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プロダクト精度を高めるのは「何度も手を入れる」一択

 大小問わず、官民問わず、さまざまなプロジェクトが進行する中で、「予算内、期限内、とてつもない便益」という3拍子を揃えられるのは0.5%に過ぎません。多くの人はスケジュールを守れず、予算をオーバーして、期待値を下回る「ろくでもないもの」を作ってしまうことに。

 それを避けるために重要な要素の1つが周到な「計画」や「プランニング」。ただ、史上最も成功し、世界のIT産業の中心地であるシリコンバレーで活躍する起業家やベンチャーキャピタリストは時間をかけてじっくり計画を立てたりしません。

 なんなら、「計画」や「プランニング」という言葉を毛嫌いさえしているほどです。「考えるより行動!」「動きながら考え、素早く修正せよ!」というカルチャーです。

 動く前にじっくり考える「慎重派」と「とにかく行動派」、成功する確率が高いのはどちらなのでしょうか。予算内、期限内で「頭の中のモヤ」を成果に結びつける戦略と戦術を解き明かした 『BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?』より一部抜粋、再構成してお届けします。

『BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?』(サンマーク出版) ベント・フリウビヤ
『BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?』

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【著者】ベント・フリウビヤ
オックスフォード大学教授。世界中の兆円規模のメガプロジェクトを研究、1万件以上の成否データを保有する唯一無二の存在。メガプロジェクト研究において世界最多引用をほこり、世界各国から助言を求められている。
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「前のめり」に計画をつくる。試して、何度も手を入れる

 シリコンバレーのスタートアップの間では、たとえ未完成であってもプロダクトをすばやく提供し、ユーザーからのフィードバックを取り入れて改良していく方法が一般的だ。これが、起業家のエリック・リースが2011年の同名の著書で広めた、「リーン・スタートアップ」方式である。

 そしてそれは、プロジェクトが失敗する主要因として、私が拙著『BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?』で槍玉に挙げている、「ゆっくり慎重に計画せずにプロジェクトを性急に進める方式」に酷似している。シリコンバレーの成功は、私の提唱する方法(「ゆっくり考え、すばやく動く」)の強力な反例になる、とあなたは思うかもしれない。

 だが実は、リーン・スタートアップ方式は、私のアドバイスとまったく矛盾しない。もし矛盾が生じるとすれば、計画立案のあり方を狭く限定する場合だけだ。

 私の考える計画立案とは、じっと座って考えることだけではない。計画立案は「能動的なプロセス」なのだ。計画立案には「行動」が伴う。アイデアを試し、機能するかどうかを確かめ、その学びを踏まえて別のアイデアを試す

 計画立案は、プロジェクトを本格的に実行する前の試行錯誤と学習であり、この段階の慎重で徹底的で広範な検証が、実行を円滑かつ迅速に進めやすくするのだ。

 これは天才建築家のフランク・ゲーリーが、20世紀の最も偉大な建造物に数えられるグッゲンハイム・ビルバオとそれ以降のすべてのプロジェクトでやっていることであり、公開までに「脚本のラフ案作成→観客的なフィードバック」のサイクルを8回繰り返すピクサー・アニメーション・スタジオが画期的な映画を制作するたびにやっていることだ。そしてこれは、リーン・スタートアップ方式の柱でもある。

 エリック・リースは、スタートアップの置かれている環境が「とてつもなく不確実」なため、開発したプロダクトが市場に受け入れられるかどうかを事前に知ることは不可能だと指摘する。

「顧客がほしいと口で言うものや、ほしがると私たちが考えるものではなく、彼らが本当に求めているものが何かを学ぶ必要がある」と彼は書いている。そしてそれを知るためには、「実験」をするしかない。「実用最小限のプロダクト」をつくり、それを消費者の目の前に置いて、彼らがどんな反応を見せるのかを確かめる。そこで学んだ教訓をもとに、プロダクトに変更を加えて再び提供し、このサイクルをまたくり返す

試行錯誤を重ねるうちに、最終製品がゆっくりかたちをなしていくこの段階を、リースは「構築フェーズ」と名づけた。私は「試行、学習、反復」するうちに、プロダクトの設計が変化していく「計画フェーズ」と呼んでいる。用語を除く唯一の違いは、検証の方法だけだ。

どうやって「ヒット」を事前に確かめる?

 コストや安全性、時間などを気にしなくてよいのなら、現実世界の現実の人々の目の前で、あなたがやりたいと思っていることを実際にやってみて、反応を確かめるのが理想的だ。

 だがこの種の検証は、大型プロジェクトではコストがかかりすぎるため、ほぼ不可能だ。高層ビルを建て、世間の評判を確かめてから、解体して別のビルを建てることはできない。開発途中の旅客機を飛ばして、墜落しないことを確かめるわけにもいかない。

「実用最小限のプロダクト」方式が無理な場合は、「仮想最大限のプロダクト」方式を試すといい。フランク・ゲーリーがグッゲンハイム・ビルバオやそれ以降の設計でつくったようなモデル、ピクサーが長編映画の撮影前に作成するような、きわめてリアルで精緻な「モデル」をつくるのだ。

 仮想最大限のプロダクトをつくるには、必要なテクノロジーの利用が欠かせない。だがそれらを利用できない場合でも、それほど高度でないツールや、最先端とは対極にあるようなツールの中から探してみよう。

 ゲーリーは普通の幼稚園にあるような積み木や段ボールの模型で、グッゲンハイム・ビルバオなどの多くの傑作の基本設計を行っている。ピクサーの映画のラフは高度なテクノロジーを使うが、絵を写真に撮って、セリフを録音し、それらを編集して簡単な動画にするのは、12歳でもiPhoneを使ってできることだ。

 要するに、素人でも自宅で簡単に、イベントからプロダクト、本、住宅リフォームまでの多種多様なプロジェクトのシミュレーションと検証、試行錯誤ができる。テクノロジーを利用できないことは、この方式を導入する障壁にならない。

 本当の障壁は、計画立案を静的で抽象的、形式的な行為とみなす、その姿勢にある。代わりにそれを「試行、学習、反復」の能動的な試行錯誤のプロセスとみなせば、ゲーリーやピクサーのように、いろいろな方法を使ってアイデアで「遊ぶ」ことができるのだ。

 だからこそ、ピクサーのクリエイティブ・ディレクター、ピート・ドクターはピクサー・プランニング(ピクサーの計画手法)を、冷静かつ謙虚にとらえている。たしかにピクサーは、1つの映画プロジェクトに1億ドルを超える投資を行い、超優秀な社員と最先端のテクノロジーを持っている。だがピクサー・プランニングのプロセスは基本的には、自宅の工房でニンジンの皮むき器(ピーラー)を設計するのと変わらないのだと、ドクターは強調する。

「いいアイデアを思いつき、それをもとに皮むき器をつくり、友人に試してもらう。友人は指を切ってしまう。『わかった、返してくれ、直すから。ほら直したよ、もう一度試してみて』。そうやって改良していくんだ!

 試行、学習、反復。どんなプロジェクトやテクノロジーであっても、この方法を用いれば、有効な計画を、最も効率よく立てることができるのだ。

<本稿は『BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)

『BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?』(サンマーク出版) ベント・フリウビヤ

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