落語家が名前を変えながら成長していくのを知っていますか
落語家として一人前になるまで、どのくらいの時間がかかるのでしょうか?
デキるビジネスパーソンが教養として押さえているのが、日本の伝統芸能である落語。「枕」「本題」「オチ」といった基本構成や主な登場人物と同じくらい知っておきたいことの一つが落語家の「出世階級」。独特の世界があります。
まるで出世魚のように、名前を変えながら成長していく落語家たち。『ビジネスエリートがなぜか身につけている 教養としての落語』から、お届けします。
落語家の出世階級、「前座」「二ツ目」「真打ち」
落語家が師匠に弟子入りし、「一人前の落語家」と呼ばれるまでに、通常は十数年間もの歳月が必要です。
サラリーマンの世界も同じかもしれませんが、落語界には確固とした「階級制度」があり、誰もがそのコースから逃れることはできないのです。
ただしカンのいい人の場合、速いペースで出世していくこともあります。
平たく言うと、落語家はまるで出世魚のように名前(身分)を変えながら、進化していきます。
その形態は、次の四つに大きく分類できます。「前座見習い」「前座」「二ツ目」「真打ち」です。このうち、最初の「前座見習い」を省略した3つを「江戸落語の三階級」と呼ぶこともあります。
それぞれの身分を端的に説明してみましょう。
「前座見習い」とは、その名の通り〝見習い〟の身分のことです。落語家になるための基礎を学びつつも、師匠や兄弟子などのお世話をすることが大きな仕事です。とはいえ「寄席の楽屋には、まだ入れない」というルールがあります。「前座見習い」から「前座」になるまで1年ほどかかります。
「前座」は、寄席で最初に高座(落語家が演じるステージのこと)に上がる身分のことで、初めてお客さんの前で落語を演じられるようになります。楽屋に入れるようになるのも大きな特徴です。「前座見習い」的な仕事に加えて、師匠や兄弟子などのアシスタント的な役割を果たします。「前座」から「二ツ目」になるまで2〜5年間かかります。
「二ツ目」は寄席の番組で、2番目に高座へ上がる身分のこと。自分自身の落語会を開けるようにもなり、活動範囲がより広くなります。「二ツ目」から「真打ち」になるまでは約5〜10年間かかります。
「真打ち」は「落語家として一人前」という身分のことで、落語界の階級の最終ゴールです。寄席では、トリ(最後に出演するという大事な役目)を務めたり、弟子をとったりすることもできます。「師匠」と呼ばれる人たちはみな、「真打ち」です。通常、「真打ち」になるまでには、「前座見習い」から平均で15年前後の歳月を要します。
前座見習い
↓ 約1年
前座
↓ 2〜5年
二ツ目
↓ 5〜10年
真打ち
上方落語には「階級制度」は存在しない
興味深いことに、このような階級制度は、東京を中心とした落語界独自のものです。大阪を中心とした「上方落語」の世界には、階級制度は存在しないのです。
ただ、上方落語にも「前座」に相当する下積みの期間はあり、「年季」という関西版の名称で呼ばれます。
「年季(奉公する約束の年限)が明ける」、つまり下積みの前座の時期が終わると、あとはもう「売れたもん勝ち」という自由競争の荒波に放り込まれます。
<本稿は『ビジネスエリートがなぜか身につけている 教養としての落語』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shuttestock
【著者】
立川談慶(たてかわ・だんけい)
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