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猫の耳は私たちの想像をはるかに超えるほどスゴい

 そこにいるだけで人間の心を癒すネコ。日本では800万頭以上のネコがペットとして飼われています。(ペットフード協会調べ)

 そんなネコは「耳で考える動物」。ネコ研究者の高木佐保さんはそう言います。ネコは優れた聴覚で私たちが驚くようなことまで、耳から得る情報から判断していることが、最新の研究でわかりつつあります。

 人間の想像を超えるネコの耳のすごさとは? 高木さんの著書で「猫専用のヒーリングミュージック」を収録した付属CDとともにネコとの暮らしを充実させるヒントが満載の『猫がゴロゴロよろこぶCDブック』よりお届けします。

『猫がゴロゴロよろこぶCDブック』(サンマーク出版) 高木佐保
『猫がゴロゴロよろこぶCDブック』

かわいいだけじゃない! 実はすごいネコの耳

 生物はそれぞれ感覚器から得た情報をもとに行動を決めています。そのなかでも、種によって重きを置く感覚情報には差があることがわかっています。

 例えばモグラは地中にいるので、目が退化してほとんど見えません。そのため、視覚情報はあまり頼りにせず、触覚などの感覚器からの情報から行動を決めています。

 イルカやコウモリは超音波を発し、その跳ね返りによって物体の大きさや物体までの距離などを判断しています。

ヒトは「目で見えるものが正しい」と思ってしまいがち

 そのなかで私たちヒトは、視覚からの情報を重視している生き物です。

 そのため、「目で見えるものが正しい」と思ってしまいがちです。この感覚は当たり前すぎてかえって意識するのが難しいかもしれませんね。

 例えば、「隣の部屋からAさんの声が聞こえた場合」と、「隣の部屋にAさんがいるのを見た場合」があるとしましょう。

 「本当にAさんはいたの?」と聞かれたとき、確信度が高いのはどちらでしょうか?

 聞こえただけの場合、「Aさんの〝声〟を聞いただけで、たぶんいたと思うけど、いなかったかも……。隣の部屋だったかどうかも、そこまで自信ないなぁ……」といったように、声だけでAさんの存在を確信するのは難しいものです。

 しかし、実際にAさんが隣の部屋にいるのを「見た」場合、確信をもって「Aさんは隣の部屋にいたよ!」と言うでしょう。

 このようにヒトやヒトと近縁の霊長類は、視覚優位の動物が多いのです。

ネコはヒトに聞こえない帯域の音が聞こえる

 では、ネコの場合はどうでしょうか?

 ヒトの可聴域は20Hzから20kHzなのに対して、ネコの可聴域は48Hzから85kHz。ヒトには聞こえない「超音波帯域の音」が聞こえることがわかっています。

 さらに、聞こえる音の高さだけでなく、「隣の部屋の虫の足音」のようなわずかな音も聞き逃さないことがわかっています。

 ネコは家で何もない空間を見つめて、「このコには何が見えているの……?」と、飼い主を怖がらせることがありますが、おそらくヒトには聞き取れないわずかな音に反応していると考えられます。

 ネコの耳には20以上の筋肉がついており、左右それぞれに180度回転させられます。「右耳で前からの音を、左耳で後ろからの音を聞く」みたいなことが容易にできてしまうのです。

 このように、ネコは聴覚が非常に優れているため、耳から得られた情報に頼って物事を判断していると考えられます。

 もちろん、目から見えた情報も用いていますが、その比重は耳からの情報の方が大きいという研究もあります。

 先ほどの例をネコに聞いてみると、「隣の部屋からAさんの声が聞こえたんだから、絶対いたにゃん!」と確信をもって答えるかもしれません。

ネコの活動時間とも関連している

 その種が重きを置く感覚情報は、活動時間とも関連しています。ヒトや霊長類が昼間の明るい時間帯に視覚を頼りに生活する一方で、ネコは薄明薄暮性。朝方や夕方の薄暗い時間を活動時間とし、獲物が立てる音を頼りに狩りをしています。

 ネコはヒトと一緒に暮らすことで、生活の時間を合わせてくれることがわかっていますが、本来の活動時間は視界が悪く、音を頼りにしなければならない時間帯。早朝にネコが家で大暴れしている音で目覚めることもあるでしょう。それはネコのこのような性質が関連しているのです。

 ヒトは頭のなかで何かを考えるときも、視覚的なイメージをもとに思考を行っていますが、ネコや他の動物は聴覚的イメージを用いているのかもしれません。

 私たちにはまったく想像できない形でいろいろな思考・判断を行っていると思うと、夢が広がりますね! 一度でいいからネコになって世界を感じてみたいです。

<本稿は『猫がゴロゴロよろこぶCDブック』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)


【著者】
高木佐保(たかぎ・さほ)
麻布大学特別研究員。ネコ心理学者。日本学術振興会特別研究員(SPD)
1991年生。2013年同志社大学心理学部卒業。2018年京都大学大学院文学研究科行動文化学専攻心理学専修博士課程修了。博士(文学)。「ネコは音からモノの存在を想像する」「ネコは思い出を持っている」という研究成果により、2017年度京都大学総長賞を受賞。大学3年時に実家のネズミ取りのためにネコを飼い始め、その魅力にどハマりする。幼い頃から疑問を抱いていた「動物の心」を解明するため、ネコ研究の道へ。



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