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「深い眠り」を得られた人の身体に起こっていること

 寝起きに体が爽快な時とそうは感じない時にどんな違いがあるのでしょうか。

 深い眠りのメカニズムとは? 『熟睡者』よりお届けします。

『熟睡者』

 睡眠は4つの異なるステージ(レム睡眠+3つのノンレム睡眠)から成っていて、これらのステージが夜の間に何度も繰り返さる。このうち脳と体がとりわけ深い休息状態に陥っている深い眠りの段階では、私たちの体が最も高い度合いで回復を遂げる。 

「ストレスホルモン」が減り、「成長ホルモン」が増える

 深い眠りのステージの大半は夜の前半に生じる。

 眠りの前半ではコルチゾール(別名ストレスホルモン)の分泌量が最も少なくなる一方、筋肉の増強、成長、そして免疫システムに重要な成長ホルモン「ソマトロピン」が分泌され、私たちの組織は修復、再生されていく。

 血圧や心拍数も覚醒時より低下し、心血管系に休息の時間が訪れる。

 ほかの睡眠ステージに比べ、深い眠りでは、大脳皮質の神経細胞同士がよりコミュニケーションをとるようになり、また上下に大きく振れる、ゆっくりとした脳波が見られるようになる。この脳波の特徴から、同ステージは「徐波睡眠」とも呼ばれる。

 深い睡眠は大脳皮質全体で起こるが、深い睡眠の中でも脳波が1~2ヘルツとなる最も深い段階は、おもに覚醒時に目立って活発な脳の領域で起こる。とくに、覚醒時に集中したり、意思決定をしたり、ストレスを克服したり、新しいことを学んだりする際に絶えず働きつづける前頭葉が挙げられる。

眠ってからすぐ起きると「酩酊」状態に

 深い眠りの最中にいる人を起こすのは難しい。このステージの途中で起こされると、頭がもうろうとしているように感じ、脳が再び完全に目覚めるまで15分ほどかかる。

「睡眠惰性」「睡眠酩酊」と呼ばれるこの状態は、たとえば夜中に患者の治療で起こされる医師や、消防署に寝泊まりし、緊急時には数分以内に消防車に乗り現場へ向かわねばならない消防士にとっては、じつに困ったことである。

 なぜ、深い眠りに入ると、外界からの刺激にあまり反応しなくなるのだろう。

 その理由は、脳内の視床が大脳皮質をまさにそのような刺激から遮断するからだ。視床は、脳が日中に学び経験したことを邪魔されずに処理できるように見張る、門番のような役割を果たしている。

 一方、大脳皮質は海馬と連絡をとる。海馬は、日中に何かを学び、または経験したときに、大脳皮質のどの領域が関係したかを把握している。

 海馬はこれらの領域へ、「リップル波」と呼ばれる100~150ヘルツの脳波のパケットを送る。このような大脳皮質、視床、そして海馬の間の、相互に完璧に調和のとれたコミュニケーションは、長期記憶の構築の重要な前提条件となる。

神経細胞の「つながり」が整理される

 深い眠りには、もうひとつ大切な仕事がある。それは、脳の「ハードディスク」の修復だ。

 新たに形成された神経細胞の接合(シナプス)のうち、余分なつながりだと分類されたものは除去される。それにより、次の覚醒時にまた新しく物事を学び、処理するために必要な容量を十分に確保できるのだ。

 このプロセスは、「シナプスのダウンスケーリング」とも呼ばれる。

「食べる炭水化物」で眠りが変わる

 夜の深い睡眠の量は、どのような要因で決まるのだろうか。

 仮説のひとつは、読書家、勉強家、そのほか頭をよく使う人は、新たに得た情報を処理できるよう、深い睡眠を多く必要とするというものである。

 反対に、ストレスは、コルチゾールの分泌増加をともなうため、深い睡眠の量に悪影響をもたらす。また、カフェインも負の影響を与える。カフェインが、深い睡眠中に現れるゆっくりとした脳波の振れ幅を減縮させる効果をもつことが明らかになっているのだ。結果、深い眠りが浅くなってしまう。

 炭水化物の中でも消化吸収の早い単糖類や二糖類、また飽和脂肪酸の割合が高い食事が、バランスのよい食事に比べて深い眠りを浅くすることも知られている。

 年配者の中には眠りの浅さに不満をもっている人も多い。実際、高齢者、とくに男性は一般的に眠りが浅い傾向が見られる。

 その理由のひとつとして、前頭葉の神経細胞がアミロイドβ(アルツハイマー病に関与すると考えられているタンパク質)によりダメージを受けている可能性がある。

 その結果、大脳皮質の神経細胞が「麻痺」し、お互いに同期しながら適切なコミュニケーションをとることができなくなり、ゆっくりと調和のとれた脳波を発生させるのに支障をきたすようになるのだ。

<本稿は『熟睡者』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです。「4つの睡眠ステージ」については本書で詳しく解説しています>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)

【著者】
クリスティアン・ベネディクト(Christian Benedict)
1976年、ドイツ・ハンブルク生まれ。スウェーデン・ウプサラ大学准教授、神経科学者、睡眠研究者。キール大学の栄養科学修士課程を修了。リューベック医科大学で神経内分泌学を研究、博士号を取得。2013年よりウプサラ大学の教壇に立つとともに、同大学の睡眠研究を牽引。

ミンナ・トゥーンベリエル(Minna Tunberger)
ジャーナリスト、作家。約20年にわたり、スウェーデン通信(TT)や日刊紙「スヴェンスカ・ダーグブラーデット」等の主要メディアに健康をテーマにした記事を執筆。

【翻訳者】
鈴木ファストアーベント理恵(すずき・ふぁすとあーべんと・りえ)


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