夏まゆみさんが「群れない人こそ成長・成功する」と説いた意味
身内に気を遣い、仲間から浮かないように足並みをそろえる。チームワークを意識して行動かもしれませんが、ダンスプロデューサー/指導者として活躍された夏まゆみさん(2023年6月逝去、享年61)に言わせると「それをチームワークだと思うなら、いますぐ捨てたほうがいい」。
夏さんの代表作のひとつ『エースと呼ばれる人は何をしているのか』から一部を抜粋し、エースにとっての仲間との向き合い方、重要な「時間の使い方」についてのメッセージをご紹介します。
「仲間」を意識すればするほど成長しない
ですから、同じ距離感で同じ声の大きさで、同じ厳しさとやさしさを持って言葉を伝えています。しかし、それを聞くメンバーの様子は一人ひとり、本当に千差万別で、異なった反応が返ってきます。
その場にいるメンバーたち自身にはあまり想像できないかもしれませんが、みんなを同じように見ている私の目には、驚くほどさまざまな反応が見られるのです。
ダンスの練習中に先生の顔色ばかりうかがう人は上達しないという話を先ほど紹介しましたが、じつはこうした場面でもっとダメなパターンがあります。
それは、一緒にレッスンを受けている仲間の目を気にしてしまうことです。
先生の表情を見て「大丈夫かな?」と心配するならまだしも、仲間が自分のダンスをどう思っているか、そのようなことをいちいち気にしていたら練習になりません。
どうしていまそのような話を掘り返すかといえば、この、仲間の目を気にするという「思考」がエースの大敵だからです。
「私が一番できていないかも……」
「私のダンスはみんなから見て変じゃないかな……」
「この場で個性的なダンスを披露したら〝抜け駆け〟と思われるかな……」
そんな心配をしていたら、せっかくの才能やアイデアを発揮できなくなってしまいます。
また、こうした思考の人は仲間と「群れ」で行動するのを好み、周囲と同じであることに安心感をおぼえる傾向があるため、ますます成長から遠ざかってしまいます。
「群れない時間」をつくりなさい
「そうは言ってもチーム作業で、メンバー同士仲よくなるのはいいこともあるのではないか? 群れることはそれほど悪いことなのか?」
そう感じる方もいることでしょう。
しかし、芸能人・一般の方々を問わず、私がこれまで指導してきた数多くの人を見ていて思うのは、「ずっと群れている人」と「群れない人」ではその後の成長・成功に明らかな差が生まれる、ということです。
もちろんそれには大きな理由があります。
周囲の目ばかり気にしたり、仲間同士で群れたがるのは、自分というものがない証あかしといえます。そんなつもりがなくても、いつも集団にいると、グループのやり方、グループの総意、グループの行動に少しずつ影響されていきます。
しかし、エースの第一条件である「自己確立」ができている人はまず群れません。仲間と必要以上になれ合うことなく、つねに自分として行動するのはエースに共通する特長です。少なくとも必ず「ひとり時間」を知らず知らず設けているのです。
この「ひとり時間」というのが、自己を確立していくうえで非常に重要な「時間の使い方」なのです。
AKB48時代の前田敦子がまさにそうでした。
レッスンの合間にある休憩時間の多くを、前田は独りで過ごしました。ほかのメンバーが数人のグループになってワイワイおしゃべりをしているなか、ステージの端で座り込む姿をしばしば見かけました。
私は、この時間が「絶対的エース」前田敦子をつくったと思っています。
本人にたしかめたことはありませんが、自分自身のこと、仲間のこと、それぞれの立ち位置や目標など、いろんなことを頭のなかで確認していたのだと思います。
レッスンがはじまってしまえば、いかに前田といえども、私に言われるままがむしゃらに動くしかありません。だからこそ彼女はわずかな休憩時間を群れずに過ごし、自分自身を取り戻す時間にあてた。そして自分の伸ばすべきところ、直すべきところ、さらには自分の立ち位置や役割までも確認して微修正を加えていった。
その積み重ねにより、前田はゆるぎない自己を確立していきました。不必要に群れずに「ひとり時間」を積み重ねることが、エースの資格である自己確立を自分にもたらすのです。
そんな前田に対して「チームワークを乱している」とか「協調性に欠けている」と言う人もいるでしょう。実際に私もそういった内容のコメントを目にしたことがあります。
しかし私は、むしろそんな風潮のほうがとても怖いことだと感じています。
より具体的に言うなら、身内に気を遣い、仲間から浮かないように足並みをそろえることが「チームワーク」だと思っている人がいることが恐ろしいのです。
同じ考え方を持った同じレベルの人が集まって、みんなで手を取り合いながら同じ方向をみて頑張っていく──。
それがチームワークなのだとしたら、そんなものはいますぐ捨てたほうがいいくらいです。エースをめざす人にはもちろん、そこに関わるすべての人にとって、横並び主義のチームワークは決してチームを成長させない「無用の長物」です。
<本稿は『エースと呼ばれる人は何をしているのか』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>)
(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
【著者】
夏まゆみ(なつ・まゆみ)
ダンスプロデューサー/指導者
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