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文章力を磨きたい人に知ってほしい「話す・書く」習慣化の効果

「文章力を磨きたいけれど、なかなかうまくならない」という人は少なくないでしょう。

 文章力を上げるトレーニングの一つが、話す・書くという「アウトプット」をして記憶を上手に使うこと。ロングセラー『書かずに文章がうまくなるトレーニング』よりお届けします。

『書かずに文章がうまくなるトレーニング』 サンマーク出版
『書かずに文章がうまくなるトレーニング』

「短期記憶」を「長期記憶」へ移そう

「記憶力」と「文章力」は、切っても切れない関係にあります。文章を書くことには、脳から記憶を引き出す作業が含まれているからです。

 情報を脳に記憶させるためには、当然のことながら、情報のインプット(入力)が必要になります。体験や経験、感じたこと、人から聞いた話、本、新聞、雑誌、インターネットなどから仕入れた情報……これらはすべて「インプット」です。ところが、「インプット=記憶の定着」とは限りません。

 脳には一時的に記憶を保存する「短期記憶」と、記憶の保存期間が長い「長期記憶」のふたつの働きがあります。「短期記憶」に一時保存された情報のうち、脳が「これは覚えておくべき重要な情報だ」と判断した情報のみが、「長期記憶」へと移動するのです。

「長期記憶」はその人専用の「内蔵辞書」となります。この辞書からはいつでも必要に応じて情報を引き出すことができます。一方、「長期記憶」に移動しなかった情報(短期記憶)は、その多くが、数時間〜数ヶ月で自然に消滅してしまいます。

 記者やライターなど、「短期記憶」を上手に活用して文章を書き続けるスタイルの人もいますが、このスタイルを貫くには、取材したその場で原稿を書くなど、なかなかハードな自転車操業が求められます。したがって、プロのモノ書きでない人たちが目指すべきは「長期記憶」の強化ということになります。

 では、「短期記憶」から「長期記憶」へと情報を移すにはどうすればいいのでしょうか? その効果的な方法が、情報のアウトプット(出力)である「話す」ことと「書く」ことです。

 そう、アウトプットとは、その人自身が「言葉を使う」ことにほかならないのです。人が話したり書いたりするときには、必ず、次の「①→②」のプロセスが伴います。

【プロセス①】情報を理解する

【プロセス②】情報を整理する

 情報の「理解→整理」を行うことによって、「短期記憶」の情報が「長期記憶」へと移動するのです。事実、ふだんから人とよくおしゃべりをしたり、メモを取ったりしている人は、記憶から引き出せる情報量も多いはずです。「話す」や「書く」を通じて、情報の「理解→整理」を行っているからです。

 話すことも書くこともせずに、情報の「理解→整理」が行われることはないでしょう。その結果、情報が「短期記憶」にとどまり、そのまま消滅してしまうのです。

「話す・書く→インプット→また話す・書く→インプット→また話す・書く」

 ふだんからこのサイクルを継続している人は、脳から引き出せる情報の量も多く、「長期記憶」の定着も、より強固になっているはずです。

【「話す・書く」が習慣化できている人】
「長期記憶」の量が多い➡脳から引き出せる情報が多い

【「話す・書く」が習慣化できていない人】
「長期記憶」の量が少ない➡脳から引き出せる情報が少ない

 おそらく、あなたの周りにも「物知り」「博学・博識」「知の巨人」と呼べるような人が一人はいると思います。その人たちをよく観察してみてください。よく話し、よく書く、つまり、アウトプットの達人ではないでしょうか。

 逆に言えば、いくら年に数百冊読む読書家であっても、世界中を駆け巡る旅人であっても、何のアウトプットもしなければ「知の巨人」にはなれません。「短期記憶」から「長期記憶」へと情報が移動しないからです。

映画の批評文を書くか書かないかで記憶の残り方が違う

 私は映画鑑賞が好きで、年間百本以上の作品を鑑賞しています。興味深いことに、作品の「おもしろい・おもしろくない」にかかわらず、記憶に強く残っている映画とそうでない映画ははっきりと分かれます。その分岐点は「批評文」です。

 映画鑑賞後に批評文を書いたときは、「短期記憶」から「長期記憶」へと作品情報(自分が抱いた感情や感想を含む)が移動するのでしょう。数年経っても、脳から自由にそれらの情報を引き出すことができます。逆に、批評文を書かなかった作品のなかには、「あらすじ」さえ思い出せないものもあります。

