運のいい人が「粗野な言動は取らない」納得の理由
日頃から人やモノに接する時に、粗野な振る舞いをしている人と品のある行動を取っている人がいたら、どちらの人に共感を覚えたり、助けたりしたいと思うでしょうか。
運のいい人の共通した考え方や行動パターンを脳科学的見地からつきとめて自分の脳を「運のいい脳」にするためのヒントを紹介した、脳科学者の中野信子さんによる『新版 科学がつきとめた「運のいい人」』よりお届けします。
運のいい人は品のある行動をとる
常日ごろ、品のある行動を心がけること──。
これが「ここぞ」という勝負のときに効いてくる場合があります。
たとえばドアの開け閉めを静かに行う。
お店で支払いをするとき、ていねいにお金を扱う。
やむをえず車のクラクションを鳴らすとき、何度もしつこく押さないようにする。
親しい人にもていねいな言葉遣いで話す。
このような、日常生活のあらゆる所作に品があるかどうかを意識するのです。
というのは、品のある行動がよい結果を生む場合が少なくないからです。
「しっぺ返し」を受けないために
それを証明したのが、ゲーム理論の「しっぺ返し戦略」です。
ゲーム理論とは、価格競争や交渉など、複数の当事者(意思決定者)が参加する状況(ゲーム)で、各当事者は自分の利益や効用を得るためにどのような行動をとるのか、またはとるべきかを数理的に分析したもの。20世紀半ばに数学者のフォン・ノイマンと経済学者のオスカー・モルゲンシュテルンが基礎をつくりました。
現在では、政策決定やビジネスの現場で、ベストな選択を行うための指針を導き出すために応用されるなどしています。
たとえば商品を仕入れるA社と商品を納入するB社が価格交渉を行ったとしましょう。基本は、A社はできるだけ安く仕入れたいと考え、B社はできるだけ高く納入したいと考えます。一回限りの取引なら、A社は最低価格をB社は最高価格を狙うでしょう。
しかし今後の取引のことを考えると、それは得策ではありません。A社とB社の関係や状況をふまえ、お互いが利益を追求するもっともバランスのよい価格、というのがあるはずで、ゲーム理論ではこれを数式で導き出すのです。
このゲーム理論の中にしっぺ返し戦略というものがあります。
しっぺ返し戦略は、ゲームを行う際に「基本は相手と協調路線をとり、相手が裏切ったときには裏切り返す、しかし相手が協調に戻ったらすぐに協調する」という方法で戦うともっともお互いの利益が大きくなる、というもの。
たとえばふたりの人が、ジャンケンで点数争いをするとしましょう。
ただし出せるのはグーとパーのみ。自分と相手が出すグーとパーの組み合わせによって、次のように得られる得点(カッコ内)が決まっているとします。
【パターン1】グー(2) 対 グー(2)
【パターン2】グー(0) 対 パー(3)
【パターン3】パー(3) 対 グー(0)
【パターン4】パー(1) 対 パー(1)
この場合、ただ単に勝ちを狙うなら、パーを出しつづけるのがよいです。しかし、なるべく高い得点をお互いがとることを考えると、よい方法ではないのです。
そこで協調路線をとります。この場合、協調路線は最初にグーを出すこと。
ゲームが始まったらまずはグーを出します。相手もグーを出すかぎり、こちらもグーを出しつづける。しかし相手がパーを出したら、次はパーを出します。相手がパーを出すかぎり、こちらもパーを出し、相手がグーに戻ったらこちらもグーに戻る。この方法がもっとも高得点を得られるのです。
品のある行動のほうが人の心を動かす
つまり、先手を打って勝とうとするのでなく、相手の一歩後を行く。えげつない戦い方をするのではなく、社会性のある品のいい戦い方をするのです。それが結局はお互いの利益につながります。
この戦い方は、私たちの日常にも十分に応用できます。
たとえば部下に仕事を頼むとき。上司に休暇願いを出すとき。夫に家事の分担を頼むとき。隣家の騒音に困り、やめてほしいとお願いするとき。
自分が有利になるように先手を打って勝とうとするのではなく、社会性のある品のよい行動で最終的なお互いの利益を狙うのです。
突然、隣家の人が「うるさい!」と怒鳴り込んできたら、何だかよくわからずともこちらもカッとなりそうですが、「すみませんが、実は音が気になりまして……」とていねいに言われたら聞いてみようという気になります。
粗野な振る舞いよりも、品のある行動のほうが人の心を動かすのです。
<本稿は『新版 科学がつきとめた「運のいい人」』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
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【著者】
中野信子(なかの・のぶこ)
東京都生まれ。脳科学者、医学博士。東日本国際大学特任教授、森美術館理事。2008年東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。著書に『エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術』(日経BP)、『脳の闇』(新潮新書)、『サイコパス』(文春新書)、『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』(アスコム)、『毒親』(ポプラ新書)、『フェイク』(小学館新書)など。