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説明上手な人と服を捨てられる人がほぼ一致する訳

「説明することが苦手」という人は少なくないでしょう。

 うまく説明できない理由の一つが「すべてをカバーしようとするから」。ベストセラー『「いまの説明、わかりやすいね!」と言われるコツ』(浅田すぐる著)よりお届けします。

『「いまの説明、わかりやすいね!」と言われるコツ』

「説明」はどこまですればOKなのか?

「『クルマの機能』といえば、何を思いつきますか?」

 ご自分なりの答えを考えていただいてから読み進めてください。

 私を含め、自動車業界の出身者は、この質問に対してほぼ金太郎飴あめのように「走る、曲がる、止まる」の3つだ、と答えます。

 たしかに「走る」ための動力装置(エンジン)と、その動力を「曲がる」という観点で制御する操そう舵だ装置(ハンドル)、「止まる」という観点で制御する制動装置(ブレーキ)があれば、クルマというモノは成立するといえます。

 ただ、ほんとうにこの3つだけかというと、たとえば「運ぶ」という機能も選択肢としては考えられるでしょう。あるいは、電気を「溜める」機能も注目されていますし、これからは「つながる」というIoT的観点をふまえてクルマを再定義する動きもあります(「IoT(Internet of Things)」とは、あらゆる製品がインターネットに接続されていくという意味のビジネスキーワードです)。

 要するに、クルマの機能について本来はほかにもいろいろとあるわけです。「走る、曲がる、止まる」は、クルマの機能を「すべてカバー」しているわけではありません。

 ただ、「網羅しているわけではないが、代表的な3つとしてはこれで十分だろう」とだれもが了解しやすいものが、先ほどの「走る、曲がる、止まる」なのです。

 実際、この話は「自動車の3つの基本性能」といわれ、業界では常識とされています。

「言いたいことがまとまらない」本当の理由

 この事例から、ぜひ知っていただきたいキーワードがあります。

 それは「網羅性」と「代表性」

説明が苦手な方の大半が、「代表性」ではなく「網羅性」優先で説明してしまっているために、うまくまとめて伝えることができないのです。

 どういうことか、もう少し具体的に説明しましょう。

 試しに紙を1枚用意し、そこにあなたが扱う商品やサービスの特徴を書き出してみてください。まずは、できるだけたくさん書くようにしましょう。

 ひと通り書き出したら赤ペンを持ち、こうご自身に問いかけてみてください。

「このなかで『3大特徴』を選ぶとしたらどれだろう?」と。

 該当するものを丸で囲む、あるいは複数の言葉をまとめられる別のフレーズが浮かんだら、その言葉を余白に書き出すようにしてください。

 いずれにせよ、最終的に「この商品・サービスの特徴は次の3つです」といえるところまでまとまったら、あとはすべて捨ててOKです。

 いかがでしょうか? ふだん、セミナーでこのワークをやってもらうと「6つでもいいですか?」「どれも大事なので3つには絞れません」と音を上げる受講者がいらっしゃいます。

 そうした方に何度もお会いし、観察や対話を続けたところ「まとまらない原因」は要するに「捨てられないから」だということがわかってきました。

 そして「捨てられない」最大の理由こそが、「代表性」という発想を持たないまま「網羅性」だけで考えているからだ、という結論に行きつきました。

情報を「捨てる勇気」を持ちなさい

「限られた数ではすべてをカバーできない。だから、まとまらない」

 あなたには、こうした固定観念がどれくらいあるでしょうか?

「ある程度代表していれば、とりあえずこのくらいでいいや」「どうせ覚えきれずにほとんど忘れてしまうのだから、3つくらいでまずはよしとしよう」という、いい意味で妥協できる柔軟性がどれくらいあるでしょうか?

