「2型糖尿病」診断10年以上前から進んでいる現実
糖尿病を患う人の大部分を占めるのが2型糖尿病。注意したいのは肝臓への中性脂肪の蓄積です。『糖脂肪』よりお届けします。
太った肝臓×太った筋肉×太った膵臓ー「標準体重」でも油断できない
2型糖尿病はおもにインスリン抵抗性が大きくなることで起こる疾患だと考えられるが、実際は体にふたつの不具合が起こることによって引き起こされる。
まず、オーバーフロー現象である「インスリン抵抗性」。これは肝臓や筋肉に脂肪がつくことが原因で発現する。インスリン抵抗性は糖尿病の早い段階からみられ、実際、2型糖尿病と診断される10年以上も前から起こっている例も多いが、そのときはまだ、血糖値は正常なレベルに収まっている。膵臓のβ細胞が、抵抗性がある分だけインスリンの分泌量を増やしてバランスをとっているからだ。
つまり、代償作用として血中のインスリン値を高めることで(高インスリン血症)、グルコース(糖)を細胞に取りこませ、血糖値を正常な範囲に収めているのだ。
食生活を変えないかぎり、インスリン抵抗性という不具合の次には、ふたつ目の不具合である「膵臓のβ細胞の機能障害」が起こる。
このことから、これまで医学界では、β細胞の機能障害は、インスリンを生成する細胞が疲弊して、最終的に傷ついてしまうことが原因で起こるとされてきた。
この考え方に基づけば、ふたつの現象はそれぞれ別の原因によって起こるということになる。だが、このふたつが密接に関わっていることを勘案すれば、「オッカムの剃刀」の原理に則って考えると、ふたつの現象の根底には同じメカニズムがあると考えることができるはずだ。
日に日に大きくなっていくインスリン抵抗性を克服するのに必要な量のインスリンを生成することができなくなったときに初めて、血糖値が上がり2型糖尿病と診断される。
つまり、2型糖尿病には、インスリン抵抗性の悪化とβ細胞の機能障害というふたつの先行条件があるということになる。2型糖尿病と診断される何年も前から、このふたつの不具合を反映したふたつの段階を経て、血糖値は上昇していく。
第一段階──10年以上血糖値は正常。しかし、着実に進行
図7-1からわかるように、インスリン抵抗性は平均すると2型糖尿病と診断される13年前からすでに発現している。
インスリン抵抗性が大きくなるにつれて次第にインスリン値が高くなっていくので、血糖値は長い期間をかけて徐々に上がっていき、急激に上がることはない。10年以上、血糖値は正常の範囲にとどまっている。子どもや若者の場合はこの期間がもっと短く、21か月で糖尿病を発症してしまうこともある。
インスリン抵抗性の主な要因は、臓器内やその周りにたまった「内臓脂肪」だ。
内臓脂肪が真っ先にたまるのは肝臓で、インスリン抵抗性がひどくなる前から、すでに脂肪がたまっていることが多い。
脂肪肝──何年も前から脂肪がつく
これまで述べたように、肝臓は食物エネルギーを蓄積したりエネルギーを生産したりする臓器だ。
腸で吸収された栄養素は血流にのって肝臓に直接運ばれる。体脂肪というのは体が食物エネルギーを蓄える方法なのだから、脂肪がたまることによる疾患が肝臓と関係が深いのも不思議なことではない。
脂肪のつき方にはいろいろある。
食事に含まれる余分な脂質は、肝臓を通らずに体のあらゆる部分に蓄積する。皮膚の下にたまった脂肪(皮下脂肪)は体重やBMIに反映されるが、健康への影響はほとんどない。美容の観点からは望ましくないが、代謝面ではまったく問題ない。
一方、食事に含まれる過剰な炭水化物とたんぱく質は、グリコーゲンとなって真っ先に肝臓に蓄積される。肝臓がグリコーゲンでいっぱいになると、脂肪新生の働きによって余ったグルコース(糖)は脂肪に変えられる。その脂肪は肝臓から体のほかの部分に送りだされ、たとえば腹部の臓器内やその周りにたまったりする。
肝臓が脂肪を作りだしてほかの臓器に送りだせる量を超えると、脂肪は肝臓内にたまりはじめ、中心性肥満となって重大な健康問題を引き起こすことになる。糖を摂りすぎてインスリンを多く出しすぎている期間が長くなると、脂肪肝となる。
脂肪肝とは肝臓に中性脂肪がたまった状態で、メタボリックシンドロームに合併しやすく、放置すると肝炎などを引き起こす。
そのうち、満杯の脂肪肝は新しいグルコースを受け入れることができなくなり、インスリン抵抗性のある状態となる。先に述べたとおり、インスリン抵抗性とはオーバーフロー現象だ。すると、次のようなことが起きる。
①高インスリン血症が「脂肪肝」を引き起こす
②脂肪肝が「インスリン抵抗性」を発現させる
③インスリン抵抗性が発現すると、さらに「高インスリン血症」となる
④このサイクルが繰り返される
肥満そのものよりも肝臓内の脂肪のほうが、インスリン抵抗性と糖尿病を引き起こす重大な要因である。