 ちなみに、読書後に「原文丸写し」をすることは、アウトプットの効果としては微弱です。「丸写し」の場合、前述した「情報を理解する→整理する」というプロセスを飛ばしてもできてしまうからです。本の内容を書くときは、「丸写し」ではなく、一度頭で「情報を理解→整理」したのちに、本を見ずに自分の言葉で書くようにしましょう。この方法であれば、「短期記憶」から「長期記憶」へと情報を移すことができます。

◇話す・書くトレーニング

「短期記憶」から「長期記憶」へと情報を移すためには、アウトプットの量を増やすトレーニングが有効です。手っ取り早くできるのが「話す・書くトレーニング」、つまり、「話す」機会と「書く」機会を増やす方法です。

・ランチから会社に戻ってきたら、同僚に話す➡「駅前に新しくできたイタメシ屋さん、恐ろしく安かったよ。前菜、サラダ、スープ、メイン料理、ドリンク付きでたったの八百八十円。こんど行ってみなよ」

・自宅に帰ったら妻や子供に話す➡「さっき、電車のなかですごい人を見ちゃったよ。イスに横になって寝ている人がいたんだけど、なぜか、ちゃんと枕を使っていたんだよ(笑)。どうして枕を持っていたのか、不思議でならない」

・久しぶりに会った友人に話す➡「十二月は慌ただしくて嫌になっちゃうよ。繁忙期なうえに、二日に一回は忘年会だから。毎日、胃薬のお世話になっているよ」

「話す相手」や「話す内容」は問いません。もしも「近いうちに文章にしなければいけない事柄」や「ふだんよく書いている事柄」がある場合は、その事柄(テーマ・題材)について、より積極的に話すといいでしょう。

 たとえば、アパレルブランド立ち上げの宣伝文章を書く予定がある場合は、新しいブランドのターゲット、コンセプト、特徴、店舗などについて話す。

「野菜の栄養価が下がっている」ことをブログに書く予定がある場合は、具体的な野菜の種類や栄養価が下がった理由、理想的な食べ方などについて話す、という具合です。

 ちなみに、「話す」の先には、上級編として「教える」があります。人に教えるためには、相手の質問や疑問に瞬時にかつ的確に答えられなくてはいけません。

 つまり、人に教えられる準備をしておくことによって、情報の「理解→整理」の処理能力が高まり、加速度的に「長期記憶」の量が増えていくのです。もしもあなたが専門性の高い文章や、ある特定の分野の文章を書いているのなら、より負荷のかかる「教えるトレーニング」で「長期記憶」の強化を図るといいでしょう。

 さらに、「話す」と並行してお勧めしたいのが「書くトレーニング」です。このトレーニングでは、感情や感覚、意見や考えなど、自分の内面にある情報を取り上げます。上手な文章、長い文章を書く必要はありません。ノートや手帳やスマホを使って、積極的にメモを取るだけです。1分程度のスキマ時間でもできます。

・読んだ本のなかで共感したポイントを書く
・最近人に喜ばれた出来事を書く
・最近人に褒められた出来事を書く
・最近大笑いした出来事を書く
・最近感動した出来事を書く
・最近失敗したことを書く
・最近腹が立ったことを書く
・今悩んでいることを書く
・成し遂げたい目標を書く
・今欲しいものを書く
・将来の目標を書く
・人にお勧めしたい◯◯について書く

「内面的なことを人に話すのはためらわれる」という人も、個人的なメモ程度であれば気負うこともないでしょう。自分の内面を書くことで「長期記憶」が強化され、自分の意見や考えが明確になっていきます。

 書くことを通じて、人は思考を深めることができるのです。

「自分自身がよく分からない」「自分の気持ちがよく見えない」という人であれば、なおさら「書くトレーニング」がてきめんの効果を発揮します。「短期記憶」から「長期記憶」へと情報を移すことによって、記憶から「自分自身(自分の意見や価値観など)」を引き出しやすくなるのです。本当の自分を知る、いいきっかけにもなります。

<本稿は『書かずに文章がうまくなるトレーニング』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shutterstock


【著者】
山口拓朗(やまぐち・たくろう)
伝える力【話す・書く】研究所所長