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「話を聞いてくれた!」と思われる人と相手と噛み合わない人は何が違うか

「いや、だから私が言いたいのは...」

「うん、わかってるよ。要するに...」

「...違うんです」

 こんなやりとりをみずから経験、あるいは見聞きしたことはないでしょうか。相手は一見、話を聞いているように見えます。でも、その言葉の裏には「早く結論を出したい」という焦りが透けて見えます。実は「聞く」という行為には、もっと大切な意味が隠されているのです。

 行動科学的な視点から、人間関係における「トゲ」をなくして他者と生きる術に迫った『あいては人か 話が通じないときワニかもしれません』よりお届けします。

『あいては人か 話が通じないときワニかもしれません』(サンマーク出版) 書影
『あいては人か 話が通じないときワニかもしれません』

「聞く」は相手の話を「有効」にする行為

 私は車で出かけるとき、行きつけの店の近くのパーキングをときどき利用する。パーキングの駐車券には、お金を支払ったぶんの時間まで「有効バリッド」と書かれている。

 学校教育の課程では、生徒が身につけた技術や知識が「有効」、つまり正当なものだと承認する必要がある。正式な教育を受けたというお墨付だ。コミュニケーションの場合も同じで、相手の話を正当なものとして認め、受け入れることは「有効」にすることであり、介護現場などでは「バリデーション」という技法として知られている。

 こんなふうに言われたことはないだろうか?「ちゃんと聞いてるよ。ようするに...と言いたいんだろう?」

 こんな言い方をされたら、自分の話を真剣に聞いて理解してもらえたと思うだろうか?

 理解してもらえたと感じさせるには、たくさんの言葉や文章で伝えなければいけない。つまり、相手のスピンドルニューロンが求めるものを「満たして」、心のアンテナを引っこめさせなければならない。

 そこで、ここからは「バリデーション」について書きたい。「バリデーション」を知れば、なぜ相手の話に耳を傾けて共感することが必要か理解できるだろう。

 「バリデーション」とは、簡単にいうと、相手の話に耳を傾けて、その話を真剣にとらえ、こちらが理解したことが相手にきちんと伝わるようにすることだ。

 そうしてはじめて、相手の話が「有効」になる。その話を正当なものとして認め、受け入れたことになる。「受け入れる」ことと、「ああ、ちゃんと聞いてるよ」と言うのとではまったく違う。

娘を諭す母親とあまり聞いていない娘

たとえ理解できなくても、ただ受け入れよう

 そして、相手に「受け入れられた」と感じてもらうには、こちらはあることをする必要がある。少しだけ自分の世界から離れて、「自分の見方を手放す」のだ。自分の考えや、問題の解釈などはすべて手放し、相手に意識を集中しよう。そうすれば相手としっかり向き合うことができて、その人の考えや気持ちに寄り添える。

 それをしないと、次の段階には移れない。

 何もかも理解しなくていい。とにかく話を聞いて、それをその人の真実として尊重しよう。たとえ理解できなくても、ただ受け入れよう。

 思いをあらいざらい吐き出したい人もいれば、すぐに問題に取り組みたい人もいる。心の受信アンテナの長さは人によって違うし、スピンドルニューロンの数も違う。感受性のレベルは人それぞれだ。

(※スピンドルニューロン=驚くほどの速さで情報を伝える特殊な神経細胞)

 また、自分の弱いところを見せたくなくて、ポーカーフェイスになる人もいる。そんなときでも相手の悩みに共感を示せば、相手は仮面を外して、強さと弱さを持ち合わせたありのままの姿に戻るだろう。

 ドライで合理的な現代社会では、何かを気にして思い悩んでいると「あの人は繊細だ」などと言われて、ネガティブに受け取られがちだ。でも、俳優のミア・シャーリンゲルはこう言っている。「無神経な人間でいるよりは繊細な人間でいるほうがいい」

 とはいえ、「無神経」だって、見方を変えれば、大らかで楽観的だといえる。ようするに、互いの感受性を尊重し、相手が自分の気持ちを打ち明けたときは、「この人はこういう人だから」と決めつけて相手の気持ちを否定しないようにしなくてはいけない。我が子にも、他人にも「そんなの気にしすぎだよ」などと言ってはいけない。状況によって、誰でもそうなるものなのだから。それを表に出すか出さないか、だ。

 ここで、スウェーデンの歌手インゲマル・オルソンの歌詞の一部を紹介しよう。

「私がどんな人間か決めつける前に、私の靴を履いて1マイル歩いてください。あなたのいつもの生活を離れて、私が見ているものをあなたの目で見てください。私の靴を履いて1マイル歩いてください。今日一日、私の道を歩いてください」

スニーカーを履いて森の中で歩く人

自分の考えをすぐ言ってはいけない

 対話中にバリデーションをする場合、相手の気持ちや意見をそのまま受け入れ、理解し、尊重しよう。その意見に賛成する必要はないが、その人が自分の問題をどう解釈しているかは尊重しよう。この時点では、こちらの考えや感情、問題そのものについて話してはいけない。少しのあいだ保留しておこう。

 私たちの頭のなかでは、常に対話が行われている。これは、他者の話を聞いているときも止まらず、同時に進行する。

 内なる声は、何を言うべきか、どうふるまうかなど、さまざまな提案をする。思考や感情を止めるのが難しいのは、そのためだ。私たちは、そういうことに慣れていない。

 だが、バリデーションをするときは、自分を「ゼロ」にして、相手の世界を完全に受け入れ、自分の世界や視点、感情を一時的に切り離さなければならない。

 親身になって相手の話を聞き、アイコンタクトをとろう。また、相手の非言語の表現もくみ取ろう。相手の考えに共感するような短い言葉を何度かかければ、相手の発言を肯定していることが伝わる。

 気の済むまで話を続けさせて、感情や思考をすべて吐き出すのを許そう。相手の言葉をそのまま受け入れることが大切だ。意識して相手の立場に立つこと。バリデーションをしているあいだは、相手の視点で考えなければならない。そして相手の問題を理解していることを示す言葉を何度かかけて共感を示そう。

人は、他者との相互関係があってこそ真の人間として存在できる。

マルティン・ブーバー(ユダヤ人哲学者)

<本稿は『あいては人か 話が通じないときワニかもしれません』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shutterstock


【著者】
レーナ・スコーグホルム(Lena Skogholm)
行動科学の研究者。講演家、教育者。年に80回近く講演や講義を行い、スウェーデンで最も人気のある講師100人の1人に選ばれた。温かさとユーモアにあふれる語り口と、明快でわかりやすい解説には定評があり、2021年には、スウェーデンのすぐれた講演者に与えられるStora Talarpriset賞を受賞した。25年にわたり研究を続ける脳科学にもとづいた人づきあいのメソッドは、職場や私生活で今すぐ役立つツールとして、高く評価されている。
本書『The Connection Code』(Bemötandekoden:konsten att förstå sig på människor och få ett bättre liv.)は、スウェーデンで発売と同時に売上ランキング上位に入り、ベストセラーとなった。国内外で話題の本となっている。

【訳者】
御舩由美子(みふね・ゆみこ)

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