話す場では存在感薄い人でもうまく書けば覆せる訳
あなたは、報告書や議事録を作成した経験があるでしょうか。
そのとき、「いちいち書くのは面倒くさいな……」と思ったこともあるのではないでしょうか。
ですが、書いて残すことには大きな意味があります。それは話す場で存在感の薄い人にとっても利点があります。「文章力ゼロでも、スラスラと、誤解のない文章が書けるようになる9つのフォーマット」を収めた『THE FORMAT』よりお届けします。
「書いて残す」は「話す」より早い
ぼくも「会って話した方が、結局、早くない?」という質問をされることが多いです。
この本を読んでくださっているあなたもまだ、「『書く、読む』はうまくできるようになりたいけど、『話す、聞く』の方がこちらの意図は早く伝わるんじゃないかな?」と思っているのではないでしょうか?
その考え、よくわかります。
正直に言えば、ぼくも以前は「話す、聞く」のうち、「話す」に比重を置いて仕事をしていたからです。
ぼくは、仕事のキャリアを株式会社リクルートHRマーケティングの営業スタッフとして始めました。2年で営業リーダーになったのち、株式会社リブセンスへ転職。ジョブセンス(現在はマッハバイトに改称)の事業責任者として、入社から2年半で東証マザーズへの上場を経験しました。その後、DeNAのEC事業本部で営業責任者を務めたのち、新規事業、採用責任者を務めてきました。
リクルートで、初めて部下を持ち、マネジメント業務をすることになったときのことです。
毎日のように、思うように数字を出せない若手から声をかけられ、相談を受けていました。そして、自分が結果を出してきた営業手法を説明して、そのまま真似してみるように伝えていました。
当時は「声をかけてくれたら、その場で答えてあげた方が早いし、相手も納得しやすいだろう」と考えていました。ですから、部下や後輩が出先から戻る夕方以降は、ミーティングが重なり、残業続きでした。
でも、ある日気がついたことがあります。それは、
「いろいろな人に対して、何度も、同じことを話している」
ということ。
部下から聞かれる質問や、問題の解決方法は同じなのに、人や時間を変えて、何度も同じ話をしていたのです。
「もしかして、アドバイスや対処法、トラブル対策を書いてまとめておき、それを見てもらうようにした方が、自分も話す時間が減り、部下もいちいちアポイントを取らなくて良くなり、お互いにメリットが多いのでは?」と考えるようになったのです。
「書いて残す」と、チーム全体の仕事が早くなる
ぼくとあなたが2人で話しているだけであれば、直接話した方が早いこともたくさんあります。
ただ、ほとんどの仕事は2人だけのコミュニケーションで完結しません。
たとえば何かを決定した場合、チームの全員、少なくとも関係するメンバーには同じ情報を伝える必要があります。
つまり、ぼくとあなたが直接話して納得し合った内容を共有するには、Aさん、Bさん、Cさんの前で、もう一度説明し直しているはずです。
そして、そこにまた新たなメンバーとしてDさんが加わった場合、Dさんには、改めてその経緯を伝える作業が発生します。それも、仕事に必要な過去のトピックや出来事を、すべて伝えているはずです。
これって、本当に「話した方が早い」のでしょうか?
その場、その瞬間では早いとしても、同じ話を何度も何度もAさん、Bさん、Cさん、Dさんに伝える必要が出てきたとき、1対1での「話す、聞く」のコミュニケーションは本当に早いと言えるのでしょうか?
じつは、そうしなくては仕事が前に進まないから、やっているだけなのではないでしょうか?
ここで考えてみてほしいのです。
書いたものは残ります。
たとえば、仕事の経緯と、内容を書いたドキュメントを共有フォルダに残しておいて、Aさん、Bさん、Cさんにはそれを読んでもらえば、「引き継ぎ」の時間を合わせて、話し合う時間は省けます。言い忘れもなければ、誰かにだけ間違った情報を伝えてしまい、混乱することもありません。
さらに、その内容を踏まえて、疑問点や、そこからの打ち合わせも、あえて、対面ではなくチャットで行います。すると、その内容も残しておくことができます。
こうしておけば、新たにメンバーに加わったDさんには、ドキュメントとチャットの履歴を読んでもらうだけで、情報共有が完了です。もちろんわからないことは聞いてもらうのですが、それもチャット上で行うことで、さらに後からEさんが入ってきても、Eさんに今までの経緯も、すべて理解してもらう際に役に立ちます。
このように、「書く、読む」で仕事を進めることは、チームでの仕事のスピードを上げてくれます。これはコロナ禍の前からリモートワークを7年以上経験し、1500人規模の会社をやっていて、確信を持って言えることです。
「声の大きさ」に自信がなくても、考えを書ければ、正当に評価される
また、「書く」ことには、もう1つ利点があります。
これまでの「話す、聞く」中心の対面のコミュニケーションでは、どんなに良いことを考えていても、鋭い意見を持っていても、それがうまく話せないと評価されませんでした。
あなたの働いてきた環境でも、声の大きい人、話がうまい人、自信ありげな態度が取れる人、それらしい論理展開ができる人、上司の声を代弁する人の意見が強くなりがちだったのではないでしょうか。
「書く、読む」のテキストコミュニケーションでは、考えや意見が可視化されます。すると、声の大きい小さいではなく、察する察せられないではなく、テキストとして書かれた内容がその人の評価を左右するようになるわけです。
●多くの人が納得する考え、意見を出せる人
●書かれていることを正しく読んで、理解できる人
●わかりやすく状況や考えを伝えられる人
●当たり前のことを当たり前にこなせる人
「話す、聞く」のコミュニケーションでは、さして成果を上げていなくても話がうまかったり立ち回りがうまかったりする人が評価されてしまうことがありましたが、その矛盾した現象はなくなっていきます。
察すること、空気を読むことなく、テキストをベースにフェアなコミュニケーションが交わされていくからです。
会社で言えば、本人の社歴、暗黙の了解、今までの人間関係の長さなどではなく、きちんと、じっくりとコミュニケーションを取ることで成り立っていく関係性が大事にされていきます。
「察せられなかった部下」ではなく、「考えをテキスト化できず、伝えられなかった上司」に責任がある、という当たり前のことが理解されるようになっていきます。
ぼくは「書く、読む」のコミュニケーションは、関わる人全員にとってフェアでやさしいものだと考えています。
<本稿は『THE FORMAT』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
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【著者】
石倉秀明(いしくら・ひであき)
1982年生まれ。群馬県出身。株式会社リクルートHRマーケティング入社。2009年に当時5名の株式会社リブセンスに転職し、事業責任者として入社から2年半で東証マザーズへの史上最年少社長の上場に貢献。その後、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)のEC事業本部で営業責任者を務めたのち、新規事業・採用責任者を歴任。2016年より1500人以上のメンバーがほぼ全員リモートワークで働く株式会社キャスターの取締役に就任。そこで磨き上げた文章術と「フォーマット」を本書で初公開している。