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自分の失敗も誰かの失敗も、過去はほどよく忘れて

京都にある、小さなクリニック。ここで診察にあたる91歳の心療内科医、藤井英子さんの言葉が話題になっています。

日々、訪れる患者さんに届けているのは、からだと心がラクになる処方箋。人づきあい、老いとの向き合い方、健康管理など、生きることのあらゆることについて、「これは忘れていい」「これは大切に」という切り口で71の生き方のヒントをまとめたのが『ほどよく忘れて生きていく』。累計13万部(2024年2月時点)のヒットになっている本書より一部抜粋、再構成してお届けします。

『ほどよく忘れて生きていく』(サンマーク出版) 藤井英子
『ほどよく忘れて生きていく』


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過去はなるべくカラッと忘れて

<いいことも悪いことも、ほどよく「忘れる」ほうがいい気がします。過去の勲章を常に身につけておくより、「そんなことより、今」とさらりと生きる姿に憧れます。>

 自分の失敗や、誰かの失敗。悪いことをいつまでも引きずらないのはもちろんですが、過去のよかったことすらも、ほどよく忘れるくらいのほうが、人生を楽しく歩ける気がしています。

 過去のすごい功績、実績、経験。もちろんそれは時間をかけて自分が積み上げ、磨き上げた宝であることは確かです。でも、それをいつまでも勲章のように胸元に身につけておくよりも、「そんなこともありましたね」と、ときどき、言われて思い出すくらいがちょうどいい気がします。

 自分の意識は、過去ではなくいつでも「今」に向けていたいと思うのです。

 30年以上にわたり、病院やクリニックで精神科医として勤務し、多くの患者さんと接してきましたが、今の私の気持ちは、「そんな精神科医としての実績はさておき」というのが正直なところです。

 今は漢方薬を主として心の病気を治療するという、新しいチャレンジの真っ最中だから。目の前の患者さんがどうしたらよくなるかを、日々懸命に考え、実践することで頭がいっぱいです。

 いいことも、悪いことも、過去はなるべくカラッと忘れて、いつだって新しいことに挑戦している、「今」がある人でいたいな、と思っています。

失敗を避けるのではなく、自分をすぐにゆるせるか

<失敗したと思ったら、挽回のために動くこと。動くうちに失敗を忘れていることも。誰かの失敗も忘れてあげて。>

 誰にでも失敗はつきものですから、失敗したらすぐに気持ちを切り替えて「じゃあこれからどうするか」を考え、動くことです。

 大切なのは、失敗を避けることではありません。失敗をしたときに、自分をすぐにゆるせるかどうかだと思います。

 自分のことをゆるせない人は、ずっと自分を責め続けます。すると「あのときこうしていたら」「また失敗したらどうしよう」と、過去と未来ばかりに意識が向き、今に集中できずに、心は疲弊していきます。

 私自身は、最近ではこんなことがありました。任天堂スイッチのCMを見て、孫たちが仲よく遊んでくれたらと、プレゼントしようと思い立ちました。「家にある?」とだけ聞いたところ「持っていない」との返事。でも、いざ贈ったところ、高価すぎるというのと、もっと安い方法で購入しようとしていたのに、と叱られてしまいました。

 孫たちの喜ぶ顔をという一心でしたが、相手の事情を汲くまずに先走ったことを少し反省しました。でも、あまり気にしない私は、そのことすら、忘れてしまっていました。思い返すと返品はされなかったので、実際は使って楽しんでくれているのかもしれません。

 また、自分の失敗はもちろん、誰かの失敗も、忘れるに限ります。失敗したとき、一番落ち込んでいるのは本人ですから、そこにさらに矢を放つ必要などありません。

<本稿は『ほどよく忘れて生きていく』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

【著者】
藤井英子(ふじい・ひでこ)
漢方心療内科藤井医院院長。医学博士。現在も週6で勤務する91歳の現役医師。1931年京都市生まれ。京都府立医科大学卒業、同大学院4年修了。産婦人科医として勤めはじめる。結婚後、5人目の出産を機に医師を辞め専業主婦に。育児に専念する傍ら、通信課程で女子栄養大学の栄養学、また慶應義塾大学文学部の心理学を学ぶ。計7人の子どもを育てながら、1983年51歳のときに一念発起してふたたび医師の道へ。脳神経学への興味から母校の精神医学教室に入局。その後、医療法人三幸会第二北山病院で精神科医として勤務後、医療法人三幸会うずまさクリニックの院長に。漢方薬に関心を持ち、漢方専門医としても現場に立ってきた。89歳でクリニックを退職後、「漢方心療内科藤井医院」を開院。精神科医と産婦人科医としての視点から、心のケアに必要な漢方薬を処方することを人生の役目とし、日々診察に当たる。「心配には及びませんよ」「大丈夫ですよ」という声かけに「それだけでほっとした」という声も多い。精神保健指定医。日本精神神経学会専門医。日本東洋医学会漢方専門医。

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