肥満から境界型糖尿病(糖尿病予備群)、糖尿病にいたるまでのすべての段階で、脂肪肝はインスリン抵抗性に関わっている。
これはどんな人種にも、どんな民族にも共通している。
脂肪肝があれば、高インスリン血症とインスリン抵抗性が悪化しているのは確実なので、そのことをいち早く知るには脂肪肝があるかどうかをみればいい。
脂肪肝は、2型糖尿病と診断される10年以上も前からある。肝臓は徐々に脂肪を蓄積していき、インスリン抵抗性も徐々に大きくなっていく。
脂肪肝になっているかどうかは超音波検査で調べることができるし、腹囲やウエスト・身長比の増え方も大事な指標になる。
肝臓の傷つき具合を測る血液検査でも脂肪肝が徐々に進行していることがわかる。この段階は〝肝臓からの長く無言の叫び〟と称されている。
主な脂肪性肝疾患は2種類ある──「アルコール性肝疾患」と「非アルコール性脂肪性肝疾患」だ。
ひとつ目は言葉どおり、多量のアルコールを飲むことに関係がある。アルコールのほとんどは肝臓だけで代謝されるため、多量のアルコールを頻繁に飲むと、肝臓はオーバーフローの状態になる。その結果、脂肪肝となる。
だが、脂肪肝が原因の疾患や糖尿病を患っている人の多くはアルコール依存症ではないし、科学者が脂肪肝と糖尿病の関係に着目したのは最近になってからのことである。
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD) ──炭水化物の食べすぎで
1890年、ウィーン大学のアルフレッド・フレーリッヒ博士が初めて、肥満は神経とホルモンの異常によって起こるものであることを解明した。
突然、肥満になった男の子が、のちに脳の視床下部に損傷を負ったことが原因であると診断され、そのせいで異常に体重が増えたという事例があった。それにより、視床下部はエネルギーのバランスを調整するところであるとわかった。
ネズミの実験では、脳の視床下部に損傷を与えると異常な食欲が起こって肥満になることが判明した。同時に、研究者たちはある事実に気づいた。実験によって肥満になったネズミはどれも肝臓にダメージを負っており、なかには肝臓が機能不全になるほどひどい場合もあったのだ。
遺伝的に肥満のネズミにも、同じく肝臓に病変があった。「これはどういうことなのだろう」と彼らは疑問をもつ。肝臓は肥満と何か関係があるのだろうか?
カンザス州トピカにある退役軍人のための病院で医師を務めているサミュエル・ゼルマン博士が、1952年に初めて肝臓と肥満の関係を突きとめた。
アルコールが脂肪肝を引き起こすことはすでにわかっていたが、アルコールを飲まない彼の看護助手が肝臓病を患ったのだ。彼は1日に20本ものコカ・コーラを飲んでいた。
肥満もアルコールと同じように肝臓にダメージを与えることは、当時はまったく知られていなかったのだが、ゼルマン博士はネズミの実験データからそのことに気づき、そこからの数年間、肝障害の所見のある、アルコールを飲まない肥満患者20人の追跡調査を行った。その結果、彼らが全員、当時は望ましいとされていた炭水化物の多い食事をしていたことがわかったのである。
アルコールを飲まなくても「肝臓」は太る
それから30年ほど経った頃、メイヨー・クリニックのユルゲン・ルートヴィヒ博士が、アルコールを飲まない20人の患者を、「非アルコール性脂肪性肝疾患」であると診断した(NAFLD)。
20人全員が肥満で、糖尿病など肥満に関連した疾患を患っており、肝臓がダメージを負っているというエビデンスがいくつもあった。
NAFLDと診断された患者のうち、血液検査から臓器に機能不全があることがわかった患者は、「非アルコール性脂肪肝炎」(non-alcoholic steatohepatitis、NASH)を起こしているとされた。これは〝脂肪〟を意味する〝steato〟の派生語で、〝肝臓の炎症〟という意味だ。NASHはNAFLDの病状が進行したものである。
1980年当時、ルートヴィヒ博士は、NAFLDが発見されたおかげで「医者は気づまりな会話をしなくてすむようになった」と述べている。というのも、アルコールを飲まなくても脂肪肝になることがわかったおかげで、「本当はアルコールを飲んでいるんだろう」と患者を何度も責めることがなくなったからだという。
さらに重要なのは、NAFLDが認識されたことで、肥満、高インスリン血症、インスリン抵抗性、脂肪肝は互いに関連性が高いとわかったことだ。どれかひとつの症状があれば、必ずといっていいほどほかの症状も見つかる。
<本稿は『糖脂肪』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shutterstock
【著者】
ジェイソン・ファン(Jason Fung)
医学博士
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