稲盛和夫「『考え方』を変えれば人生は180度変わる」
「考え方次第で人生は決まってしまうといっても過言ではありません」
2022年8月に90歳で逝去された稲盛和夫さんは生前に著書『生き方 人間として一番大切なこと』で、こう述べていました。
稲盛さんが心のあり方や生きる姿勢、哲学、理念や思想などを含む「考え方」の大事さを強く説いた理由とは?
「考え方」を変えれば人生は一八〇度変わる
人生をよりよく生き、幸福という果実を得るには、どうすればよいか。そのことを私は一つの方程式で表現しています。それは、次のようなものです。
人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力
つまり、人生や仕事の成果は、これら三つの要素の“掛け算”によって得られるものであり、けっして“足し算”ではないのです。
まず、能力とは才能や知能といいかえてもよいのですが、多分に先天的な資質を意味します。健康、運動神経などもこれにあたるでしょう。また熱意とは、事をなそうとする情熱や努力する心のことで、これは自分の意思でコントロールできる後天的な要素。どちらも〇点から一〇〇点まで点数がつけられます。
掛け算ですから、能力があっても熱意に乏しければ、いい結果は出ません。逆に能力がなくても、そのことを自覚して、人生や仕事に燃えるような情熱であたれば、先天的な能力に恵まれた人よりはるかにいい結果を得られます。
そして最初の「考え方」。三つの要素のなかではもっとも大事なもので、この考え方次第で人生は決まってしまうといっても過言ではありません。考え方という言葉は漠然としていますが、いわば心のあり方や生きる姿勢、これまで記してきた哲学、理念や思想なども含みます。
この考え方が大事なのは、これにはマイナスポイントがあるからです。〇点までだけではなく、その下のマイナス点もある。つまり、プラス一〇〇点からマイナス一〇〇点までと点数の幅が広いのです。
したがってさっきもいったように、能力と熱意に恵まれながらも考え方の方向が間違っていると、それだけでネガティブな成果を招いてしまう。考え方がマイナスなら掛け算をすればマイナスにしかならないからです。
わが身の恥をさらすようですが、就職難の時代に大学を出た私は、縁故がないために、いくら入社試験を受けても不合格続きで、いっこうに就職が決まらない。それならいっそ、「インテリやくざ」にでもなってやろうか、弱い者がわりを食う不合理な世の中なら、義理人情に厚い極道の世界に生きるほうがずっとましかもしれない――すねた心で、なかば本気でそんなふうに考えたこともありました。
そのとき、ほんとうにその道を選んでいたら、そこそこ出世をして、小さな組の親分くらいにはなっていたかもしれません。しかし、そんな世界でいくら力をつけても、根本となる考え方がネガティブでゆがんでいるのですから、けっして幸せにもなれなかったでしょうし、恵まれた人生を歩むことはできなかったでしょう。
では、「プラス方向」の考え方とは、どんなものでしょう。むずかしく考える必要はありません。それは常識的に判断されうる「よい心」のことだと思っていただければよいでしょう。
つねに前向きで建設的であること。感謝の心をもち、みんなといっしょに歩もうという協調性を有していること。明るく肯定的であること。善意に満ち、思いやりがあり、やさしい心をもっていること。努力を惜しまないこと。足るを知り、利己的でなく、強欲ではないことなどです。
いずれも言葉にしてみればありきたりで、小学校の教室に掲げられている標語のような倫理観や道徳律ですが、それだけにこれらのことをけっして軽視せず、頭で理解するだけでなく、体の奥までしみ込ませ、血肉化しなくてはいけないと思うのです。
<本稿は『生き方 人間として一番大切なこと』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
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【著者】
稲盛和夫(いなもり・かずお)
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