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夏まゆみさんが説いた「強みは1つあればいい」の教え

 ちょうど1年前の昨年6月21日に亡くなった夏まゆみさん(享年61)。ダンスプロデューサー/指導者としてだけでなく、指導者としても注目されていました。

 夏さんをしのび、代表作のひとつ『エースと呼ばれる人は何をしているのか』から一部を抜粋し、夏さんがビジネスパーソンに宛てたエースに求められる資格の1つ「自信を持つ」にまつわるメッセージをご紹介します。

『エースと呼ばれる人は何をしているのか』(サンマーク出版) 夏まゆみ
『エースと呼ばれる人は何をしているのか』

強みはたったひとつあればいい

 じつは、自信を持つのはそれほど難しいことではありません。現時点で「自分に自信がないなぁ」という人は、ついつい誰かと自分を比較して、劣っているところばかり見ている傾向があるようです。

 以前、AKB48のあるメンバーが「○○ちゃんは歌がうまいし、△△ちゃんはダンスが上手、でも私には何もないんです」と泣きついてきたことがありました。

 こういうとき私は必ず「できないことや苦手なことが山ほどあったとしても、強みが1個あればいいんだよ」と言うようにしています。なぐさめではなく心底そう思います。なぜなら核となる強みをひとつでも持っている人は、それをよりどころにして、さまざまな困難を乗り越えていけるからです。

 実例をあげて説明すると、モーニング娘。の安倍なつみは集中力という強みを持っていました。彼女がモーニング娘。のセンターに起用されたのは、この集中力があったからにほかなりません。

 アイドルグループのセンターはステージ上の人数によってダンスの動きが大きく変わってしまうという、負担の大きいポジションです。とくにモーニング娘。のときは本番直前にフォーメーションが変更になるといったアクシデントが何度もあって、そのたびに安倍は大変な思いをしました。

 本番直前の舞台裏、ほかのメンバーがメイクに入ったりお手洗いにいったりバタバタしているなか、私とマンツーマンで向き合って振りを覚え直していく──。そんなときの安倍の集中力は本当にすごくて、私の説明にウン、ウンとうなずきながら、短時間ですべてを吸収していく。それで最後に私が「大丈夫?」って聴くと、「大丈夫」ってうなずく。そうしたらもう、絶対に間違えません。

 ふだんの安倍はレッスン中に居眠りをしたり、注意されても「テヘヘ」ですませてしまうようなポワっとした子なのですが、そのキャラが許されるのも集中力のおかげです。いざとなればちゃんと集中スイッチが入ることがわかっているから、ちょっとくらいトボケていても信頼が損なわれたりはしないのです。

 AKB48の大島優子の核にあったのは冷静さと平常心です。彼女は前田敦子がいたころはつねに2番手のポジションで、内心では忸怩たる思いもあったはずです。しかし、そんな葛かつ藤とうは心の奥底に封じ込め、2番手としての役割を完璧にやり遂げました。それは彼女が冷静に自分を、前田を、そしてAKB48全体を見ていたからできたことだと思います。

 つねに冷静沈着に相手を観察し、どういう言葉にどう反応するかなどを見極めているから、どんな相手とも円滑にコミュニケーションをはかることができるのでしょう。

 このように、何かひとつでも核になるものがあれば、それは形を変えてさまざまな場面で自分を支えてくれます。別の言い方をするなら、あれもこれも、たくさんの才能を持っているように見える人でも、じつのところそれはたったひとつの核が形を変えたものだったりするのです。

 だから自分に自信を持てない人は、足りないところばかり見ていないで、まずは強みのほうに目を向けましょう。ひとつでもいいから、誰にも負けない強みを見つけることができたなら、それを大いに誇り、自信を持っていいのです。

◼️「好きなもの10個」の意外な効果とは?

 どんな自信家だって失敗すれば落ち込むし、ときには自信を喪失してしまうこともあります。そのようなときの療法として効果的なのが、「好きなもの」を10個列挙することです。

 これは意外と難しく、すらすらと10個思いつく人はなかなかいません。なかには3個くらいで詰まってしまう人もいます。

──でも、それでもいいのです。

 この療法にはふたつの側面があって、ひとつは、好きなことを考えていると、それだけで自然とポジティブな気持ちになれること。私はよく教え子が落ち込んだときにこれを試しますが、好きなものを1個、2個と数えているうちに、顔つきがどんどん明るくなっていくのがわかります。

 もうひとつは、自分にとって大事なものは身近にあると気づけることです。

 ほとんどの人は「好きなもの」と言われるとなぜか食べ物を連想するようで、リストのなかにはだいたい「ケーキ」とか「バナナ」とか好きな食べ物が入っています。そうしたら、その食べ物をすぐさま買いに行き、こう考えるのです。

「この世に生きて好きだと思ったもの10個のうち1個がもう手に入った!」

 どうでしょうか。

 大げさに聞こえるかもしれませんが、実際にそれを手に入れたり、好きなことを実行したりするだけで楽しくなり、ネガティブな気持ちは必ず薄れていきます。簡単なことではありますが、実行すれば達成できるという実感も伴い、それがちょっとした自信として蓄えられていくのです。

<本稿は『エースと呼ばれる人は何をしているのか』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>)

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)


【著者】
夏まゆみ(なつ・まゆみ)
ダンスプロデューサー/指導者

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