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『成瀬は天下を取りにいく』かつてなく最高の主人公を輝かせる“最高の友人”の魅力【後編】

「成瀬になりたくて、なれなかった。
だから芸人になった」
――Aマッソ・加納愛子さん

「自分が人生のどこかで別れてきた
『どこか』『何か』が共鳴する、
いとおしい青春小説」
――辻村深月さん

全国の書店員さんが
「いちばん売りたい本」を
投票で選んだ「本屋大賞」。

21回目となる今年選ばれた受賞作
『成瀬は天下を取りにいく』
(宮島未奈/著、新潮社)
帯のコメントに、こんな言葉があります。

そして、帯コピーには
「かつてなく最高の主人公、現る」
という言葉が踊っています。

そう、『成瀬は天下を取りにいく』
という小説の魅力を語るなら、
まずは主人公・成瀬あかりの魅力を
まず語らなくてはいけないと思います。

成瀬あかりは滋賀県に住む女子高校生で、
頭も良く、運動もできる、
そして「思いのままに進む」
象徴のような人間です。

例えば、

「髪の毛が一か月で何ミリ
伸びるか知りたいんだ」

という理由でスキンヘッドにしたり、
ミルクボーイを見たからと、
友人の島崎に
「島崎、私はお笑いの頂点を目指そうと思う」
と言い、M-1に出ようと誘ったりします。

こういう成瀬、
めっちゃかっこいいなって思います。
だって私もM-1を見て、ミルクボーイ見た時、
めちゃくちゃおもしろくて、
新星が全てをかっさらっていって、
かっこいい−!! って思いましたもん。

でもそこで
「いいなー、こんなふうになってみたいな」
と思ったとしても、
どこかで
「いやいやいや、お笑い芸人は無理でしょ」
とブレーキをかけている自分がいます。

私という人間は、
「何かを思いついた」その次に、
「人にどう思われるか」を考えて、
その上で
「やりたいと思うかどうかを決める」
という習性があるんだと思います。

習性というか、癖というか、
思い込みというか……。
とにかく「自分の思い」に、
「人の目」が入ってきてしまう。

でも、成瀬は違います。

「やりたいんだ。一緒にやらないか?」
と言うんです。
多分、そこに「人の目」という
価値観はないんですよね。

「かつてなく最高の主人公、現る」。
そう、このコピーにふさわしい、
めちゃくちゃかっこいい主人公だと思います。

でも、私がこの本に惹かれているのは、
成瀬がかっこいいから、だけじゃないんです。
この文章を書くにあたって、
『成瀬〜』をもう一度読み直してみました。

この本の何をおもしろいと思っているのか、
何が、(私にとって)
この本を輝かせているか……
つきつめて考えると、
大事なのは、実は、成瀬の友人、
「島崎」の存在なんじゃないかと思うんです。

新潮社の試し読みサイトから
本書の冒頭を少しご紹介しましょう。

「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」

 一学期の最終日である七月三十一日、下校中に成瀬がまた変なことを言い出した。いつだって成瀬は変だ。十四年にわたる成瀬あかり史の大部分を間近で見てきたわたしが言うのだから間違いない。

 わたしは成瀬と同じマンションに生まれついた凡人、島崎みゆきである。私立あけび幼稚園に通っている頃から、成瀬は他の園児と一線を画していた。走るのは誰より速く、絵を描くのも歌を歌うのも上手で、ひらがなもカタカナも正確に書けた。誰もが「あかりちゃんはすごい」と持て囃した。本人はそれを鼻にかけることなく飄々としていた。わたしは成瀬と同じマンションに住んでいることが誇らしかった。

(『成瀬は天下を取りに行く』一篇「ありがとう西武大津店」より)

島崎は、成瀬の幼馴染で、
成瀬のことがずっと気になって、
でも、まわりが成瀬を
遠巻きに見るようになって、
なんとなく自分もそれに
倣ってしまっている女の子。

それでも成瀬に
「M-1に出ないか」と言われたら、
島崎は一緒に出るんです。

なぜかというと、島崎は、
成瀬のやりたいことを止めたくないから。
たぶん、なるべく近くで見ていたいから。

「私が断ることで成瀬が漫才をする機会を
失うとしたら、それは問題だ」。
そう言って、島崎はM-1に出る。
成瀬のやりたいことを
ちゃんと一緒にやるんです。

「私はお笑いに熱いんじゃない。
成瀬に熱いのだ」

と思いながら、隣にいてくれる島崎。

みんなに、私にも、
そう言ってくれる友人がいてくれたら。
こんなふうにそばにてくれる人がいたら。
そう思わずにはいられないんです!
この関係性が私はすごくすごく好きなんです!

「変」と言われる人を、
おもしろがる。受け入れる、
大好きでいる。
その人に、そのままでいてほしいと願う。
私は、そんなふうに、
島崎みたいに生きたいなと思うんです。

この関係性こそが、
わたしの好きな『成瀬』なんだと思う。

もちろんこれは、
一方通行の関係性ではないんです。
成瀬も、島崎のことをすごく大切に思っていて、
「島崎がいてくれるだけでいいんだ」
とちゃんと言葉に出したりする。
そんな関係、最高じゃありませんか?

「かつてなく最高の主人公、現る」

このキャッチコピーに全く異存はありません。
ただ私は、
最高の主人公・成瀬が好きだというよりは、
島崎に好かれる成瀬が好きで、
成瀬に惹かれて、
応援する島崎になりたいんだと思うのです。

【執筆】
池田るり子 サンマーク出版 第ゼロ編集部 副編集長
『コーヒーが冷めないうちに』(日英イタリア3カ国でシリーズ100万部突破!世界500万部突破)などを担当。気負わないで、よく笑って、せっせと働きたいがモットー。


(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)