・美」という言葉でいい表すことのできる、純粋で美しい心といってもよいでしょう。

<本稿は『心。』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)


【著者】
稲盛和夫(いなもり・かずお)
1932年、鹿児島生まれ。鹿児島大学工学部卒業。59年、京都セラミツク株式会社(現・京セラ)を設立。社長、会長を経て、97年より名誉会長。また、84年に第二電電(現KDDI)を設立、会長に就任。2001年より最高顧問。2010年には日本航空会長に就任。代表取締役会長、名誉会長を経て、2015年より名誉顧問。1984年には稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。毎年、人類社会の進歩発展に功績のあった人々の顕彰を行う。2022年逝去。
著書に『京セラフィロソフィ』『心。』(ともに小社)、『働き方』(三笠書房)、『考え方』(大和書房)など、多数。

『心。』(サンマーク出版) 稲盛和夫

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