骨粗しょう症に悩む人に知ってほしい「骨の強さ」を決める重大要素
骨がスカスカになって折れやすくなってしまうのが「骨粗しょう症」。日本の患者数は1500万人を超えるとされ(骨粗鬆症財団調べ)、高齢者の寝たきりの原因にもなっています。
「骨密度が高い=骨が強い」と信じられてきましたが、「骨密度が高いのに骨折する」ことがあります。一体なぜなのでしょうか。世界中の骨の常識をアップデートした骨粗しょう症の世界的権威が、「長生き骨」のために知っておいてほしい「骨の最新知識」を綴った『100年骨』(サンマーク出版)より、冒頭の試し読みをお届けします。
骨──それは、からだを支える、文字通りの屋台骨。
骨の強さは、いのちの強さそのもの。
そんな、いのちの健康を支える骨を、
音を立てずにむしばんでいく、骨粗しょう症。
これまで通説とされてきた
「骨密度が高い=骨が強い」では必ずしもないことが、
骨粗しょう症治療の現場では常識となりつつあります。
実は、骨の強度を左右するのは「骨の質」──。
2010年、そんな骨の強さにかかわるメカニズムを初めて解明し
世界中の骨の常識をアップデートした医師が日本にいます。
1年365日、診療と研究に明け暮れる医師の最新のサイエンスが、
健康長寿の根幹となる「長生き骨」をかなえます。
プロローグ
こんにちは、整形外科医の斎藤充です。
私は東京港区にある東京慈恵会医科大学の整形外科学講座で、主任教授と診療部長を務めています。ここは、1922年に日本の大学病院では5番目、私立大学としては初めて開設された、歴史ある整形外科学講座です。
小さいお子さんから高齢の方まで、あらゆる年齢層のさまざまな症状に適した治療を行うため、膝関節、股関節、肩関節、手の外科、足の外科など、10の専門的な外来・外科的治療チームを開設しています。
私の専門は2つあって、1つは関節外科。年間80~120件ほどの、膝関節の手術をしています。また、チームとしてもアスリートの靱帯損傷や半月板損傷、複雑な関節骨折などの手術を年間1400件近く行い、特に膝(ひざ)や股関節の人工関節の手術は、全国から紹介された患者さんが来られ、その件数は、全国大学病院のベスト3に入ります。
そして、もう1つの専門が、骨粗しょう症です。
同じ骨粗しょう症にたずさわる医師として、整形外科医が、内科や婦人科など他の診療科の医師と異なるのは、手術の際、自らの手で骨や靱帯や腱、血管にも触れ、「骨の強度」というものを身をもって体感していることにあります。
たとえば、手術前の検査では骨密度が高かったとしても、手術中に骨に触れたときに、「ん? これはもろいな」とか「これは柔らかいぞ」と感じることがあります。そんな場合は、力加減を抑えて慎重に手術を進めるだけでなく、手術後の早い段階から、骨強度の改善を目指した治療を開始することができます。
骨に実際に触れ、骨の外も中も知り尽くしている──それが私たち整形外科医と言えます。
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私は、2010年に、それまで長きにわたり「骨の強さ=骨密度」と言われていた通説を覆す論文を発表しました。
「骨質」が骨の強さにかかわるメカニズムを解明し、「骨質」を評価する方法を世界で初めて提唱したこの研究成果は、大きな注目を浴びました。
世界中の論文に1000件以上引用され、骨粗しょう症のガイドラインを書き換えることになりました。
今では、「骨質」と「骨密度」の両方が骨の強さを決める、というのがスタンダードとなりましたが、これは、かつて若き日の私が感じていた、ある違和感が発端でした。
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【著者】
斎藤 充(さいとう・みつる)
東京慈恵会医科大学整形外科学講座主任教授。同大附属病院整形外科・診療部長。1992年、東京慈恵会医科大学卒。2020年より現職。日本骨代謝学会理事、日本骨粗鬆症学会理事、日本人工関節学会理事などを兼務。骨代謝の診断・治療・研究で国内外を牽引する。