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「月給23万円の価値」10億円を相続した男が見た真実

 書評家の印南敦史さんによる『お金は君を見ている 最高峰のお金持ちが語る75の小さな秘密』(サンマーク出版)のブックレビューをお届けします。

 当然のことながら、精神的な負担を抱えることなく生きていくためにはお金が必要だ。次々と“お金関連”の書籍が世に出るのも、そうした理由があるからにほかならない。

 しかし現実問題として、お金の扱い方や、お金を扱うために必要な知恵のレベルは向上していない。『お金は君を見ている 最高峰のお金持ちが語る75の小さな秘密』の著者、キム・スンホ氏はそう指摘している。

 韓国人として初めて、アメリカでグローバル外食企業を成功させた実業家。創業したスノーフォックス社は、世界11カ国に3900の店舗と1万人の従業員を抱えるグローバル企業へと成長している。年間売り上げ1兆ウォン(約1100億円)の目標を達成し、アメリカ・ナスダック上場を控えているという。さらには出版社、生花流通業、金融業、不動産業も営みつつ、農場経営者の顔も持っているそうだ。

『お金は君を見ている 最高峰のお金持ちが語る75の小さな秘密』(サンマーク出版) キム・スンホ
『お金は君を見ている 最高峰のお金持ちが語る75の小さな秘密』

 ちなみに本書のもとになっているのは、かつて一般市民向けにおこなった「お金の属性」というテーマの講演。その模様を編集・紹介した動画が1000万回以上再生されて広く拡散されていったものの、いつしか本来の意図や目的から外れていってしまったため、本当に伝えたかったことを改めて本に整理しようと思い立ったのだという。

「お金の5つの属性」と「4つの能力」

 そんな本書で明らかにされているのは、「お金の5つの属性」と、経済的に豊かになりたいと願う人に必要な「4つの能力」。まず前者は、

1. お金の人格
2. 定期収入の力
3. お金のさまざまな性質
4. お金の重力
5. 他人のお金に対する接し方

の5点。そして後者は、

稼ぐ能力
貯める能力
守る能力
使う能力

 となっている。こうして確認してみるだけでも、各属性と能力の重要性がわかるのではないだろうか? つまり、これらを熟知することによって、お金との親和性が高まるということだ。

 ここでは第1章「お金の人格とはなにか」のなかから2つのトピックスに注目してみたい。

定期収入こそがお金の王者である

 ここでは、年収500万円を稼ぐAとBのふたりを比較しながら話が進められる。特筆すべきは、年収が同じである両者には明確な違いがあること。Aは毎月一定して40万円稼ぐが、Bは100万円以上稼ぐ月もあれば、一銭も収入がない月もあるというのだ。

毎月入ってくる一定額の収入は、不定期な収入よりも、お金の質がいいことを意味する。良質なお金は仲間のお金を呼び集め、お互いに強く結びつく。定期的な収入は不定期な収入よりも力が強く、実際の額面の価値とは無関係に潜在価値を測る株価収益率(PER)が高い。
農業に必要な年間降水量が1000mmだと仮定してみよう。
春と秋にそれぞれ1度500mmずつの雨が降ったとしても、その土地では農業はできない。洪水と干ばつが順番に来るだけだからだ。
代わりに、1日10mmずつでも毎日確実に雨が降れば、かなりよい収穫が望める。

(39〜40ページより)

 企業経営も同じで、つまりキャッシュフロー(現金の流入と流出)こそがなにより重要。企業のキャッシュフローがよくないと、利益が出ても不渡りを出す確率が高まるわけだ。いつかは雨が降るにしても、いま干ばつが起きれば作物が枯れてしまうのと同じだからである。

 キャッシュフローが安定していてこそ、経済的に豊かな生活が可能になる。定期収入が、人生の荒波を制御する状態をつくってくれるわけだ。

 したがって、商売は事業を計画しているのであれば、夏休みの観光客を相手に一日100万円を売り上げる人を羨ましがってはいけないのだとキム氏は指摘する。そうではなく、毎日コツコツと10万円ずつお金が入る定食屋をうらやむべきだというのだ。

 なぜなら、夏場に稼いだ100万円は綿菓子のように軽く、手で触れただけでも溶けてしまうが、定食屋の10万円は樫の木のように堅く、家を建てることもできるからである。

 たしかに不定期な収入にはリスクが伴う。一時的に入ったお金なので、実際の価値よりも大きいかのような錯覚を引き起こしてしまうのだ。そのため贅沢や無駄遣いをしがちで、結局はお金が貯まらないということ。

だから、収入が不規則な人は、自分の資産を定期的な収入として口座に移すようにすべきだ。(中略)収入が一定しないというのは、言い換えれば豊かな才能を使って短期間に多くの収入を得られるという意味でもある。これらの人は、まとまった収入を得たら、それですぐに定期収入が得られる不動産や高配当優良株を購入しておくべきだ。

(41〜42ページより)