 先ほどご紹介した「走る、曲がる、止まる」も、必ずしも網羅しているわけではありません。

 ただ、その一方で、網羅はしていないがある程度「代表」はしている。その3つですべてをカバーするわけではないが、重要な点はおおむね押さえている、まずはこれだけ頭に入れておけばOK──これが「代表性」という考え方です。

 説明が苦手な人は、すぐに過剰な数で説明しようとしてしまいます。当然、こうした「過剰人間」は「3つにまとめる」ことが苦手です。その大きな理由が「代表性」という感覚が麻痺した「網羅人間」になってしまっているからなのです。

 この傾向が強い人ほど「これだけではまだ網羅できていない、だからこの3つだけを選んではいけない。説明もしてはいけない」などと言っては頭を抱えます。

 ですが「端的にまとめて説明する」ことが得意な人は、そもそもそんなところで悩んではいないのです。数を増やしても、どうせ忘れ去られておしまいです。

「網羅性」による説明は自己満足であって、相手のためにはならない。だったら「この3つでOKとする」ことを、臆せずやってもいいのです。

 この話をすると、「端的にまとめて話をすることが苦手だと感じている人」の多くが「目からウロコが落ちた」というコメントをされます。

 易しく書いているため一読ではピンとこないかもしれませんが、それくらい「網羅性」と「代表性」は「説明下手」から脱出するためのカギとなる概念なのです。

「わかりやすい説明」をするうえで優先すべきは「網羅性」よりも「代表性」。「これで大枠は押さえられているからいいや」という感覚で「この3つでよし」とする。そう自分に〝許可〟を出すようにしてください。

「絞る」ことで「できる」ようになる

網羅性」にこだわる人というのは、えてして余計な情報を捨てることを「もったいない」と感じがちです。

 しかし、いまは情報過多の時代。たとえこちらが望んでいなくても、情報がどんどん入ってきます。それらをうまく活用するには、余計な情報はきっぱりと捨て、削ぎ落としていく必要があるのです。

それはたとえば「クローゼットのなかの服」と同じようなものです。

 服はどんなにたくさん持っていても、それを着る自分のからだは1つです。服は着てこそ持っている意味があります。つまり、一着一着の服を活用するには、必要にして十分な着回しができるだけの適度な量にすることが大事です。

情報も同じで、活用できて初めて意味をなします。そして、活用するには適度な量まで減らす必要があります。そのカギが「網羅性は捨てる」ことなのです。

 私自身、このことを実感したエピソードがあります。

 今回は「3つ」ですらありません。より極端に、たった「1つ」に絞った例です。

 以前、私は願望実現に関する講座を音声教材で受けていました。6か月のプログラムだったので、かなりの情報量でした。知的好奇心も満たしてくれる楽しい講義で、受けているときは「あれも覚えておきたい、これも実践したい」と思う内容でした。

それから十数年経ったいま、正直、内容の多くは忘れてしまっています。ただ、いまも記憶に残り、今日までずっと実践していることがあります。

 それはたった1つ、「いまできることをやる」──「実現したい願望や目標があったら、それを達成するために『いまできることを淡々と積み上げる』」というメッセージです。

このメッセージは、当然このプログラム全体を「網羅」したものではありません。ですが、間違いなくこのプログラムを「代表」するメッセージの1つではありました。だから、この一点に絞って、それこそ「できること」を積み上げていったのです。

 たとえば、本の出版をしたいという願望があったら、とりあえず原稿を書き始めてみる、どんな出版社があるのかネットで調べてみる、あるいは本の出版経験がある人に話を聞く、などといったことです。すぐに願望達成に直結しなかったとしても、考え込んで停滞している暇があったら、淡々と「いまできることをやる」のです。

<本稿は『「いまの説明、わかりやすいね!」と言われるコツ』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shutterstock


【著者】
浅田すぐる(あさだ・すぐる)
「1枚」ワークス(株)代表取締役
愛知県名古屋市出身。旭丘高校、立命館大学卒。在学時はカナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学留学。トヨタ自動車(株)入社後、海外営業部門に従事。米国勤務などを経験したのち、6年目で同社の企業ウェブサイト管理業務を担当。「伝わるサイト」へのカイゼンを実現し、企業サイトランキングで全業界を通じ日本一を獲得する。その後、日本最大のビジネススクールである(株)グロービスへの転職を経て、独立。現在は、独自の教育プログラムとして“「伝わる」思考×「1枚」の型 1sheet Frame Works"を開講。人気講座となっている。

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