 手元のお金を1日も早く“安定した所得の得られる資産”に変えておかないと、不定期な収入は定期所得を持つ人たちへと流れていってしまうことになる。定期的なお金と不定期なお金が戦えば、勝つのは決まって定期的なお金だからである。

10億円を手にして初めて「月給」の凄さがわかる

 ここで登場するのは、子どものいない叔父から10億円という大金を相続した会社員のジェウク氏。「これからお金持ちの人生が待っているんだ」と一度はワクワクしたのだが、遺書をよく読むと、そこには“ふたつの条件”が書かれていたのだった。

ひとつ、遺産を一銭も失ってはならない。ふたつ、年間の物価上昇率は利益から差し引く。
どうやら叔父は、自分の身内が贅沢や放蕩生活で資金を食いつぶすのを見たくなかったようだ。そこで叔父は、お金をしっかり管理できる者だけに遺産を相続させようと考えた。もしこの条件のうちひとつでも破れば、遺産はただちに回収するという但し書きもあった。

(57ページより)

 どうするべきか頭を悩ませたジェウク氏は、「もっとも安全なのは、貯蓄して利子を受け取ることだろう」という結論に達した。銀行預金なら元本も保証されているからだというわけで、彼は2020年4月時点の韓国各銀行の利率と商品を調べてみた。少し長いが引用しておこう。

 KB国民銀行の1年満期定期預金の金利は年0.80%だ。
 NH農協銀行の定期預金「大満足実質預金」は基本金利が年0.75%。
 ウリィ銀行の「WON預金」は年0.65%。
 ハナ銀行の「株取引定期預金」と「高段位プラス定期預金」はそれぞれ年0.75%と年0.70%だった。
 政府の基準金利引き下げのため、利率はほぼ1%以下になっている。
 1年満期定期の利率が0.80%と最も高いので、10億円を預金すると利子は800万円だ。
 15.4%の利子課税123万を差し引くと、満期時の手取りは10億677万円。
 年に677万円の収益があれば、十分に余裕のある暮らしができそうだ、とジェウク氏は考えた。
 ところで韓国統計庁の消費者物価調査によれば、ここ5年間の消費者物価上昇率の平均は1.1%だ。
 幸い2019年度の物価上昇率は0.4%だったので、10億円の0.4%にあたる400万円が目減りしたとして、これを利子から差し引くと、277万円の利益が出たことになる。
 これを12カ月で割ると、23万円程度にしかならない。10億円という大金を相続し、富豪として素敵な人生を送れると思っていたのに。ジェウク氏は仕事を辞めたことを後悔した。

(57〜58ページより)

 もちろんこれは例え話に過ぎないが、このケースからは3つの教訓を得ることができるとキム氏はいう。

 1つ目。「10億円は大金だが、損失を出さずに一定の所得を得ようとすると意外に少額」だということ。逆にいえば、もし23万円の定期収入があれば、10億円を保有する資産家と大差ないわけだ。一般に定期収入は、実際の金額の100倍の規模の力を持っているといわれるという。それほど定期的な資産は価値が高く、高品質な資産であるということである。

 2つ目は、「お金を守ることは、お金を稼ぐのと同じくらい難しい」ということ。そのため必ず、お金を守る方法を学ばなければならないのだ。たしかに機会と運に恵まれればお金は稼げるかもしれない。だが、それを守るためには学習と経験と知識が不可欠なのだ。

 そして3つ目。「本当に10億円を手にしたとしても、月給23万円のサラリーマンの生活を値踏みしたと同時に財産は減っていく可能性がある」ということ。

 10億円が手に入ったとなれば舞い上がっても不思議はないが、こうした事実を認識し、つつましく生きることが重要なのだ。だからこそ、自分が10億円を稼げる人間だと実感したときには、こうした知恵を早めに学んでおかなければならないのである。

「当たり前」だからこそ大切なこと

 これらを確認していただければおわかりのとおり、本書の内容は決して難解ではない。それどころか、書かれているのは“いたって当たり前のこと”だと表現することもできる。

 だが現実問題として、そうした“当たり前のこと”を日常的に意識できている人がどれだけいるだろう? 端的にいえば、その当たり前なことを忘れかけているからこそ、多くの人がなかなかお金を稼げないともいえるのではないだろうか?

 だからこそ、“お金の本質”を、簡潔に、わかりやすく伝えてくれている本書をぜひとも参考にするべきなのである。

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)


【著者】
印南敦史(いんなみ・あつし)
作家/書評家/株式会社アンビエンス代表取締役
1962年東京生まれ。広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、音楽雑誌の編集長を経て独立。「1ページ5分」の超・遅読家だったにもかかわらず、ビジネスパーソンに人気のウェブ媒体「LifeHacker[日本版]」で書評欄を担当することになって以来、大量の本をすばやく読む方法を発見。その後、ほかのウェブサイト「NewsWeek日本版」「Suzie」「WANI BOOKOUT」などでも書評欄を担当することになり、年間700冊以上という驚異的な読書量を誇る。著書に『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)のほか多数。

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